何かが目覚めた
二人の魔法は、いわゆる一般的な魔法の成長スピードを大きく超えて進化していた。
剣を握るサグに拳を握るエボット、最初とは真逆になったかのようなその姿は、テリンの心を少しだけざわつかせ、同時に感じる二人の成長にじんわりとした感動を与えていた。
ノアガリ達はほぼ気絶させられるか殺されるかしてほぼ動けず、残っているノアガリ達は萎縮し、サグ達から距離を取ろうと後ろに下がっている。
「お前ら……何下がってる!!」
サグ達の真正面に立つ開戦の銃弾を放ったノアガリが、振り返らず重く低い声で仲間を威圧した。
下を向いているせいで顔は見えなかったが、その声がテリンとミラを威圧し、その体を震わせる。
しかしサグとエボットは震えない。むしろエボットはニヤリと笑い、楽しそうに拳と拳を打ちつけた。
「俺たちはすでに失敗をしている! 土属性の魔法を看破され、仲間を何人も殺された! この失態がアリオットさんにバレてみろ! 命で償わされるぞ……」
男の言葉は悲鳴に近かった。己の中にある闘志の根源、渦巻いていた恐怖の正体を吐露したのだ。
叫びの恐怖は伝播する。ノアガリ達は時間と共に自分たちが置かれている状況を理解し、それを回避する術は無いと悟った。一瞬で悟れる程にアリオットの実力は高く恐ろしい。
ぞくりと震える己の体、ひんやり涼しい地下室で流れ出る汗、その全てが恐怖の現れだった。
「うおおおおおお!!!!」
「あああああああ!!!!」
「がああああああ!!!!」
己の恐怖を叫びで打ち払い、一桁程度しか残っていないノアガリ達は特攻を仕掛けた。
己の末路などはっきりわかっているくせに。
振り下ろした剣はサグに受け止められ電流のおまけ付き、ただそれだけでは死ねないので、真一文字に切り裂かれる。
動揺してそちらをみれば、剣はエボットの拳に砕かれる。音に驚きそちらを見るのもいけない、そうすれば拳が飛んでくるだけだから。
エボットの拳は動揺する男の顔にめり込み、頭蓋骨と鼻の骨を砕き、階段へと吹っ飛ばした。
数十人を相手にし勝ち残ったのだ、数人の相手など一瞬で済む。
倒れている男達の大半は骸、物も言えぬ、動きもせぬそれだけの物。仲間が変わったそれを見て、威勢が良かったはずの男は震え階段に尻餅を突いた。
「さて、最後は君だけだ」
サグはその男に顔を向けた。
目が合った瞬間に男はその体を大きく震わせる。寒いわけでも無いのに、異常なほど。
目の前にいるのは空色の悪魔、地下を照らす人工の光を浴びて、仲間から奪い取った剣をこちらに向けている。
男は自分の腰にある銃へ手を伸ばす。さっきまではほぼ確実に仲間に誤射してしまうので使用していなかった絶殺の兵器。
「大変だよね、信頼できない仲間が多くても」
サグの瞳が男を射抜く。
(ダメだ……見抜かれている)
心の全てを見透かされたかのようなその言葉、恐れが男の目をさらに大きく開かせた。
震えるその手はまるでシバリング、こんな手で銃を撃てても当たらないだろう。そもそも男はアリオットによって殺す事を禁じられている。
面倒なルールと己の恐れが、男を殺す。
「ねぇ、楽しいよ、強くなるって」
ばちばちと音と共に電気を弾かせる剣を、サグは男に近づけた。
「さあ、君も強くなろうよ」
養分になってよ。
言葉の真の意図を察した男は、年若い少年に確実に勝てない事を察し、気絶してしまった。
「なんだ、強くなれないのか」
サグは少し残念そうに言った。
その姿は幼馴染の二人から見ても、普段のサグからは遠くかけ離れており、恐ろしい何かを見ている気がした。
「サグ……」
「? 何エボット」
小さな不安をエボットは名前として発した。
サグはその心を全く察せず、不思議そうな顔をしてエボットと目を合わせる。
これ以上何を言っていいのかわからず、魔法を解除しながら、エボットは小さく笑って見せた。
「何でもねぇよ」
「そう? それじゃ行こうか」
「いくってどこに!?」
次に言葉を発したのはテリンだ。戦闘中残酷な光景を見せまいとミラを自分の腹に押し付け、必死に耳を塞いでいた。
「あいつらの船だよ、とりあえずこの街の状況を確認して、それからだけどね」
サグの、「当たり前でしょ?」とでも言わんばかりのその態度は絶対、もう決まった意思を感じさせていた。
「もう二度と、負けないよ」
小さなその呟きはエボットにだけ聞こえ、小さな心の不安を強烈に煽った。




