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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
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進化するアリオット

 ディオブとアリオットは睨み合っていた。

 お互いの距離を測りつつ、お互いの実力を知っているが故に踏み込む事ができない。

 戦いにおいて最ももどかしい状況に陥ってしまっているのだ。

 ディオブの脳内にあるのは苦々しい敗北の記憶、自分が完全な状態で勝てなかった最悪の記憶だった。だからこそ、そこまでの実力差を証明しておいてアリオットが責めてこない理由が分からなかった。

 理由は単純だった。アリオットは極めて疲弊していたのだ。

 ディオブとの戦いから休む暇はあったものの、表面的な体力を回復させる事ができたのみで、魔力の回復や完全に休み切り体力を回復し切る事ができなかったのだ。

 表面的に回復した体力と残り少ない魔力もサグとの戦闘で消えてしまった。

 アリオットは自分とディオブの実力差、というよりも力の違いを理解している。だから踏み切れないのだ。


(私の戦い方は魔力消費が激しい……ディオブと会って悪癖が再発したか……)


 アリオットは本来数値化できない自分の魔力を、膨大な戦闘経験と磨き抜いた感性から、指標など無い魔力をほぼ正確に数値化する事に成功していた。

 だからこそ、サグとの戦闘中普段以上の数値で消費される魔力に苦しんでいた。

 正確に分かるからこそ、面倒だったのだ。


(全く羨ましいよ……生まれながらの超パワーなんて……)


 アリオットの筋力は決して高くは無い。だからこそ格闘戦において常時硬化していられなかったのだ。

 常時硬化せず抑えた魔力を身体強化に回し、一撃一撃の威力を上げていたのだ。

 そして磨き抜いたテクニックとメンタリティから正確に攻撃を繰り出し続けた。考え続け、そして戦術を導き続けたのだ。

 対するディオブは身体強化の必要性が無い。

 生まれながらにして得たパワーと、生まれながらにしてあるディフェンス。

 ディオブの魔力消費はアリオットに比べて驚くほどに少ない。


(本人が生まれながらを呪いと思っているのがまた……)

「アリオット……ケリつけるぞ……」


 痺れを切らしたディオブが睨んだ。

 アリオットは小さくため息を吐いて、それから右腕だけを硬化させた。


「もっとゆっくりやろうよ……疲れたよ」

「お前みたいにヘラヘラしてられねぇんだよ!!」


 ディオブは両腕を硬化させて走り出した。雑に走るディオブの目は鋭く、アリオットの一挙一動を細かく観察している。

 それを理解しているアリオットは、突き出してきた拳をわかりやすく横に回避した。

 もちろんそのわかりやすい動きを見逃さない。腕をそのまま横薙ぎに振るった。

 アリオットの狙い通りだ。

 アリオットはその腕を中心に軽く飛び、くるりと一回転して回避した。

 狙いを理解した時にはもう遅い。アリオットの硬化された拳がディオブの胸に当たった。

 続いて一瞬で後ろへと回り、膝の裏に蹴りを喰らわせた。関節が曲がり当然体勢を崩される。

 回転踵蹴りをこめかみへと放つ。


「ワンパターンだ!」


 しかし良いようにやられているディオブも生半可では無い。自分のこめかみを狙う蹴りを察知し、瞬時に手を出して止めた。

 そのままアリオットを投げた。

 空中で回転しつつ綺麗に着地したアリオットのすぐ目の前に距離を詰めたディオブが迫る。


「お前もね」


 走るディオブの顔に思いっきり右拳を放った。ディオブは自分の速度と合わせた威力の拳を真正面から受けてしまった。

 顔から後ろに弾き飛ばされ、鼻や口から血を吹きながら飛ばされてしまった。

 意識は保っているが、骨折を疑うほどのダメージを受けているのは間違いなかった。

 だがアリオットのダメージも大きかった。

 攻撃を受ける瞬間、ディオブの硬化が間に合ったのだ。アリオットの拳が硬化されていたとはいえ、ディオブは顔面を通常以上に硬化させていた。

 普通の感覚に直せば、分厚い鉄に思い切り拳を叩きつけたようなものだ。割れた部分から素肌が覗き、血がダラダラと流れ落ちる。

 それでもアリオットは、笑っていた。

 自分の一撃が、最も憎らしい相手に当たった事に酔いしれ、溢れる歓喜に身を任せている。


「楽しいよディオブ……ここで殺そう」


 アリオットの笑みは、狂気を孕んでいた。

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