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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
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全力の一瞬

 走り出す二人。まず素早く仕掛けるのはディオブの方だった。

 フォルテは腰を落として構え、二人を同時に迎え撃つ姿勢を整える。

 ディオブはまず拳を繰り出した。硬化され、自分さえも握りつぶさん程に全力で握ったその拳、まるで巨大な岩のような錯覚を与えながらフォルテに迫った。

 フォルテはそれを余裕で回避し、体勢を完全に保ったままディオブにさらに近づいた。

 腕の範囲のさらに内側、ディオブ自身の体が邪魔になって戦いにくい位置に入り込んだのだ。

 ここまで来て両腕に毒の魔法を展開し、抱きつく様な攻撃を仕掛けた。こうする事で全身に毒を与える事ができるのだ。

 完全に内側に入り込んだこの体勢で防御する術は無い。

 フォルテはそう確信していた。

 しかし現実は違う。

 突然地面を這う炎がフォルテの足元を焦がした。

 少し離れた位置から、地面に手をついたテリンが魔力を地面に表面で這わせフォルテの足元に移動させたのだ。

 まるでコンロの上のようだ。しかしそこにある熱や苦しみはコンロの比では無い。

 フォルテはその時、また別の事実にも気づいていた。


(こいつ!! 私の毒の魔法の理論を利用している!! 聞いただけのイメージオンリーでか!!)


 テリンはこのような魔法は使えなかった。しかし自分が倒れた時、フォルテが丁寧に解説してくれた理論を利用して、一瞬で自分のイメージを組み上げた。

 フォルテは今この瞬間もテリンに打ち込んだ自分の毒属性の魔法を感じていた。

 つまり魔力を使っている今この瞬間もテリンは耐え難い苦しみを味わっているはずなのだ。だというのにフォルテの足元は火属性の魔法で焦がされていた。


(なんなんだこいつは!! 全身が痛く無いのか!?)


 悲鳴を上げたい、叫び出したい気持ちを感じながらフォルテはテリンを睨みつけた。

 それに反応するかの様に、足元の火力が一瞬にして上がった。

 まるで自分を逃さないようにと立ち上る火の壁。完成したそのエリアの中で、フォルテは自分のミスを悟った。

 目の前のディオブがこの一瞬で完璧な体勢を作っていたのだ。

 足を開き、腰を落とし、まるで弓の様に引かれたその拳、まさしく正拳。美しいその整ったフォルムに、フォルテは一瞬走馬灯を見た。

 森中に響き渡ったのでは無いかと思うほどの風切り音と共にディオブのシルバーメタリックに輝く拳が迫った。

 テリンはその音に勝利を確信した。

 しかしフォルテとて歴戦の戦士、その状況に対応できないわけじゃ無い。

 フォルテはなんの抵抗か、左腕を後ろに伸ばした。殴るわけでも無く伸ばした腕は火の壁を貫通し、炙ってくれと言わんばかりに腕は空間を跨いだ。

 

「ぐっ、くっぐっく!!」


 腕を圧倒的な熱に焦がされる。しかしこの状況で腕を引っ込めるわけにはいかなかった。

 熱さと痛み故に流れる汗を無視して、フォルテは何も無いはずの空間を握った。

 するとフォルテはなぜか完全に物理法則を無視し、後ろに引っ張られるかのように動き出した。

 そのせいで火を貫いたディオブの拳は空を殴り飛ばした。

 テリンは異常極まった状況で混乱したが、ディオブは即座に状況を理解した。


(なるほど!! 飛び回っている間に念属性の糸を蜘蛛の巣の様に!! それを巻き取り自分を逃したのか!!)


 冷静に状況を理解し終えたディオブは走り出す。

 地面に足跡のスタンプを刻む程に素早く力強いダッシュに、フォルテは手のひらを見せつけて応じた。

 手のひらから魔力を変換した毒液が放出された。

 両者の視界を覆うほどの大量の毒液は重力に従い、ディオブへと襲いかかった。

 まるで獲物を喰らう蛇だ。ディオブも、側から見ていたテリンでさえも錯覚してしまった。


「うぅぅぅぅあ!」


 ディオブは地面を殴った。

 殴りにより発生した大量の土砂が毒を防御し、弾き飛ばしたのだ。

 異常の上にさらに異常。さすがのフォルテも言葉を失った。

 言葉を戻したのは、音の衝撃。

 乾いた音が聞こえ、次の瞬間に腕を貫かれた。

 銃を構えたテリンが、正確に腕を貫いたのだ。

 続いての弾丸が腹部に命中した。胃を破られた事によりフォルテは吐血してしまう。


「ラスト……弾丸」

 

 小さく呟かれたその言葉は、なぜか二人の耳に強く響いた。

 テリンは銃を構え、銃弾に魔力を込めた。

 全力で込められたその魔力は、銃弾の威力を底上げする魔法へと変換された。


「ありがとう、私は進化に感謝する」


 だからこその原点。

 炎を纏った弾丸が、フォルテの頭部を貫いた。

 フォルテは空中から地面へ、虚しいほど力無く、無機質に落ちた。

 勝利。

 最高の二文字が、テリンを自然と咆哮へ導いた。

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