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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
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テリンの課題

 サグはこの島で成長した。そしてそれと同時に今のサグは不安定だ。

 今までサグは敗北という物を経験した事が無かった。

 テリンの知る限り故郷の島ではそうだった。

 エボットを殴り合いの喧嘩をした事はあったが、幼い二人でははっきりとした勝敗が付くほどの実力などは無かった。テリンと口論になる事もあったが、幼い子供の語彙と理解量ではバカバカ言って泣いた後に握手をすればそれで良かった。

 あまりに閉鎖的だった故に島外と関わる事もあまり無く、サグは閉鎖的な環境で敗北を知らず成長していた。

 故に今回の敗北がサグに与えた影響は表しようが無い程に大きかった。

 テリンから見てそうなのだ。サグの中にある見えない部分ではもっと大きな影響を与えている事だろう。

 テリンはエボットも同じ事を感じ取っていると確信していた。だからサグの受けた大きすぎる影響に対し、自分達は冷静でなくてはならないと確信した。

 

(燃えたぎるような敗北感を味わいつつ、その中にある成長の蜜を味わう……)


 今までに無いその感覚が、テリンの魔法に確信的な進化をもたらし始めていた。

 元々習得していた身体強化を使い、かつて味わった二人に対する成長の敗北感を糧に進む。

 テリンはすでに、敗北を知っていた。

 屋根を蹴り、まるで弾丸のように自分を発射する。未だ爆発に混乱するノアガリの群衆に、テリンという弾丸は突っ込み大きな衝撃を与えた。


「うわぁぁぁ!!」


 吹っ飛ばされた雑兵の一人をテリンは蹴り飛ばし、まるでボール遊びでもするかのように他のノアガリに当てる。

 ぶつかり合った二人は弾かれ、空中で血まみれになりながら回転した。

 襲撃者であるテリンを確認したノアガリの一人は銃を抜き撃鉄を起こした。

 その動作を見ていたテリンは発射される前に体を動かし、銃弾の軌道上から体を逸らした。その予測通りに銃弾は外れ、土の中に銃弾はめり込む。


(なっ! こいつ銃弾を躱した!?)


 実際は違うが、魔法も使えず体術のレベルも低いノアガリからすれば、予測では無く見切りで銃弾を躱したように見えてしまったのだ。

 そしてテリンは動揺の隙を逃さない。

 足元を狙い転ばせ、地面に転がってから脇腹を蹴り飛ばした。その時点で、再帰不可なほど、内臓にダメージが与えられていた。

 蹴り飛ばされたノアガリは地面スレスレを駆け、他のノアガリ達の足を払い転ばせた。


「テンメェ!」


 後ろから剣で狙われた。しかし比較的細身な剣だ。

 テリンは地面に手を付き、足で振り下ろされる前の剣をキャッチした。


「なっ!」

「今なら……できる」


 テリンの小さな呟きに反応するように、テリンの両足に炎が灯った。

 長い間課題だった足からの炎。ただ燻る程度の炎では無く、全てを燃やし尽くす程の大火。

 イメージはブーツ、炎でできたブーツだ。

 すでに完成している。


「フレイムビエーデ!!」


 両足から発射される大火が、ノアガリの男を焼きながら吹っ飛ばした。

 男は真っ黒になって壁に叩きつけられた。

 人が一瞬で炭と化した。異常極まったその光景に、ノアガリ達は思わずテリンから距離を取ってしまう。

 対するテリンは高揚感に溢れていた。自分が課題を乗り越えた達成感、そして未だ強くなり続ける自分への期待だ。

 油断からアリオットに気絶させられた最悪の自分の間抜けぶり。嫌になっていたところにこの成長は自分への期待を取り戻すちょうど良い鍵になってくれた。

 ニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、成長した力を想いのままに振りかざす。


「付き合えよ……死ぬまで!!」


 両足に纏う炎は力強く、燃え盛るブーツは命を切り裂く。

 身体強化と超温度の炎、二つが合わさった時、人体程度ならば簡単に切り裂ける力となっていたのだ。

 腕を切られた男からは血が流れない。なぜなら炎で止血されたからだ。しかしその瞬間強化された拳が肋を砕い死へと導いた。

 足を切られた男は理解できず空を落ち、次の瞬間の蹴り上げで真っ二つとなった。

 腹を蹴られた男は言うに及ばず。内臓そのものを焦がされ絶命した。

 逃げようとも優先的に殺され、剣で切り裂こうとも鉄を溶かされ、唯一の希望であった銃弾も予測により躱され、凶暴な炎の獣は、五分もかからず蹂躙に成功した。


「ふぅ……」


 小さく息を吐いた瞬間、テリンはガクリと膝を折った。

 圧倒的な威力を誇っていた魔法だったが、想像以上にテリンの魔力を消費してしまっていたのだ。

 使用した最初の頃から魔力消費を察したテリンは短期決戦に全てをかけ、アクションが大きくなってしまっていた。そのため体力そのものも大きく消費してしまっていたのだ。


「疲れ……」


 少し休もうとしたテリンの脳を、明らかに自然では無い臭いが覚醒させた。

 突然聞こえるクラップ音、森から聞こえ近づいてくる。


「いやぁ、すごいですね」


 拍手をしていたのは、アルトの父親だった。

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