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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
111/304

協力と交渉

 ”元老”

 来る途中にその名前を聞いていたが、実物を目の前にした時、三人の感想は一緒だった。


(想像してたのと違う!)


 気づかなかったが、三人の心の声は全く一致していた。

 元老と言われ、三人が想像していたのは終わりかけの老人。

 言うなれば骨に皮が張り付いたような、触れれば折れそうな朽木のような、聞き取るのがやっとのガラガラ声を持っていそうな、あと少しで死に絶えてしまいそうな極端なイメージだった。

 しかし目の前の老人は、その顔に火傷後の様な醜い爛れを刻み、片目が潰れている。しかしもう片方の目からは、まるで獣のような鋭い眼光が、こちらを射抜いていた。

 その目が三人に今まで戦った神軍の猛者たちを思い出させた。

 戦場で輝いた彼らの目は、今目の前にいる老人のそれと同じだった。間違いなく、この老人も歴戦の猛者だ。

 三人の警戒のボルテージが上がる。

 元老の側に控えるケルもそれを感じ取り、怯えに体を震わせながらも、元老を守ろうとしている。


「よいケル、彼らは敵ではないだろう」

「はっ、元老様」


 ケルはサグたちへの警戒そのものを元老に嗜められ、一歩後ろに下がった。

 自分たちをそれなりの実力だとしているサグたちは、元老の態度にどこか強者のそれに似た余裕を感じていた。


「あんた、元老ってんだってな」


 エボットが少しの苛立ちを含めて言った。

 わざとだ、情報収集と挑発のために苛立ちを含めた。

 危険な行為のようにも思えるが、相手はわざわざサグたちを呼び出している、そして態度からも、何かしらの余裕があることは間違いない。エボットの挑発に対し反応が見たい、というのがサグとテリンの意見、密かに決めていた方針であった。

 挑発に対し、周囲の空気が僅かにピリつき肌を刺激したが、元老の態度は至って普通だった。顔を顰めることもなく、かと言って動きを大きくすることもなく、ただサグたちを見据えていた。


「そうじゃ、ワシが元老じゃ」

「……? 名前は? 元老は役職だろ? 呼び出しといてなのらねぇのか?」

「元老、それ以上は今のワシには必要無いんじゃよ」


 語る口調が常に妙なほど優しく、その容姿と相まってある種の不気味さを感じずには居られなかった。

 三人は顔を見合わせた。テリンとエボットは、話し上手のサグに任せる事にしたようで、目線でそれを訴えかけてくる。

 サグは二人だけがため息とわかるように、小さくわざとらしく息を吐いて、気持ちを立て直した。


「ではこちらも名乗らせていただきます」

「いや結構じゃサグくん」

「!!」

「君だけではない、テリンくん、エボットくん、君たちのことも知っている」

「「!!」」


 ケルと出会って以降、三人はお互いの名前を、それぞれに聞こえる以上の声で話していないはずだった。

 だというのに、ケル以上に初対面の元老がそれぞれの名前を知っている。それぞれの心臓が跳ねるには十分な衝撃だった。

 衝撃が心臓を貫いた最中にテリンは、ある言葉を思い出していた、移動中にケルが語っていた言葉だ。


「元老の……魔法」


 テリンの呟きでサグとエボットも同じ記憶を思い出す。

 森を歩いているときにケルは、自分たちの強さを知っているという旨の発言をしていた。その時に問い詰めると、強さを知っているのは元老の魔法が関わっている、だがそれは今は語ることが出来ないと語っていた。

 もし語られるとしたら、真実を求められるとしたら今だ。

 サグは、心臓に、痺れに似たじわじわとした物が満ちるのを感じていた。これの正体はよく知っている、サグがその身に受けた、オリアークと全く同じ物、好奇心という名の呪いだ。


「……その通りじゃ」


 静かに語られたその言葉が、テリンの考察を肯定する。

 サグの心臓が、さっき以上に強く跳ねた。そしてじんわりとした物が血管を通じて全身に広がったのがよく分かった、体温が急速に上がり、鳥肌が全身でぶつぶつとして生える。なぜか興奮という感覚がよく分かった。


「が、それを教えるからには、そちらも相応の覚悟を持って話を聞いてほしい」

「覚悟とは?」


 サグが不思議そうに、それでも胸の内の溢れるような興奮を抑え込んで、純粋な疑問をぶつけるだけのように言った。


「この島で何が起こっているか、お分かりじゃろう」


 それは疑問形の言い方ではなかった。初めから断定した、知っている言い方。

 サグの心に確信が満ちた、やはり元老は全てを知っているのだ、と。


「ええ、おおまかにですが」

「その事件の解決への協力、それをお願いしたい」


 三人の予想通りの言葉が飛び出した。

 自分たちの実力を把握し、今この状況でわざわざ外部の人間を呼び集めるのならばそのくらいしか理由は思いつかない。

 想像の範囲をでなかった理由に、ある程度覚悟を固めていた三人は、一度お互いの顔を見た。

 同じ想像をしていた幼馴染たちはニッと笑い、自分たちの目的のために動く事を決めた。


「いいですよ」

「いいんですか!?」


 これに驚いたのはケルだった。

 四人の受け答えの冷静さに対し、オーバーリアクションとも思えるほどの声を出した。

 サグたち三人は、少しだけきょとんとして、ケルを見た。


「実は私は、遠くからですが、あなた方の戦いを見ていました」

「見てたのかよ」


 エボットは少しだけ顔を引き攣らせた。

 エボットの気持ちはサグにも理解できた、テリンにもだ。

 戦闘中、アリオットに与えられた恐怖はよく覚えている、見ていたのなら助けて欲しかったところだ。


「あれほどの恐怖を味わって……どうして協力しようと思えるのですか?」

「……俺たちには、行かなきゃならない場所があります」

「場所?」

「ええ、人生の意味、目的ともいうべき場所へ辿り着く、そのためにこの島が必要なんです」

「……」

「それに、関わった時点で俺たちもあいつらに狙われてると思いますしね」


 最後にサグはニッ、と笑って見せた。

 爽やかさを意識した笑みだ。

 そんな笑みを受け、響く物があったのか、ケルはぐっ、と唇を噛み締め、後ろに下がった。


「ありがたい……ではお話ししよう、この島について、元老という存在について」


 元老は口角を釣り上げて、ニヤリと笑った。

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