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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
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示す覚悟は誰のため

 爆発で生じた煙の中から現れたイリエルは、冷静に甲板を見回し、今がどういう状況であるかを察した。

 そして面倒であるという事も。

 正直イリエル自身も相当疲れていた。ゾッグとのバトル以前に大量の雑魚を相手していたからだ。

 魔力不足も感じていたが、戦わねばならない。仲間のため、自分を信頼し受け入れてくれている者達のため、イリエルは甲板へと降り立った。


「ごめんごめん、遅くなった」


 イリエルの笑顔は不敵で、そこに一切の不安はないように見えた。

 しかしサグにはその笑顔が妙に不安で、不安定なものに見えてしまった。その勘が正しいと感じていても、目の前の窮地に立ち向かわねばならない。生まれた疑問をグッと押し殺し、サグは剣を握り直した。


「ガッ!」


 少し離れた場所から声がした。

 見ると、エボットが首を掴まれアリオットに持ち上げられていたのだ。


「イリエル……君はこれ以上戦って良いのかい? 君は確かに腕利きだが、戦闘向きではないだろう?」

「……それでもやるっきゃないのよ……私が……戦うと決めたから!」


 イリエルは怒りを滲ませ、アリオットの元へと走り出した。

 アリオットは少し残念そうで、その上にめんどくさそうな顔をして、持っていたエボットを放り投げた。イリエルはエボットを念属性の魔法で受け止めて柔らかく放り投げる。


「うおお!!?」


 まさか放り投げられると思っていなかったエボットは、空中を回転し、ひらりと甲板へ降り立った。

 イリエルはそのまま走る。アリオットに近づいた、その時だ。急にイリエルの雰囲気が変わった。走る足は風を纏い、振る腕は必死ささえ感じさせる。明らかに以上な程の雰囲気の変化、それを感じられたのは普段から接している三人と、強者であるアリオットのみ。 


「ふっ!」


 軸足で体を支え、回転しながら放った蹴りは素早く、周囲のノアガリ達は見切る事さえできない。

 しかしアリオットは冷静に硬化した腕で蹴りを受け止める。

 二人がぶつかり合った時、イリエルの軸足を支える木材は衝撃に耐えかね砕けた。

 完全にガードされてしまった体制からイリエルは足を引っ込める。その隙を逃さず、アリオットはガードと拳を繰り出した。

 顔すれすれでイリエルは拳を躱し、両腕でそれを掴む。そして掴んだ瞬間に両腕でジャンプした。


「ズダダダダダダダダ!!!」


 空中に上がったその瞬間に、無数にも思える程の蹴りが連続してアリオットのボディに叩き込まれる。

 もちろん硬化していたものの、あまりの攻撃回数に流石のアリオットも表情を歪め頭を下げた。

 一瞬蹴りが止んだ。そう思ったアリオットが顔を上げた時、目の前には二つ並んだ靴の裏があった。


(しまっ!)

「はああっ!!」


 両足を同時に繰り出し顔面に食らわせた。すでに両腕をアリオットから外していたことで、アリオットは壁に後頭部から突っ込んでしまった。

 バギャァと木材が砕ける音がして、ようやく周囲は現実を理解した。

 全員がアリオットが突っ込んだ場所を向いた時、イリエルは舌なめずりをした。


「こっこのぉ!!」


 状況を理解し終えたノアガリの一人は、まずイリエルに切り掛かった。その向かい側にいたノアガリは銃を取り出し、禁止されていた殺しを行おうとした。

 しかしそのどちらも叶わない。

 銃は激鉄を起こす前に弾き飛ばされ甲板を転がった。

 そして金属が落ちるカシャァンという音がした瞬間、攻撃を加えようとした二人は目を見開いた。

 目の前には二人の少年、剣を振り下ろそうとした男はサグの剣によって痺れ、銃を撃とうと思った男はエボットの純粋な拳によって殴り伏せられる。

 イリエルの横に突然現れた二人によって一瞬で倒されたノアガリ達は、ブラックアウトする意識の中で後悔を呟いて消えた。


「……さすがサグさんですね」


 純粋な賞賛の言葉を送りながらサグを見るアルト。その心に嘘偽りが一切無いと感じたから、サグは余計に腹が立った。


「え? アルト? なんで?」

「そういえばイリエルは知らなかったな」

「あ〜……あとで説明するよ」


 サグはめんどくさそうな顔をして言った。

 ガラガラと音がして、木材の山からアリオットが現れた。端正な顔からは僅かに鼻血が垂れ、顔や体のそこかしこに擦り傷があったが、その表情はひどく楽しそうだった。


「はっはっはっ!! いいねイリエル!! 次はどう来る!?」

 

 その態度はまるで新しいおもちゃをもらった子供のよう、それでいて敵対する四人の脳裏にはアリオットの戦闘力が深く刻まれていて、あふれんばかりの恐怖を与えられていた。

 だがしかし、それを振り払うかのように、イリエルは小さく笑った。


「こんなのはどう?」


 イリエルはいつの間にかノアガリからくすねた手榴弾を持っていた。

 そして口でそのピンを抜いた。


「なっ」


 声を漏らしたのはサグだった。

 サグ、テリン、エボットは走り出し、まっすぐに岸を目指す。


「幸運を」


 放られた手榴弾は、数瞬もおかず爆発した。

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