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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鉱山の島アクマンス編
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拳と剣

 睨み合う二人の男、神軍曰く、”冒険者”ディオブ・テンベルタム。相対するは神軍、ヘリオ・ポルトナク。

 二人は火花どころではないほどに、鋭く睨み合っていた。偶然にも二人に挟まれる形になってしまった三人は、どうしていいのかもわからず、ただ混乱してしまっていた。


「けっ、こんなとこまで追ってくるなんざ、ずいぶん優しいじゃねえか神軍様よお」

「貴様のような危険人物を放っておくわけにはいかん……ここで捕まれ!」

「やだね!」

「意地でも捉える!」


 ヘリオは剣を構えながら走り出した。目にはハッキリとした殺意が宿っていた。

 わずかで、それでも強力で鋭い風を肩に感じる、正体はすぐに視界に飛び込んできた。サグの後方から飛び出したディオブが、ヘリオの剣と拳をぶつけ合ったのだ。まるで鉄同士がぶつかったかのような音が洞窟内に響いた。


「その魔力と力!やはり噂通りだな!」

「ああ!?力なら張ってんじゃねえか!!」


 二人は、剣と拳で押し合っていた。両者かなりの力で押しているのか、二人の足元にヒビが入っている、昨日雨が降ったわけでもないのに、どんどん足が地面へと沈み込んでいっている。地面が二人の力を支えきれずに押し負けているのだ。事実を理解した時、サグは自分が汗を流していることに気づいた。

 ディオブが一瞬力を緩めた、そのせいでヘリオの体が少しだけふらついた。一瞬の隙を逃さず、ディオブは膝を脇腹に叩き込む。


「!!」


 だが簡単にはいかない、蹴り込んだはずの膝は、反射で繰り出された肘に止められる。ぶつかり合ったのは人間の体のはずなのに、重く鈍すぎる音はどうにも人間の音には聞こえない。


(くっ……!!肘が砕けそうだ!)


 痛みに苦しみながらも、変わりそうな表情筋を必死に押さえ込ん余裕を演じる。反対の、剣を持っている腕を思いっきり後ろに引く、まるで弓を射る動作だ。真っ直ぐに心臓を狙って構えた切先を、隼の如く勢いよく繰り出した。だがその剣が心臓に刺さることはなかった。体重を後ろに移動して、膝蹴りの体制のまま浮いていた足で地面を蹴り、全力で後ろへと飛び退いたのだ。

 結果としてお互いに怪我をすることなく一瞬の攻防は終わった。だが戦闘の時間とは対照的に、二人とも額から汗を流していた。常に命を狙った攻撃をした、緊張感と消費する体力は平常時とは比べ物にならない。


「貴様……戦闘慣れしているな……一体何人の同胞を傷つけたのだ!!」

(そしてこの殺気の薄さはなんだ?本当に何人もの同胞を倒した男か?)


 ヘリオはディオブから感じる気配に違和感を抱いていた。ヘリオは長く神軍として働き、それだけ多くの犯罪者たちを捕らえてきた。だからこそ、それら悪人の放つ殺気や悪意に関しては人以上に敏感だ。

 しかし目の前のディオブから敵意や怒りを感じていても、全く殺気を感じず、戦闘中だというのに、忘れきれないほどの違和感を感じていた。


「知らねえよ!!吹っ掛けられた喧嘩は買ってぶっ倒しただけだ!」


 色濃い怒りをディオブから感じた。しかしやはりヘリオには殺気だけは感じることができなかった。


「何度ぶっ倒してやってもハエみたいにやってきやがって!!」


 軍人の心に、ずっと感じていた疑問が、吹っ飛ぶほどの怒りが湧き上がった。軍人は歴戦だけあって同時に誇り高かったのだ、そして戦友の大事さを、よくよく知っていた。だから、侮辱を決して許さない。


「同胞をハエ呼ばわりするな!!」


 駆け出して、鋭く刃を命へ向ける。苛立った顔のまま、ディオブも応戦した。再び剣と拳がぶつかり合った、今度は一撃では無く、何度も、何度もお互いの武器を叩きつけ合う。ぶつかり合う金属音が洞窟に響き続けていた。

 三人は見慣れない光景に空いた口が塞がらず、ひたすら傍観する事しかできずにいた。


「なんだこれ……なんで拳が剣とぶつかり合えてんだよ……」


 エボットの至極当然な呟きはサグとテリンの耳だけに入って、あとは金属音に巻き込まれて消えていった。だからこそ気づかなかった。神軍の下っぱたちが、静かに、ゆっくりとこちらに近づいてきていることに。

 一瞬だけ、甲高い金属音の中に、サグは土と靴が擦れる音を聞いた。


「!!」


 振り向いた時にはもう遅い、神軍が三人後ろに立っていた。一瞬早く気づいて、サグだけは飛び退いたが、二人は無理だった。首を抑えて、剣を向けられて捕まってしまう。


「テリン!エボット!」


 サグの全身に鳥肌が立った、恐怖に何度も悪寒がした。汗が背中を伝う、指先が急激に冷えていくのがよくわかった。


「動くな!!!」


 エボットを抑えている神軍の男が叫んだ。その声はさっきのエボットの声とは違って、戦っている二人の耳にも届いたようだった。二人は動きを同時にぴたりと止める。


「動くなよディオブ・テンベルタム! 動けば仲間の命は無い!」

「!!」


 目が大きく開かれ、怒りに歯を強く噛み締める。しかし、すぐに歯を食いしばるのをやめた。


「やめろ!! そいつらは巻き込まれただけの一般人だ!!」

「嘘をつくな! この状況! 四人で殺し回ったんだろ!!」


 神軍のサグを捕らえ損ねた兵士が、剣で辺りを指した。周囲にはサソリにやられてしまった荒くれたちの死体が散乱している。


「違う! サソリにやられたんだ! サソリの数と生態に関する知識不足だ!」

「サソリを言い訳に使うな! このゲスが!」

「話聞けっつのアホめ!」


 ディオブは説明を続けるが、神軍の下っ端は聞く耳を持たない。完全にサグたちは仲間認定されてしまっているようだ。

 視界から完全に外れたことを確信したヘリオは、剣をディオブの顔に目掛けて突き出した。完全に意識外からの攻撃に、ディオブは反射で体を逸らして対応した。その大勢のまま、鋭く相手を睨む。


「ガキ巻き込んで楽しいか?」

「……疑わしきは罰する」


 突き出された剣の刃を、無造作に素手で掴む。一切血などは流れなかったが、流石にヘリオも度肝を抜かれた。


(うっ、動かない!?)


 握られた剣は、引くことも前に押すこともできない。

 握っているディオブの目は鋭く、その鋭さに背筋に嫌な感覚がした。


「ふざけてんな神軍野郎……! 俺は理不尽が一番嫌いなんだ」


 剣を握っている手に、驚くほどの力がこもっているのがヘリオにはよくわかった。少しずつ肘を曲げて、上へと剣を持ち上げていく。一切、その動きに抗うことができない。

 ピキッ、と聞きなれない音をヘリオの耳は聞いた。


「よ!!」


 次の瞬間、ヘリオの剣は砕けた。握られていた部分は、まるで砂つぶのように粉々になってしまった。

 あまりに人間離れした光景に、その場の誰もが硬直し、一言も発せなくなってしまった。


 ディオブは苛立った様子のまま、硬く握った右拳を、左手の手のひらに叩きつけた。なぜか、その拳には妙に圧倒されるオーラがあった。

 神軍たちは、全員警戒しながら数歩分距離を取った。


「ブラックミスト!!」


 握っていた手のひらを開いた、手のひらからは漆黒の煙が出てきた。煙は一瞬で鉱山内を真っ黒に満たし、全員の視界を塞いだ。


「うわっ!?」

「なんだ!?何も見えない!!」


 混乱の声が辺りから聞こえてくる。サグ自身も真っ暗な中で、自由なだけにどうしていいのかわからなくなっていた。


「テリン!エボット!」


 二人の名を叫ぶ最中、突然自分の体が持ち上げられた。


「抵抗すんな、静かに行くぞ」


 ディオブの声だ。かけられた声は優しく、少しだが安心することができた。サグは特に抵抗すること無く、そのまま自分を抱えているディオブに身を任せた。

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