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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
170/304

封印

 元老の交代。

 これから起ころうとしている事が何か分からなかったが、サグたちの会話を盗み聞きして元老という物がどう言う役割を果たすのかは知っている。

 元老に新たなる人間が選ばれる。相当に重い事態が起ころうとしているのが、浅い知識のイリエルにもよく理解できた。

 だがいくつか疑問点もある。それを質問しなくては、この状況を許容することはできない。


「元老の交代って言ったわよね、なんで今なの?」


 元老に投げかける質問としては、イリエルの中で一番適切な物だった。

 平たくいえば今この島は大ピンチ。だというのにわざわざそんな儀式をする必要があるとは思えなかったのだ。

 元老はゆっくりとミラを見つめた。いきなり見つめられたミラは不安げに手を胸の前で握った。

 ゆっくりと元老はミラに近づいた。敵意は無い事は分かっていたが、ミラの怯え具合を見て、イリエルは思わず元老に攻撃を仕掛けてしまいそうになった。

 ある程度近寄った元老は、ミラの腰を、正確には腰の布袋を見た。

 

「ミラ、レッドプラネットは持っておるな?」


 はっ、として体を震わせたミラは、腰の布袋から赤く光るイリエルのトラウマ、レッドプラネットを取り出した。

 それをイリエルは眉間に皺を寄せて、少し嫌そうに見つめた。

 ミラは元老にそれを渡そうとしたが、元老は手のひらで拒否した。


「そのレッドプラネットは完全な存在では無い」


 元老はレッドプラネットを指差してそう言った。

 だがイリエルには、この美しく輝く赤の宝石が”不完全”と言われても納得できなかった。

 

「我々……というよりも、私がはるか昔の時代から封印してきたのだ」

「私が?」


 明らかにおかしい。イリエルが盗み聞いていた話では、元老はオリアークの時代よりも少しずれているはずだ。その上にレッドプラネットはこの島で古くから封印され、記録がまともに残っていないほど古い物だったはず。


「……あの時、彼らに言った事には嘘が含まれる……」

「えっ?」

「私は、オリアークの友だ」


 そのたった一言が持つ意味は大きい。イリエルが一瞬それ以外の音が聞こえなくなったほどだ。

 瞳を少し震わせながら元老を見つめた。元老はその瞳の意味を理解し、重く頷いた。


「オリアークは冒険の中で、九つの宝石を手に入れ、冒険の後で各場所に封印した、私が受け持ったのが……レッドプラネットだったのだ」

 

 元老が語る言葉が事実なのであれば、これは大きすぎる”果て”へのヒントだ。

 暗がりに見えた一筋の明かりのような拙くも確かな希望がイリエルの目の前にあった。

 だがまだ情報量が少なすぎる。イリエルはここで情報を得る事が自分の役割だと理解し、交渉に力を入れる事に決めた。

 

「封印っていうのは?」

「飛空核石との同化という元老のシステム自体はオリアークの時代よりも古くから存在していた、わしはその力を利用し、レッドプラネットをこの島に封印したのじゃ」

(なんだ? 口調が安定していない?)


 情報を頭に入れつつもまた別のところが気になってしまう。

 だがさらに与えられた情報もまた重要だった。不完全という言葉の意味がようやく分かってきた。


「私の命はもうすぐ終わる、その前に約束を果たさなくてはな」

「約束……」


 元老が自らの心臓に手を当てた。

 その瞬間、建物の空間の全てに高密度の魔力が満たされた。ミラの魔法が子供のお遊びいかに感じるほどレベルが高い力だ。


「これ!!」

「元老様……!! なんて魔力を!!」

 

 ミラは圧倒されて言葉も出ず、イリエルの語彙力は魔力に押し殺されてしまった。

 

「これがレッドプラネットを封印していた魔力じゃ……ワシ本来のな」


 イリエルにはもはや言葉もなかった。

 今までに無いほどの圧倒的な魔力、格が違うなんて言葉では表しきれない程の差を感じ取ったのだ。


(恐らくこれ程の魔力があれば……アリオットさえも……)

 

 イリエルの感覚がそれを答えとして導き出していた。

 魔力は空中で渦巻き、塊となって弾けた。

 その瞬間、レッドプラネットから黒い何かが立ち登り、空中に消えていった。


「これで封印を解いた……続いて、元老交代の儀を執り行う」

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