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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
鉱山の島アクマンス編
12/304

鉱山の島で

 島を出て、またしばらく船旅だった。

 船を調べてよくわかったが、オリアークの時代の船にしては意外と近代的な設備、機能も多かった。まず、空中静止機能があった、これがあるのと無いのとでは、航行の安全度が天地だ。

 そして、自動航行機能が備わっていたことも大きい。この機能は、ある程度方向を設定すると、その方向に船が進み続けてくれるものだ。実験したが、ポツポツとある、浮いている浮島や、大きすぎる空中生物も自動で回避してくれる。

 操舵の技術はエボットしか持っていない、この機能のおかげで休むことができる。

 さらに嬉しいこともあった。レイゴスが襲撃のために乗ってきていたスピードボート、あれをそのまま回収したのと、その中にいくつか神軍用の武器がいくつかあったこと、それが大きかった。

 種類が中々あったおかげで、三人はそれぞれ、自分が好きそうな武器を見繕った。サグはナイフ、テリンは小型の銃、エボットは木製の柄に鉄の先端できた槍を自分の武器にした。


「これから先俺たちには、自分の身は自分で守る強さが必要だ」


 これはサグの意見だった。これから先は、大人たちに身を守ってもらうわけじゃない、しかもレイゴスや神軍のように、資料を狙う相手とも戦わねばならない。ならば強くなるのは必須事項の一つだ。旅だった二日目の夕食の席で放たれたその言葉に、二人は同意した。

 自動航行システムのおかげでエボットもある程度自由に動ける。そのおかげでとりあえず特訓はできた。

 しかし、時間が少なかったこともあり、素人に毛が生えた程度のお粗末なものだった。とても闘いに使えたものではない。

 また、旅において、いくつかルールを決めた。資金の管理は、三人の中で一番数字に強いテリンが、操舵は一番慣れているエボットが、様々な場面での主導はサグがするとした。

 サグの名前も変えた。初対面の信用できない相手には、サグ・()()()()ではなく、サグ・()()()()と名乗ることにした。ただ入れ替えただけだが、それでも他人の空似と言い張ることはできる。

 自分たちの嘘の身の上についても話しておいた。自分たちはある商船に同行していた見習い、遠く遠くまで来たのだが、そこで失敗をしてしまい捨てられてしまった。捨てられた島で資金を貯めて、やっとこの古い船を買い、遠く離れた故郷へと帰る旅路の途中。それが怪しまれた時用の嘘話だ。

 一つ一つ機能を実験しながら空を丸三日、ようやく次の島が見えた。今までの二つとは違い、緑ではなく茶色の山がいくつか目立つ、山の形に統一性は無い。平たいのもあれば大きく上に突き出た山もある、またその中間くらいのも。

 船はまっすぐにその島を目指す。港はそこまで広くはなかったが、停泊している船の数が多くなかったので、ずいぶん楽に停泊することができた。停泊のための手続きをエボットに任せて、サグとテリンは島に降りる準備をする。

 サグは船の起動用キーを外して各部屋に鍵がかかっているかの確認、テリンはそれぞれのリュックに停泊中分の小遣いとティッシュ、タオルなどを詰め込んだ。船を降りて島の停泊管理所へと向かう。そこで手続きをしているエボットと、職員の老人が話していた。


「は〜それにしてもお若いの」


 老人が手続きをしているエボットに話しかけた。


「え?」

「ずいぶん古い船に乗ってるなぁ」

「まあな、あれくらいが手の届く値段だったもんで」

「そりゃあそうだがなぁ……骨董品だぁありゃあ」


 関心したように老人がつぶやいた。瞳の奥には少年のような憧れの感情があった。


「よし!これでいいか?」

「ん?ああ……おおこれでいい、ようこそ山だらけの島アクマンスへ」

「おう!世話んなるぜ!」


 エボットが紙の控えを持って合流した。三人はとりあえず島の中心街へ向かう。

 街に入った瞬間、妙な感覚が三人を包む、その感覚に背中がゾワゾワした。故郷の島よりも大きい街には人通りがあった、街自体は故郷よりも発展してはいるものの、雰囲気が怖いのだ。街の至る所から視線が送られてくる。

 バレないように、目だけで視線の先を見る、視界に入ったのは銃をメンテナンスする顔に大きな傷のある男。いかにも歴戦と言った容姿だ。他にも、剣を磨く男、荒々しく言い合いっている二人、酒をガブガブ飲んでいる巨漢など、強そうな連中がたくさん街には居た。


「なによ、この街」

 

 テリンが訝しんだ顔で言った。眉間に皺がよって段差ができてしまっている。


「さあね、けど俺らが関わっていい雰囲気じゃ無いでしょこれ」

「ああ、それなんだが港の爺さんから面白い話聞いてよ」


 エボットが雑貨屋の壁に、貼られているポスターを指した。


「なにそれ」


 三人で近寄って詳しく読んでみる、ポスターにはこうあった。


『鉱山にて天空サソリ(エア・スコピウス)発生、力ある者求む』


『報酬は出来高払い、一匹討伐ごとに10万ゴル』


 ゴルはこの世界での通貨だ、日本円とそっくり同じ価値がある。そしてさらに、下の概要まで目を通す。


『神軍へ依頼するだけの予算がないので、力自慢を募集します、午後〇〇時までに鉱山前に集合してください』

『アクマンス管理委員会』


 どうやらこのイベント?らしきものを管理しているのはこの島を管理している人たちらしい。ならばこの破格の報酬に関しても納得できるだろう。


「へ〜要は害獣の討伐以来か……」

「でもサソリの討伐か……なんだか簡単そうね」

「そう!」


 エボットが大声でポスターを叩いた。


「これ!俺たちもやんないか?」


 二人の目が大きく見開かれた。しかし、エボットの様子からして本気のようだ。


「いやいや!危ないだろ!」


 いくらサソリでも、種によっては毒を持っていたりと相当危険だ。昔故郷のサーコス島で、交易先に生息していたサソリが毒を持っていて一人が犠牲になった。そのせいで島中パニックになったことをよく覚えている。


「そうだよ!それに資金だってまだ全然!」


 二人で否定する。昨日の特訓を考えると、今の自分たちは戦力として全く役立たないどころか、危険な場に行けば死んで当然くらいの状況なのだ。わざわざ危険に飛び込む必要を感じなかった。


「一応理由は二つあんだぜ?」


 エボットがピースを二人に見せつける。


「まず理由その1、資金確保」

「いくら金が多くても無限じゃねぇ、なら少しでも稼ぐべきだ」

「理由その2、修行」

「確かに俺らは弱えけど、それ理由にして逃げてばっかじゃ強くなれねぇ、少しでも、前に進まねぇと」


 二つの理由を述べるとき、エボットの目はいつになく真剣だった。危険でも挑んでみるべき。前向きなエボットらしい理由だ。反論の言葉はいくらでもあったが、進みたいと考えるのは二人も同じ。首を縦に振って、エボットの気持ちに応える。

 テンションの上がっていた少年たちは、自分たちに向けられていた、また別の視線には気づかなかった。

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