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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
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ゾッグの本質

 蹴った、その感覚は確かにある。それも会心の一撃といった手応え。

 だがイリエルの手応えに反し、ゾッグは揺らぎもせず、首でその強烈な蹴りを受け止めていた。

 イリエルからすれば異常事態以外の何者でもない、ほぼ確実に仕留められるという確信を持った一撃、それが何のダメージも無いかのように受け止められてしまったのだから。


「ブーッ!」


 突如、ゾッグが血を口から霧のように吹き出した。

 突然のことに、思わずイリエルは腕でガードしてしまった。

 直後飛んでくるのは、盾から解放され、自由になった拳だった。血霧から顔を守ろうとした緩いガードの上から、重く大きな拳が襲いかかってきたのだ。

 拳に気づいた瞬間、身体強化と腕のガードの強さを変えたがすでに遅い。

 変えた直後に拳が命中した。イリエルが回避を選択するべきだったと後悔したのは、その瞬間のことだった。

 激鉄に叩かれた弾丸、投石機に放られた石、例える言葉はいくらでもあるが、ある事実はたった一つ、イリエルは吹っ飛ばされた。それも非常に丁寧に。

 木の端っこにぶつかったイリエルは回転し、弱まったとはいえ、十分なほど勢いよく大木に激突した。

 背中を叩きつけられ、激しい痛みにイリエルは顔を思い切り顰めた。女王のベールは完全にかき消え、そこにいたのはただ一人の研究者イリエルだった。

 地面に落ちたイリエルは、情けないほど短い吹っ飛び距離とは違う、腕の中で響く、腕が弾け飛びそうなほどの痛みの分析を始めた。

 

(何……これ……背中の痛みと全然違う! 腕が砕けそう……! どうしてこんなにダメージが!?)


 頭の冷静な部分を必死に働かせるが、まともな答えはどれ一つとして見当たらない。

 イリエルも魔法を使う時点で常識はずれには間違いない。仲間に異常を極めたようなパワーを持つディオブもいる。常識はずれには慣れっこのはずだった。

 だがそれでも目立つほどの異常事態だった。

 普通殴った場合、相手に打撃でダメージを与える、そして殴られたものはそのパワーに従い、後ろに動いたりする。だがイリエルが今受けた攻撃は受けたダメージと吹っ飛んだ距離が見合わない。中々極端な話だが、身体強化を使うイリエルは打撃によって吹っ飛ばすという行為が大体どの程度の事か知っている。だからこそ、拭いきれない違和感があったのだ。

 腕に走る痛みの熱さとは正反対に、徐々に冷えていく思考、イリエルの冷静さという長所が、まさに真価を発揮し始めていた。

 ゾッグとの僅かな期間の戦闘、情報、データ、全てを総合して答えを導き出す。あり得なくても、一番正解に近いものを。


「……念属性の魔法……」


 ポツリと呟いた言葉は誰にも聞こえなかった。イリエル本人でさえもギリギリ聞こえる程度の声量だった。

 しかし、イリエルの脳が自分自身の言葉を否定する。

 理解したくはなかったからだ。

 だが同じ属性を持つ身として、それが一番自然な答えだと、納得してしまっている自分がいるのも確かな事だった。

 

(最低の気分だ……)


 腕をぶらりとさせながら、ゆっくり足だけで立ち上がる。ある程度鍛えておいて良かったと感じるのは、意外とこういう小さな時だ。

 立ち上がったイリエルは、変わらず腕をぶらぶらと振りながら、一歩一歩、踏みしめるように前へと進んだ。

 ゾッグはイリエルが立ち上がったことに、ひどく不思議そうな顔をしていた。

 イリエルが会心の一撃と思った攻撃を喰らわせたように、ゾッグも中々自信のある攻撃を喰らわせていたのだ。

 

「驚いたな、まさか立ち上がれるとは」

「……お前は、念属性の魔法を使うな」


 疑問ではない、完全に断定し切った口調。

 自分の魔法を完全に見切られたことを悟り、ゾッグは小さく舌打ちをした。


「お前は、ノックバックに消えるエネルギーを、そのまま内部へのダメージとして変換できるのね、だからこの痛みに対し私は対して吹っ飛ばされなかった」


 ビシィと、まるで探偵のように指差して、かっこつけた口調で言うイリエル。

 そもそも戦いの序盤から、イリエルには引っかかった感覚があった。

 斧をその場で振っただけで、離れた位置の木さえも切っていた。つまり斬撃に念属性の魔法を乗せていたのだ。それにより切る範囲を圧倒的に広げていた、それがイリエルの出した答えだった。

 その気迫に、ゾッグはぐっと押し黙り、その動揺を振り払うかのように、にやりと好戦的な笑みを浮かべた。


「やるじゃねぇか、普通痛くて何も考えられねんだがな」

「これでも、長く戦ってきたの、生物研究は命懸けでね」


 イリエルはニヤリと笑った。


「それよりも気になることが一つ……お前は何だ?」

「どういうこと?」

「そこのガキと話す時、俺と戦っている時、雰囲気が違いすぎる、何なんだお前は?」


 訝しむようなゾッグの瞳、イリエルはそれに対し、誤魔化すような笑顔を浮かべて見せる。


「さあね、関係ある?」


 ずっと静かに伏せて回復を続けていたサグには二人にある、お互いへの先入観が無かった。

 だからこそ、イリエルの誤魔化しの笑みが、自分自身にしているようにしか見えなかった。

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