赤の宝石
しばらくして話を終えた二人は船内に戻ることにした。
まだ時間はあったものの、あれだけ話をしたのと、イリエルの状態を見たディオブが戦い続ける気にならなかったからだ。
フラフラしているイリエルを後ろで見ながら、ディオブも追いかけるように船室へと戻った。
扉を開けて階段を下ると、リビングに当たる場所で、三人が身を乗り出してテーブルを囲んでいた。
「どうした?」
不思議に思ったディオブが声をかけると、三人は振り返り、テリンが覗き込んでいたノートを見せてくれた。
ノートは随分前に話題にしたオリアークの資料だった。
「改めて読み直してたんだ、なにか情報無いかなって」
そう言ったテリンからイリエルがノートを受け取った。
イリエルは途中から合流したが、ノートの内容を全部チェックし、内容を全て把握しているのだ。
ペラ、ペラとめくってみるが、もちろん新しい情報などはカケラも無く以前見たままの状態になっているのだが、それでも何か新しい発見がありそうなのはこのノート特有の魅力というものなのだろうか。
「新しい情報で気になるのはこれなんだけど」
サグがリリオウドを出る直前に貰った箱を取り出した。
ディオブの力でも開かないその箱は時間が経った今でも開かず、ただ静かに部屋の隅っこに置かれていた。
新しい要素を入れられる人間が居るとすればそれはミラだが、ミラは今疲れて眠ってしまっている、わざわざ起こすのも酷だろう。
ディオブはノートを覗き込み、その上をさらりと撫でた。指先に特に新しい感覚があるわけでも無く、ごく一般的な紙の感覚がするだけだった。
「うん、まやっぱり新しい事は無いな、紙だ」
ディオブの言ったあまりに当たり前のことにイリエルは小さく笑ってしまった。
その時、リビングの扉がキィと音を立てて開いた。
目覚めたミラが扉を開いたのだ。起きたばかりで眠い目を擦り、一歩一歩集団へと近づいて来た。
「どうしたの?」
「ああ、今このノートをさ」
そう言った時ミラが一歩前に踏み出した。
すると突然ノートから眩しい光が発された。驚いたイリエルは思わずノートを落としてしまう。
光が部屋を満たし、床に落ちて誰も触れていないはずのノートのページが勝手にペラペラ捲られていく。
眩しいはずなのに、なぜか捲られている光景を認識できている。
その現象には見覚えがあった。随分前だが、ほとんど同じ状況が前にもあった。
光が落ち着くと、ノートの真っ黒だったはずのページから黒いモノが消え、新たにはっきり文字が刻まれていた。
サグは少し震えながらノートを取った。全員が側に集まり、その文字を見ようと集まった。
「テリン、頼む」
「うん」
テリンはじっとそれを見た。
しばらく翻訳に時間を使ったが、しばらくノートを見たテリンはうなづき、サグからノートを受け取ってテーブルに置いた。
全員が側に座り、意味こそわからなかったものの文字を見つめていた。
「オーケー翻訳できたよ」
「お願い」
「まず初めに『おめでとう、レッドプラネットを手に入れたな』ね」
その瞬間、サグの心臓がうるさく跳ねた。
やはりオリアークは今の時代を見透かしているかのようだ。全ての文章が状況をピタリピタリと言い当てている。
ぞっとした感覚を覚えながら、サグはテリンの次の言葉を待った。
『子供たちよ、旅は始まった、これから先は、旅が急加速するぞ』




