強烈な敗北感
全ての戦いが終わった。
ボロボロの少年たちはまず、新たなる島のリーダー元老に導かれ、唯一無事な集落である森の隠れ砦に入った。
一番ボロボロになったサグはエボットに肩を支えられなんとか歩いていた。
勝ったというのにミラ以外のリエロス号メンバーの表情は晴れず、自分の失態を虚しい心と共に噛み締めていた。
アリオットに勝てなかった。その事実が、全員の表情を固くしていたのだ。
砦に入っても、島民はほとんど誰も居なかった。島が解放されたとわかり、荒らされた島の確認をしに行ったのだ。
ケルが手をまるで指揮棒のように振った。すると島の木々が動き出し、砦の中に再び建物が作り出された。豆腐のように四角い木材色の簡単な作りの建物だ。
全員が入ると、やはりというべきか床だけの簡素すぎる空間が広がっていた。
リエロス号の仲間達が一列になり、その隣にミラも座った。
戦闘していた三人には不思議だったが、正面に座ったケルの雰囲気に圧倒された。
というよりも同じ感覚がしたのだ。今の島を伝えた元老の雰囲気と。
「この度は、滅びかけたこの島を救っていただき……ありがとうございました……」
ケルの土下座は驚くほどに洗練された物だった。作法に精通した老齢な男のような動きだ。
元老と対面を果たした三人は、ケルのその動きに元老の影を脳内で重ねていた。
呆気にとられる三人を放置し、年長組のディオブとイリエルは両手を付き、ゆっくりと頭を下げた。
「いえ……こちらも大した活躍は出来ませんで……」
ディオブの動きに合わせて三人とミラも慌てて頭を下げた。
「出来たのは追い出すことだけです……傷つけられた落とし前をつけることができなかった……」
ディオブの声はひどく申し訳なさそうだった。
その負い目はサグも同じだった。違うところがあるとすれば、サグは今回雑魚を除き単独での勝利を収められていない点にあった。
サグは自分の実力に一定の信頼と自信を持っていた。
戦いにおいて自分を信じることは間違いなく良いことである。しかし過信はいつだって禁物だ。その事実を経験者であるほどに深く知っている。
だがサグには経験が足りなかった。敗北の経験が。
勝ち続け、真っ直ぐに進み続け過ぎていた。ゆえに生まれた驕りが過剰な自信をサグに与えていたのだ。
その事実を噛み締める時間はたくさんあった。頭を下げる今の瞬間も、苦しくてたまらなかった。
「いえ、追い出していただいただけでも十分以上です……我々だけでは対抗できないほどの脅威でしたから……」
「この島はこれからどうなるのでしょうか?」
イリエルが少し強い口調で尋ねた。
元々優しい心を持ったイリエルだ。この島の生態系が気になる部分もあるのだろう。
敬語になっているのはこの場の真面目な空気に支配されているからだろうか。
「状況を確認してから、生きているノアガリがいれば拘束し、落ち着いてから神軍を呼ぶつもりです」
「そうですか……」
イリエルの心の中は、この場の全員がよくわかっていた。
神軍が来るとなれば今すぐにこの場を去らねばならない。
ここまで島のために戦って追い出される事への理不尽さも感じていたが、今の島の状況を思えば神軍を呼ぶのも当然の判断であった。
「大したお礼もできませんが……お渡ししなくてはならない物があります……」
ケルはすっ、と手をサグたちへと伸ばした。
すると小さく建物が振動し始め、木材の床に小さな穴が空いた。
そこから現れたのはベタな形の宝箱だった。
「これは?」
「元老の隠し財産という名の、オリアークのノートです」




