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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鉱山の島アクマンス編
13/304

サソリ

 ポスターに書かれた時間になった。鉱山前には相当な人数がいる、さっき街で見た、それらしい雰囲気の人間は全員が居た。それぞれがそれぞれの武器を構えて準備している。その中に、一切の武器無く、ただ大きなリュックを背負っている青年がいた。他に比べて目立つほど若い。

 三人も、同じように適当な岩を見つけて腰を下ろしていた。程なく、五人の男たちが来た。良さそうなスーツに身を包み、ずかずかと地面を踏む。


「お待たせいたしました、アクマンス管理委員会の者でございます」


 真ん中の男が丁寧な口調で言った。七三分けの髪が真面目だと余計にアピールしている。


「今回の依頼内容はすでにご存知かと思いますが、この鉱山内に住み着いてしまった天空サソリの討伐をお願いしたく存じます」

「報酬や、討伐に関しては、早い者勝ちとさせていただきます」

「ではみなさま、討伐を、お願いいたします」


 男の一言を受けて、武器を構えていた連中は一気に鉱山へと傾れ込んでいった。まるで濁流のようだ。出遅れて三人も鉱山へと入っていく。中では、木製の壁を支えているものに、電気コードを巻き付けて、明かりを確保していた。そのため、地下だというのに日中と変わらないほど明るい。

 入ったばかりの場所は通路のようで、三人並んで走るスペースはあるが、中々狭い。

 遠くの方で、金属と金属がぶつかっている音がした。すでに戦いは始まっているらしい。


「やべっ、サソリいなくなっちまうぞ!」

「おっけ〜やってやる!」


 テリンが銃を取り出した。リボルバー式の銃で、その穴一つ一つに走りながら銃弾を込めた。準備完了だ。

 二人もそれぞれナイフを抜いて、槍を構える。

 ばっ、と角を曲がった場所は今までの狭めの道とは違ってかなり開けていて、部屋のように広い。

 中では数十匹の人間とほぼ変わらない大きさの赤いサソリと、さっきの連中が戦っていた。何匹か仕留めていたようだが、反対に殺されてしまった者たちもいたようで、かなりの人数の死体がある。


「やっべー結構多いな」


 エボットが冷や汗をかいた。

 だから言ったろ、サグが文句を言おうと横を向いた。それが幸運、エボットを狙っているサソリの存在に気づいた。


「エボット! 横!」

「あ?」


 エボットもサソリに気づいた。サソリは尻尾でエボットの頭部を狙っていた。

 しなって力が貯められた尻尾の針を、エボットに突き刺さんと放つ。しかしエボットも甘くは無い、なんとか反射で槍を使い、尻尾を受け止め弾いた。


「あっぶね……!!」


 想像外に上手くいった自分に、エボットは少しだけ喜びの表情を浮かべる。


「こんのぉ!」


 今度はテリンが銃弾を二発撃った。しかし、銃弾はサソリの強力な甲殻に弾かれてしまう。鉄と鉄がぶつかった時のよなガギン! ガギン!という音が、甲高く地下に響いた。

 サソリはもう一度、尻尾でエボットを狙う。なんとかもう一度受け止めるが、今度は力押しに出た。ギリギリと力を込めてエボットを潰そうとしてくる。


「うおおおお!!!」


 声を出して、歯を思いっきり食いしばって堪えるが、いずれやられてしまう。サグが大回りにサソリの横に回った。


(天空サソリ……甲殻そのものは驚くほど硬いみたいだ……なら!)


 腰に帯刀していたナイフを抜く。逆手にナイフを持ち、エボットが組み合っているうちに尻尾に飛びついた。


(ここだ!)


 尻尾の関節部にナイフを突き刺す。短かったため貫通はしなかったが、甲殻に覆われている部分よりも柔らかかったようだ、ナイフは引っかかることなくサソリの内部に突き刺さった。


「ギギィ!!?」


 サソリが苦しみに鳴き声を上げた。喉の奥を締め付けたかのような聞き苦しい音だ。

 エボットに押し付けられていた尻尾が避けられる。視界の端っこで、エボットが大きく呼吸していたのが見えた。

 サソリは苦しみながらも尻尾を振り回して、取り憑いているサグを吹っ飛ばした。刺さったナイフから手を手を離してしまい、そのまま壁に思いっきり叩きつけられる。


「ガッ!」


 背中の痛みに、思わず口から、咳と同時に声が漏れる。メキメキ背中の骨が軋む音がする。

 土煙の中でよだれの漏れた口を拭う。そこまで痛くは無いのだが、味わったことのない衝撃が骨に響いた。サグは経験不足を心の底から恨む。

 サソリは方向を変えて、地面に膝をついているサグへと標的を変えた。エボットは疲れてしまったのか、槍でなんとか自分を支えて立っている。今度は、両腕の鋏をぶつけ、カチンカチンと鳴らしながら近づいてくる。威嚇行為なのだろうが、弱い標的を相手に、ニヤついているようにも見える。


「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」


 必死にテリンが叫ぶ。

 三発目、四発、五発、六発、次々に弾丸を放つが、変わらずサソリの甲殻に弾かれて、甲高い音が鳴り響くだけだ。

 もはやサソリは、テリンの方を見向きもしない。サグを仕留めることしか、サソリの脳には無いようだ。


「おおお!!!」


 エボットが槍を突き刺そうと飛びかかる。槍の先端を、尻尾の後ろ側に当てるが、硬すぎる甲殻には通用しない。反対に、見向きもせずに振った尻尾に叩かれてしまう。サグと同じ様に壁に叩きつけられてしまう。弾かれた槍は、転がって転がってある男の足元へ転がった。

 なんとか立ち上がったサグは、腹を抑えながら、鋭くサソリを睨む。もちろんそんなことになんの意味も無い。気にされることもない。

 サソリは足に力を溜めた、飛び跳ねて、鋏を喉へと向ける。


(え……)


 全てが、スローモーションに見えた。サグの視界は非常にゆっくりで、今起こっていることが、ある意味非現実にさえ感じられた。巨大なサソリの鋏が、自分の体と頭を別れさせる。そう確信した瞬間だった。

 確信した瞬間、スローモーションの世界は終わった。何かが、高速でサソリに突き刺さった。

 通常どうり時間の流れる世界で、冷静になったサグは正確に状況を把握した。突如飛んできた槍が、サソリの頭部を貫いたのだのだ。


「ギ……ギ」


 うめき声をあげたサソリは、力無く地面へと、崩れ落ちる。

 何事かと、槍の飛んできた方向を見ると、金髪の長髪、触れると手に突き刺さりそうなほど鋭い髪をした筋骨隆々の男が、まるで陸上のやり投げの様なフォームで立っていた。

 サグの無事を確認すると、男は姿勢を解いた。


「あっぶなかったなぁ」


 腰に手を当てて、ニッカリと快活な様子で笑って見せる。威圧的な容姿とは対照的に、親しみの持てる笑顔だ。

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