独白
ノアガリの創設メンバー、その言葉にどれだけの真実があるかは分からなかったが、少なくとも聞き逃して良い話で無いことはわかった。
サグは思わず振り返り、テリンと顔を合わせた。
目を合わせた二人は、お互いの意思を理解し、話を引き出す方向に決めた。仕事はサグが話術での情報引き出し、テリンは周囲と男の警戒だ。
「作戦そのものの後悔……スカウトしたって事は、お前がこの作戦を立てたって事じゃ無いのか?」
「……そっから……先を語ってやるのは……水をよこしてからだ……どうせ……牢屋に鍵はかかっちゃねえ……」
サグはテリンをチラリと見た。
テリンはサグの意図を理解し、牢屋の格子に直接に触らず、銃でそれをゆっくりと開けた。言った通り牢屋に鍵はかかっておらず、そこには食料と水が入っていた。テリンはボトルを一本取り、それをサグに投げ渡した。
サグはボトルの蓋を外して、男の前に出す。
「取引だ、情報を話す代わりに水を飲ませてやる、でなければ」
サグはボトルを傾けた。水は素直にドポドポと床に溢れていく。
男はその光景をなんの感情もなく見つめていた。
そしてボトルの水が全て溢れ、水滴がポタポタと落ちるのみになった。
「ハイと言わなければ、全てのボトルがこうなる、体を曲げて舐める事もできないだろ?」
サグは最後に凄みを効かせて言う。僅かな経験の中で培ったテクニックの一つだ。
男は喉で音を叩く様に笑い、体を震わせる。
「良いだろう……よこせ」
テリンはもう一本ボトルを投げた。
男は相当長い間水を飲んでいなかった様で、まるで乾いたタオルの様に水をよく吸収していく。喉が完全に乾いた様に見えてもまだ飲んでいたのだ。
ボトル一本を飲み干して、ようやく男は落ち着いたようだった。
「助かったぜ……体調最悪だがな、まあ助かる事を」
関係ない話を展開しようとした男に、サグとテリンはまた銃口を向けた。
「やめろ、さっさと質問に答えろ」
「……わかった……作戦立案をしたのは、アリオットのやつだ……」
予想通り、といえばある意味そうなのだが、ノアガリの男が発した言葉は確信のレベルが違った。
欲しかった確信を元に、サグは次の言葉を組み立てる。
「なら作戦の内容は?」
「ノアガリによるリリオウド襲撃作戦だ、アリオットは世界でも指折りの価値を持った宝石があると言っていた」
「元から所属するメンバーでは無く、新たにチンピラを雇った理由は?」
「そういう作戦だったとしかな、俺は人員管理を担当している、自然と作戦に絡む事になった」
サグは男の言葉に違和感を覚えた。
そういう作戦だった、と言ったが、わざわざ外部から人を雇うなんてコストがかかる。その上、すぐに制圧する事に成功しているが、仮に逃した住民が神軍へ助けを求めれば大きな戦闘も考えられる。その時雇ったチンピラでは力という面でも連携という面でも不安が残る。
現状、矛盾のある作戦に感じられた。
「おかしいだろ」
「だよな、外部から人を雇わずとも、ノアガリには多くの人員がいる、それこそハッ、島々を殺し回れる程にな」
男の最後の態度には苛立つが、それも冷静に情報を確保しなくてはならない。
サグの次の質問は、どんどん革新へと迫っていく。
「もっと詳しい作戦内容を話せ」
「……ここまでだ」
「何?」
「……俺の知る作戦内容はここまでだ」
その時、さすがのサグも驚きを隠しきれなかった。
作戦の伝達は組織である以上重要な事だ。その上この男は人員の管理担当、という事は、作戦の内容全てを知らないのに協力した事になる。
「なんでそんな状況で作戦に協力した?」
「上からの命令だった……それだけの事」
「上から……創設メンバーに命令できる程の」
「はっ、その創設って言葉ももはや飾り以下……重荷にしかなってねえ……」
男の態度には、もはや諦めすらも宿っている。その言葉の奥に何がどれだけ潜んでいるか分からなかったが、何か背後暗く、悲しい者が潜んでいる事は間違いないと感じた。
この状況下で、サグの勘が警戒せよと告げている。
サグは勘に従い、違和感を逃さぬように心を研ぎ澄ましていた。
「ノアガリにとってこの作戦はどれだけの価値を持っている? それによっては、今回の内容にも納得できるが」
「ノアガリという組織単位では無い、一部のメンバーが狂うほどに今回の作戦を推し進めていた」
男の言い方はどこか荒っぽい、つまりその一部に男は入っていなかったようだ。
「……アリオットは何者だ? お前とアリオットには何があった?」
「……最悪の男だ……底が読めず……俺を殺す男」




