表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
174/304

元老 ケル

「まず初めに旅があった……自由に空を旅したいという……当たり前の願いが」


 元老が語っている最中も、いまこの場に魔力が集まっている感覚がした。

 イリエルは思わず地上の方を見上げる。異常な程の魔力が来る先を察したのだ。

 しかも感じる魔力は建物内で瞑想らしき事をしていた者たちの物と同じだった。だが盗聴で聞いていた限りでは、周囲の者たちはこの島を守るために魔力を消費していたはずだった。だというのにここに魔力が流れて来ているのは異常事態と言わざるを得なかった。

 

「私はオリアークと共に旅をした……まだ見ぬ場所へ行きたいと思い……この島を飛び出した……」


 イリエルは目を閉じ、正確に魔力を感じ取ろうと集中した。

 魔力は徐々に二人が触れるクリスタルへと集まっていたのだ。そしてクリスタルからこの空間に放たれて、周囲に埋まっている小さなクリスタルへと吸い込まれていった。

 イリエルが感じた流れはおそらく正確だ。しかし小さなクリスタルに触れ調べようという気にはならなかった。

 だから、ミラがふらふらとクリスタルに触れに行こうと思った時、思わず強く肩を掴んでしまった。


「痛っ!」


 勢いよくかつ強く掴んでしまったせいでミラは顔を顰めてしまった。

 その声に反応するように、イリエルはばっと手を離した。


「ごめんね、強くやっちゃったわ」

「大丈夫……でもどうして?」

「あのクリスタル、異常な魔力が集まってる……触れるべきでは無いわ……」


 イリエルはレッドプラネットに触れた時の事を思い出していた。

 あの時とは若干条件が異なっているが、起こった現象は魔力が体内に流れ込んで来た事だ。

 ミラの負の感情を吸収した事がダメージの原因になった事は聞いていたが、異常な魔力に触れても無傷で済むとは思えない。だからこそミラを止めたのだ。

 イリエルの真剣さで納得したのか、ミラは小さくうなづいた。


「私たちはたくさんの場所を旅し、多くの仲間を得た……そして知った……”淵”の正体を……」


 ポツリとつぶやいた元老の言葉が、イリエルの耳へと飛び込んできた。

 大きすぎるその衝撃に、首が捻じ切れそうなほど早く元老を見て、次の瞬間には叫んでいた。


「”淵”の正体!? 待って! ”淵”はただの雲じゃないの!!?」


 叫んだイリエルに、元老は優しい顔で振り向いた。


「そうだ……”淵”は雲さ」

「はっ?」


 元老の言葉が理解できずに一瞬だけフリーズしてしまう。

 固まったイリエルを見て、元老は少しだけ上品に笑った。

 

「常識だよね、だが常識だからこそ疑いはしないんじゃ、生まれた時からあるからねぇ」


 誰が聞いても違和感があるほどに元老の口調は乱れ始めている。

 一種の恐怖を感じながら、イリエルは元老の次の言葉をまった。

 イリエルを見つめ続けていた元老はすっ、と目線をミラへと向けた。親が子を慈しむような優しげな目だ。


「”淵”の正体は私たちが旅で得た答えの一つに過ぎない……多くのことの内のね……」


 なぜだか切なくなるその表情に、イリエルは思わず服の胸の辺りを握りしめた。

 その瞬間、元老の腕がクリスタルに飲み込まれた。まるで水に入るかのようにぬるりと、入り込んでいったのだ。


「もう時間が無い……プラネットを集めなさい……それが旅を先へ進めてくれる……美しい旅の”果て”へとね……」

「待って! まだ聞きたいことは!!」



 イリエルは走り出し、クリスタルへと近づいていった。

 あと少しのところで、元老はクリスタルへと完全に飲み込まれ、大量の魔力がクリスタルから弾けた。

 あまりの魔力にイリエルは吹っ飛ばされ、まるで坂を転がる岩のようにゴロゴロ転がった。

 少しの間、光が地下空間を満たし、光が消えたその場所でケルが一人佇んでいた。


「ケル……なの?」


 思わず漏れた声には疑いが混じっていた。だがそれも仕方ないだろう。イリエルはケルから人とは思えない魔力を感じていた。

 それは量もそうだが、何よりも質が人間らしく無い。人間であるならば感じるはずの魔力の特徴のような物が、ケルには一切無かったのだ。


「ええ、僕ですよ」


 ケルは自分の手を見つめながらそう言った。まるで自分が自分であるのか疑っているようだった。

 服も髪も顔も肌も瞳も全てが変わらない。だというのに、雰囲気だけが少しだけ違っていたのだ。

 ケルは上を見つめた。見つめているのが何かわからなかったが、いい物では無いと察せる。


「始めましょうか、僕が元老、ケルだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ