新しい課題
全員の進行度から、ディオブを相手に三対一での実践修行を開始した。
魔法及び身体強化の使用は無し、その代わりに動いている間、常に体内の魔力を把握し操作し続ける事を条件としている。
ディオブには魔力を探知できないので、イリエルが三人の魔力を感じ取っている。
しかしこの特訓には一つ辛い条件が存在している。
それはディオブのみ、魔法の使用が許されている点だ。
ただでさえ高いフィジカルとパワーを持つディオブが体を固める事ができる。そのアドバンテージは計り知れない。
ディオブの魔法で硬化された拳を、サグはギリギリで回避し蹴りを脇腹に、まるで鎌のように蹴りこんだ。しかしディオブの腹部も鉄属性で硬化されていて、あまりダメージらしきものは無かった。
「サグ! 魔力が乱れてる! 身体強化発動してるわよ!!」
腕を組むイリエルに指摘され、サグは小さく舌打ちをした。
サグの実力はかなり高いレベルまで来ている。魔力を平行でコントロールするのも、修行するごとに練度を増している。しかしこの技術はレベルが中々高い。元からコントロールが得意だったイリエルはともかく、サグとエボットはかなり苦戦している。
今も、ディオブが雑に振り回した腕に、エボットは両腕のガードの上からとはいえ、思いっきり当たってしまった。
少しだけ空中に浮き、二、三メートル離れたところに着地した。
腕全体がビリビリ痺れる感覚にエボットは軽く涙目になった。
「だぁぁぁ!! いいってぇ!!」
「エボットは魔力に集中しすぎ! 攻撃喰らってれば意味ないわ!!」
腕をブンブン乱暴に振り回し、エボットは再び投資の炎を燃やした。
テリンは魔力に関して突っ込まれることは無かったが、今一歩ディオブに対し踏み込めなかった。
三人の中で一番フィジカルに劣り、基本的な筋力も低いテリンでは、中途半端に攻撃すれば圧倒的な隙を晒すことになってしまうのだ。
それを普段は魔法や身体強化で乗り切っていた。
出した拳は簡単に見切られ、仲間を囮に当てた攻撃は躱す事さえわざとされず、自分の弱点をむざむざと見せつけられている気分だった。
テリンがイライラしている事に少しも気づかずサグが仕掛けた。
ディオブの意識がサグに向いたその隙に、テリンは小さくジャンプをした。
(そこっ!)
ディオブの首の裏側、うなじのあたりに全力の蹴りを入れた。
蹴りはしっかり命中し、体勢、蹴りの勢い共に自信を持てるものだった。
しかし綺麗に決まった一撃は全く効いている様子は無く、ディオブは銅像のようにそのままだった。
「軽いぞテリン」
「そりゃごめんね!」
腕を振り回したディオブの攻撃を回転ジャンプで回避する。
悔しさもさることながら、二人に負けたく無いという闘争心が、テリンの体を動かしていた。
そんな三人を、ミラはイリエルの隣で見つめていた。
「ミラ、どう? 魔力を操作できそう?」
「……わかんない、感じはするけど難しいよ」
「そっか……」
イリエルはミラから自分が知らないところで起こった現象の事を全て聞いていた。
そしてその現象からミラのポテンシャルを見抜いていた。
しかし今ミラにあるのは圧倒的な魔力量だけ。コントロールする技能がなければまず魔法を作る事さえ叶わない。はっきりコントロールができていなかったからこそ、初めて出会った時、情けない水鉄砲のように水を発射したのだ。
ミラの才能は有り余るほどに、しかし技術が伴わない現状に、イリエルは最高にやりがいを感じていた。
(ミラのその才能、必ず私が伸ばして見せる)
四人同時平行の修行は、それぞれに熱を帯び、それぞれの目標を明確にしていった。




