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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
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少女の小さな冒険

「ん? 今何か音がしたか?」

「気のせいだろ?」


 ノアガリの二人がそんな話をしたのを、ミラは屋根の上から見ていた。

 音がしたのは気のせいでは無い。ミラが屋根から屋根へ飛び移った音だ。

 本人は自覚していなかったが、普段の運動能力よりも遥かに高いパフォーマンスで動けていた。それは普段よりも魔力を解放できているからだ。

 無自覚の領域になるのだが、ミラは今まで、魔力を本来の量よりも解放せず、セーブしていた。無意識に体を気遣ってのことだ。

 言うまでも無くミラは幼い。つまり体ができていない、サグやテリンと比べて圧倒的に未熟なのだ。だからこそ、体が自然と自分自身の許容量を超えないように、解放し流す魔力をセーブしていた。

 だが今のミラはその制限がかかっていなかった、無意識下に存在していた鍵を外し、全ての魔力を自由に体に解放していた。

 ミラは修行中の身、中途半端に技術を習得していた。

 溢れる魔力を逃さぬように内に留める。すると普段よりも高密度に魔力が凝縮され、意識しなくても身体能力が強化されていた。

 テンションが上がっている。自分のポテンシャルアップをそんな簡単な理由で片付けて、また次の屋根へと飛ぶ。

 己の負担に気づかないふりをして。

 たっ、と軽やかに次の屋根へと降りた。下を睨む目は鋭く、次のノアガリの数を脳内へ入れた。


(どの家にもノアガリが付いてる訳じゃ無い……島民が閉じ込められている倉庫のそれぞれの方向に二人ずつ、あとは巡回するペアのノアガリが五組……これじゃどこに閉じ込められているのか予想がつかない……)


 どこか一つにノアガリが常駐していれば話は簡単だったのだが、倉庫以外に警備を付けている場所は無い。そのせいで地道に様子を確かめる必要が出てきている。

 頼みの綱はたった三発の銃弾入りのリボルバー、これが最後の切り札になる。


(もっと探せばよかったんだろうけど……合う弾丸なんて知らないし……)


 少ない弾丸に不安を覚えるが、適当な弾丸を詰めて暴発するよりはずっとマシと、自分の不安を無理やり押しつぶした。

 眉毛の上あたりに手を当ててジロジロと遠方を見る。どこかの民家をノアガリが意識して見ている様子も無い、まるでノーヒントの状況だ。


(他の場所に連れてったって事も考えられるけど、時間的に厳しいはず)


 ミラの予測と周囲の心配具合から、時間は経っていても日という単位では経過していないと考えている。だとすればこの集落ぐらいしか運び込む場所としては考えられなかった。


「そういやよ、俺らがぼこったあのガキどこ行った?」


 下から気になる言葉が聞こえてきた。

 体制を低くしてその声を少しでも耳に入れようと集中する。


「どのガキだよ、ここに来てから何人もボコってるじゃねえか」

「あの水色? 空色? 薄っぽい青色の髪のガキだよ、中途半端に殺してねえから消化不良でよ」

(サグだ……)


 空色の髪のガキなど、ミラの思い当たる限りは一人しかいない。耳の神経がより鋭くなっていく。


「ああ、俺らで地下室に放り込んどいた」

「なんで殺さねえ?」

「さあな、アリオットさんの命令だからなあ」


 ミラはそこの会話を聞いて一人納得していた。

 普通何か重要な物がある場合、人は自然とその場所、この場合は家を見てしまうものだが、ノアガリ達は一切それが無かった。

 だが初めから知らされていないのならそれも納得できる。

 「ふーん」と鳴き声のような声を出しながら、質問したノアガリの男は自分の後頭部を掻いた。そして質問された男は自分の懐を漁り、「あ」と小さく呟く。


「どうした?」

「やべ、アリオットさんにこれ片付けとけって言われてたの忘れてた」


 男が取り出したのは二つの、比較的小さな武器。ナイフとリボルバー。

 ミラにはそのどちらにも見覚えがあった。サグとテリンが持っていた物だ。


「おいおい、しまいに行けよ」

「ああ」


 男はミラがリボルバーを手に入れた、木箱だらけの家へと向かった。

 ミラも屋根伝いにそれを追う。なぜか取り返さなければならない気がした。

 男は扉を開け、その家に入る。ミラは屋根を掴んで体を支え、逆さまになって脱出の時とは反対側の窓から男の様子を覗いた。

 男はなんの澱みもなくミラが開けたのと同じ木箱へ向かい、中へナイフとリボルバーを放り投げた。

 ふと、ミラが脱出した窓を見た。そして何か気になったのか、そちらの方へと向かう。


「これ……土の跡か? まさか脱出されたのか!?」

(脱出された?)


 ミラはさっき地下室に侵入した。だから中に誰も居ないのは知っていたのだが、男の様子を見るにそれだけでは無い様子だ。

 男はひどく慌てながら部屋を出ていった。

 その瞬間に、ミラはゆっくり家へ侵入した。

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