レッドプラネットの真価
侵入したミラは一番閉じ込められている仲間が居そうな場所、地下室へと駆け込んだ。焦りつつも、扉を開ける時は丁寧に、バレないような立ち回りは絶対に忘れない。
入った地下室はひんやりと冷たく、頭がゆっくりと冷えていった。
やはり地下室を見る限りリエロス号の仲間たちは捕えられていない。しかしこの家が一番可能性が高かった、ならばどこにいるのだろうか。そう考えた時、ミラの脳裏に一つの可能性が思い当たった。
(もしかして……他に部屋がある?)
各家庭の構造が似ているといっても、究極似ているだけ、もしかしたらこの家にはもう一つ地下室があるのかもしれない。そんな予感がミラにはあった。
地下室の壁や床にペタペタと触れて、どこか隙間らしき物はないかと調べ続ける。しかし見てわかる程の隙間も、指先に引っかかる程度の切れ目も無かった。
焦りにより流れた汗が、手で壁に塗りつけられていく。
まさか、という予想がミラの頭によぎる。その答えは、すぐ後ろにあった。
「や〜っぱ綺麗に引っかかってくれたな」
階段の上から声がした。
恐ろしかったが、振り向かずには居られない振り向かなければそのまま死んでしまう気がした。
振り向いた時、そこに居たのは五人のノアガリ、さっき武器を置きに来た男も居た。
全員が楽しげにニヤつき目をぎらつかせている。状況は完全にチェックメイト、ミラはまさしく追い込まれた獲物、それぞれが握る武器に抵抗できる状況では無かった。
「俺の仕掛けた嘘に引っかかった、それが最後だ」
男は階段を降りながら、ニヤリと笑いミラに言った。
その時だ。極限の状況下で鋭く研ぎ澄まされたミラの感覚が、違和感を捉える。
考えに頭を巡らせた時、ミラには世界が遅く見えた。ノアガリ達の一挙一動が、空中に舞う埃の動きが、いつもの数倍遅く見えたのだ。
その事実に気づきこそしたが全く気にしない。全ての時間を、考察に使う事に決めた。
たった九年という短い人生、その中で培ってきた全ての経験、全ての情報を総動員して、自分の違和感の正体を見つけた。
「違う……」
「あ?」
「リエロス号のみんなはここにいるんだ……お前は嘘をついている」
腕そのものが震えていたが、それでも真っ直ぐに、言葉を発した男を指差した。
その態度はライオンに囲まれたうさぎそのもの、なんとも惨めな姿にしか見えず、男たちは笑い出した。
「だっはははは!」
「なんだこのガキ! 勇気あるじゃねえか!」
勇気、その言葉も嫌味として用いられる事があるようだ。
しかしミラの心にその悪口は全く響かない。なぜなら自分の確信を疑わなかったからだ。
そして言葉を発した男も、わずかながら他とは違う表情をしていた。自分の嘘が見抜かれた事に対する動揺を隠そうと、へたくそなニヤつき顔をしていたのだ。
一歩前に出て、自分のサーベルを抜いた。ギラリと光る剣をミラに向け、どちらが惨めなのかわからないほど鋭くミラを睨んでいる。
「どうだみんな! ガキの死亡シーン見てみようじゃねえか!」
男の言葉にノアガリ達が湧いた。
完全に絶望するしかないこの状況下で、ミラの心にはまだ小さな希望があった。
それこそ男が煽るように言った、勇気が胸にあったのだ。
そしてレッドプラネットは、希望を、勇気を、輝くような感情を感じ取っていた。
感情は力になる。よく言われている言葉を、レッドプラネットは体現していた。
「死ね」
ミラの首を切り落とそうと男が剣を振りかぶった時さえも勇気を手放さなかったミラに、レッドプラネットは輝いた。
袋越しでもわかるほど強烈な赤の光が部屋を満たす。所有するミラさえも目を開けていられない程強烈な光だ。
ノアガリ達もその光に耐えかね、腕や手で顔を覆ってしまっている。
光が収まった時、誰もが動けずにいた。だがミラだけは、光の前後で大きな変化が起こっていた。
溢れ出る魔力、明らかに自分自身の限界を超えた力が、その身に宿っていたのだ。
「これって……」
何をすれば良いのか、ミラにはそれが分かっていた。
溢れ出る魔力のほとんどを手に集め、純粋な破壊力として、自分の背後の壁に向かって放つ。
魔力効率最悪、消費魔力異常、消費に対する破壊力は悲惨なものだ。しかし使われている異常な魔力が、分厚い地下の壁を破壊した。
壁全体に深く大きなヒビが入り、奥へと吹っ飛ぶ。現れたのはもう一つの部屋、いやこれこそが本来の地下室の広さだったのだ。そしてそこには求めていた三人組がいた。
「サグお兄ちゃん! テリンお姉ちゃん! エボットお兄ちゃん!」
ミラの叫びに、三人は驚きを捨て去り魔力を解放した。




