蛮勇の勇気
時刻はサグとミラが別れた時まで戻る。
サグの指示を受けたミラは走り、テリンかイリエルを探していた。
幸運にも敵らしき人に遭遇しなかったが、それでもどこを目指して良いのかすらわからなかった。
角を曲がった時、家と家の隙間から見覚えのある二人が走っているのが見えた。
「テリンお姉ちゃん! イリエルお姉ちゃん!」
ミラは二人に向かって叫んだ。
後ろから大声で呼ばれた二人は走る足を止め、急ブレーキをかけながら後ろを振り返った。
そして見つけたミラへと二人は歩いて近寄る。
二人は気づかなかったが、イリエルの瞳の奥底に、仄暗い憎悪に似た警戒があった。
「ミラ! どうしたの? エボットに逃がされたんだっけ」
テリンはミラの体にペタペタと触れた。見て触ったところ体のどこにも怪我らしき物は無かった。確認できたミラの無事に、テリンは僅かに胸を撫で下ろした。
「うん、今までこの集落で隠れてたの……」
言いながらミラはキュッと服の端っこを握りしめた。
その拳の震えを見たテリンは、ミラの恐怖を察した。
自分たちを解放した時もそうだが、ミラの勇気は異常だ。
なにせ銃や剣を持った大人を相手に立ち回り、今もどこからそいつらが現れるかわからない場所で走り隠れていた。その恐怖は戦える自分たちとは想像を絶する事を、テリンは理解したのだ。
「怖かったから私たちを探してたの?」
優しい口調で目線は下から、故郷で年下と接する機会の多かったテリンは、震える小さい子への対処の仕方を心得ていた。
「ううん、サグお兄ちゃんから連絡」
「えっ? サグから?」
黙っていたイリエルが、突然現れたサグという名前に少し大袈裟なほどに反応した。
「うん、サグお兄ちゃんがイリエルお姉ちゃんと地下に向かってって、ディオブお兄ちゃんはそこに居るかもって!」
テリンとイリエルは同時に首を曲げ顔を合わせた。
お互いに目から鱗という顔をしており、地下の存在を思い出していた。
しかしイリエルは少しだけ不安だった。自分がミラと二人になる事よりも、サグがテリンに与えた役割を察してしまったからだ。
だがそれはテリンも同じ事だ。自分の役割を理解し、イリエルに一度だけうなづいた。
「大丈夫だよ」
言葉の無いそのメッセージを受け取ったイリエルは、力強くうなづいた。
「ミラ、行こう」
「……うん」
ミラはうなづいたものの、テリンを一人にする事を不安がっているようだった。
それを察したテリンはミラの肩を掴み、ぐっと顔を寄せた。
「大丈夫、私は強いよ?」
自覚している虚勢だ。
気を抜けば手が震えてしまいそうだし、何よりも自分が強く無いと自覚させられてしまった。魔力の残りも少ないし、民家をあさっている時に武器庫を発見したとはいえ銃弾も心許ない。
それでも、目の前の少女に不安を与えるわけにはいかなかった。自分の持てる精一杯の虚勢で、ミラを送り出す事に決めたのだ。
自分の肩にぐっとかかる力。テリンのメッセージを受け取ったミラは、小さく笑って歩き出した。
民家の中に消えていった二人を見て、テリンも足音がする方へ走り出した。
森からは大量のノアガリ達がこちらへ歩いてきていた。ざっざっと無作法に地面を踏み荒らし、わざとらしいほどに荒々しくこちらへ来ている。
テリンは魔力を銃弾に収束させ、狙いを定めた。
「技名決めてないけど、撃つ!」
放たれた弾丸は地面に当たり、船を破壊した時と同じ大爆発を起こした。
ノアガリ達はその爆発に吹っ飛ばされ血や悲鳴をあげた。
「さて、私も開戦だ!」
テリンは不敵に笑った。




