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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
171/304

心地よい進化、そして

(遥かに離れた場所で異常な魔力が膨れて弾けた……まさかとは思うが……)

 

 アリオットはほぼ正確に事態を把握していた。

 少し離れた位置から感じた魔力の動きは、調べに調べ尽くし聞いていた現象だった。

 狙っていた事態が労も無く起こってくれた。アリオットは自分の作戦がぐんと進んだのを確信した。

 だがそこへ向かおうと思っても目の前の少年が邪魔をする。今も鉄の腕で防いだ攻撃から、さっきよりも強力な電流が流れてきた。


「邪魔だな」

「お前だろ!!」


 全力で振り回した腕で裏拳を放つが、サグは完璧にその拳を見切り、しゃがむ動き一つでそれを回避した。

 低い体勢から足首を刈り取る。背中から地面に転ぶアリオットはほんの僅かな空中でサグを蹴った。

 反射で出した腕でそれをガードしたが、ほぼ関係なく地面を滑りながら距離を取られてしまう。

 ダッシュしてサグに近寄り、勢いそのままの蹴りの体勢を作る。サグはそれに対し魔力を流した剣でのガードを構える。しかしアリオットはブレーキからサグの肩を掴み、回転しながらのターンで背中側に回った。そのまま両肩を掴み、思いっきり背中に膝を叩き込まれてしまう。


「かっはっ!!」


 サグの喉にヒリヒリする液体が込み上げてきた。全力でそれを飲み込み、鳩尾を狙って肘打ちをした。

 だがあったその位置はすでに硬化されていた。痛んだのはサグの肘の方だったのだ。

 歯軋りを一度した後に今度は肩甲骨を思いっきり殴られた。殴られた瞬間に骨折したと分かった。

 フラフラしながら何とかアリオットの方を見る。アリオットはすでに目の前に迫り、今度はサグの顔を狙っていた。

 身体強化のおかげでそれを紙一重で躱し、雷の力を剣に纏わせた。

 バチバチとうるさく弾ける剣を握りながらアリオットに迫る。だがアリオットはサグを笑った。


「ワンパターン! いい加減飽きるよ!!」


 アリオットはサグの剣を上半身だけを反らして回避する。だがその時気付いた。サグが剣を片手で握っている事を。

 次の瞬間、太ももに感じる燃えるような痛み。ナイフが刺されていた。

 段々と十八番になりつつある、サグの騙し討ちだ。

 ナイフの柄に手を添えて電流を流す。ただでさえ電気が流れやすい部分もあるというのに、体内から電流を流されてしまった。ダメージは今までと比較にならない程大きい。

 

「がああああああ!!!!」


 アリオットは全身をくねらせながら耐える。

 攻撃を考える余裕さえも今は無い。とにかくサグを引き剥がさなくてはならなかった。

 痙攣する腕を無理やり動かし、ハンマーのようにサグに振り下ろした。

 サグの肩に見事命中したが、痙攣で力が入らない上に、硬化をしていないせいで威力がだいぶ落ちている。アリオットの最大級に慣れたサグからすればお遊びのような威力だった。

 

「くっそぉぉぉぉ!!」

「メッキが剥がれたなクズ鉄野郎!!!」


 煽りつつサグは剣を手放した。

 そして剣を持っていた手に残りの魔力を全て集める。最後の最後、全ての魔力を集約した弾丸を放つ。

 全ての力を使い果たした先はゾッグ戦で経験している。だとしても、ここでやらなければ死ぬのみであった。

 サグはこの瞬間、自分の魔力を完全に支配していた。

 痺れているアリオットに指先を向け、完全にロックオンした。


「プラズマバスター」


 小さな言葉と共に放たれた弾丸。勝利を確実に内包した一撃は、アリオットが首を曲げた事で終わった。


「なっ、あっ」

「素晴らしい威力だった……だが故に足りない、安定性」

 

 アリオットの言葉をどこか遠くで聞きながら、サグの意識は暗闇の中に消えていった。

 消えた電流に少し安堵しながら、アリオットは自分の太ももからナイフを引き抜いた。

 当然大量の血が流れるが、それを手のひらから発生させた光を当てて傷を塞いだ。光属性の魔法だ。

 アリオットは自分の後方から足音を聞いた。アリオットからしてみれば、非常に聞き慣れた足音だった。


「遅かったね、ディオブ」


 振り返ったアリオットは、怒り一色のディオブと向き合い、少しだけ笑った。

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