新しい銃弾
サグは剣に電気を纏わせ、全力のダッシュで攻撃を仕掛ける。
振り下ろした剣をアリオットは腕で受け止めた。鉄属性の魔力で硬化させた腕だ。
しかしサグの魔力はアリオットの腕を伝い、全身に流れた。鉄は電気を通す。属性相性の問題だった。
「くっ」
電流を受けたアリオットは、反射的にサグに蹴りを放つ。ギリギリ腕でのガードが間に合ったもの、サグは凄まじい威力に押され、テリンとエボットの元へ戻されてしまった。
肌に残る赤い蹴りの跡を見て、サグはお互いの力の差を悟ってしまった。
(俺どころか、エボットですらアリオットのパワーには負けてる……けどディオブに比べればなんて事も……)
ディオブと比べ、力の差を誤魔化そうとしたが、腕の痛みがそれを許さない。
一連を見ていたテリンとエボットは、アリオットのパワーに驚きながらも、自分たちのやるべき事を理解し始めていた。
おそらく三人合わせてもアリオットには勝てない。ならば戦える仲間が必要である。勇み足気味のサグを抑えるためにも。
二人はうなづき合い、すぐに動き出した。
「サグ! スイッチ!」
エボットはサグの方を掴み、思いっきり後ろに引っ張った。すれ違いざま驚いた顔が見えたが関係ない、腕を氷で覆い、アリオットへ迫る。
「俺が相手ダァァァァ!!!」
素早さと柔軟性のサグからパワーファイトと防御力のエボットに。
まっすぐ繰り出された拳はアリオットの硬化された肘に衝突する。
氷は鉄と肘の威力に負け、ひび割れてしまった。ニヤつくアリオットに、エボットは「それが狙いだ」とばかりに笑いかける。ヒビの修復のためにアリオットの肘ごと氷を張り、アリオットを捕らえた。
「ほぉ?」
サグの時と違い、アリオットは少し面白そうにするだけで、その態度がエボットには面白くない。
苛立ちを一切隠さず、鳩尾を狙って全力で膝蹴りを繰り出した。しかし想像よりも硬い衝撃が足に響く。服で見えなかったが、腹が硬化した事をエボットは理解した。
「どうだい?」
「小手先!」
エボットは叫ぶと同時に腕の氷を解除し、全力の回し蹴りを放つ。
想像外のスピードにアリオットの腕は対処しきれず、こめかみを硬化させてギリギリガードするのが精一杯だった。
回し蹴りは炸裂し、硬化させたアリオットのこめかみを、エボットの踵は蹴り飛ばした。
体の端っこにかかった衝撃をいなしきれず、アリオットはごろごろと転がりながら甲板の縁に衝突した。
全てを見ていたサグは、なぜ自分と交代したのか理解しきれず、次にテリンを見る。
「サグ! 今から新しい技使う! ちょっと時間稼いで!」
テリンの言葉で状況を察し、サグは周囲のチンピラ達に飛び出した。
テリンは己の銃を見つめ、改めて自分が得意とする魔法を思い出す。
銃弾へ魔力をチャージし、そこで自分の属性である火属性でブーストをかける。それだけでは単発の威力しか確保できなかったという事で、蹴り用の魔法を開発するつもりだった。
しかし今はそうではない。純粋に高めた一発の威力、銃弾の持つ傷つけるのみの力ではなく、破壊を追い求めた魔法らしい力。
(イメージは爆弾……エストリテで見た爆発の魔法)
ゆっくりと魔力を送り込みながら、記憶にある恐怖をゆっくり思い出す。
自分が恐れた技だからこそ、最大の威力、その効果性をよく覚えている。
(着弾した場所で爆発するように、全てを吹っ飛ばせる様に)
「死ねやぁ!」
「お前がな!」
テリンを殺そうとしたノアガリがナイフで迫った。サグはそのナイフを電気を通した剣の腹で受け止める。
電気がナイフを伝い体に流れ、その瞬間にサグの拳が顔面を砕いた。
ナイフで迫ったノアガリは鼻血を流しながら倒れ込む。
「テリン! !!」
迫られた事で集中が乱されたのでないかとテリンを見る。しかしテリンは目を閉じ、自分の魔力とイメージに集中していた。
自分にかけられた信頼を感じたサグは、ニッと笑いながら走り出した。
(魔力を惜しみはしない……破壊さえできればそれでいい)
だんだんと魔力が飲み込まれているのを感じた。そしてイメージが形になる感覚も。
銃口を向ける先はアリオットが指した部屋、両手で銃を支え、自分の魔力に負けない様に構える。
「ああああああああ!!!」
叫びと共に放たれた弾丸はまっすぐに空を進み、壁へと着弾した。
着弾の瞬間に、テリンの予想通り爆発が起こり、木片をあたりへ吹っ飛ばす。
「ゴホッゴホッ! なっ何!?」
爆発の煙の中から、腕に手錠をつけたイリエルが現れた。




