命からがら
少年たちはひたすら、青い空をいくアテもなく進んでいった。やがて日が完全に落ちて暗い夜が訪れた。
そんなに進んで、ようやく月光に照らされている島が見えた。
「サグ! エボット! 島が見えた! あそこに停めて!」
「分かった!」
エボットだけがテリンの叫びに答えて見せた。
サグは少し考え込んでいる様子だった。
「エボット! 普通に港に付けるんじゃダメだ! 森とか山とか! 他の隠れやすい所に停めよう!」
「あ? なんで!」
「島長が言ってたろ!? あの神軍ってのは犯罪者を取り締まるって! 不法停泊で捕まっちゃそれこそだよ!」
「!! OKだ!!」
わかりやすい理由を並べられ瞬時に理解する。
確かに港に止めるには手続きが要る、だがこんな時間ではそれはできない。あとはサグの言う通りだ。そのまま向かっていた方向を変えて島の外周を回り込むように操作する。
適当な森が港の反対側にあった、そこに無理やり停泊させることにした。
「テリン! 頼む!」
「オッケー!」
今度はテリンが仕事をする番だった。船室に行って準備をする。
少しの旅の間に比較的自由に動けていたテリンは船内のことを大体調べていた。
船室の一つ、大体船首のあたりに、レバーがあった。それを下ろすと槍型の錨が発射できるようだ。
空での旅の途中でさまざまな機能を確かめる時、軽い気持ちで実験して戻すのが大変だった。
(戻す方法はレバーを戻すだけだった)
同時にサグも操縦室を飛び出し、槍型の錨の側に向かった。ちゃんと刺さったか見届けるためだ。
「いくよ!」
レバーを思いっきり引いた。大して重くなかったおかげで女の子であるテリンでも簡単に引っ張ることができた。
船の側面から錨が発射された。錨は島の壁面、島の土に突き刺さった。
レバーを戻して鎖を戻す。そうすると船が島のすぐそばに固定される。
「これでいい……のか?」
「ああこれでいい」
エボットが船室から走ってきて、錨と船の壁面の状況を確認する。
様子を見て安心した表情を浮かべると、サグに顔を向けた。
「父さんから聞いたことがある、港も整ってない時代の船はこうやって船を停めていたそうだ」
「そっか」
サグが力無く呟くように言った。そして崩れ落ちるように船のへりに背を預けた。
「サグ?」
「ちょっと……つか……れ」
「サグ!!」
そのまま横に倒れた、サグを心配してエボットが駆け寄る。しかし聞こえてきたのは一定リズムの息の音。
「寝てる?」
二人の様子を見て、駆け寄ってくるテリン。サグは疲れが出てしまって寝ているようだった。サグの様子を見て二人は安心で大きく息を吐く。
「んだよ人騒がせな……」
「あ……やば、安心したら眠気が……」
「疲れてんだろ?慣れないことしたからな」
エボットは倒れているサグを支えるように肩を起こした。
「寝れる部屋は無いのか?」
「あったよ、ベットがいくつか」
「おしそこ行こう」
そのままサグを支えてテリンの案内を受けて部屋へと向かう。
甲板から船室に入ってすぐが操縦室だ、航行に必要なさまざまな機械や操縦用のレバーに舵輪がある。奥の壁にある階段から中に降りると、リビングの役割を持つであろう部屋がある、そのすぐ左の扉が寝室だ。
ベッドが五つ置かれていてクローゼットにもまだまだ布団があった。テリンが素早くクローゼットを開けて布団を引っ張り出す。
「おいそれ大丈夫なのか?」
「何が?」
「カビとか」
「それがさ」
引き出した布団を勢いのままにベッドに叩きつけるように置く、多少埃が舞った。しかしカビ特有の嫌な匂いや積もったハウスダストの異常な埃も見えない。
「この布団新しいみたいなんだよね」
「新しい?」
「そうそう、布団の柄とかも島の布団屋さんで見たことあるし」
「まじか……」
言いながらサグをベッドに寝かせる、テリンが布団をかけるとその柄をよく見てみる、確かに布団屋で見たことのある装飾だった。
「へえ……なんでだろう……昔から変わってないから、とかか?」
不思議そうにエボットが布団を撫でた。
「なあテリン」
反応はなかった。テリンもすっかり疲れていたようで音もなく眠ってしまっていたのだ。
少しため息を吐くと優しく布団をかけてあげた。そして自分も限界であったことに気づく。目に手を当ててクラリとよろめいてしまう。
(やべ……クソ眠い……)
ほぼ倒れるようにベッドへと崩れ落ちた、そして一瞬の間も置かずに意識を手放す。夜の闇が島々を包む中、少年たちはようやく惨劇の一日を終えたのだ。