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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
110/304

元老

「皆さん、こちらに」


 ケルが壁の近くに寄るよう手で指示した。

 三人はあたりをキョロキョロと見回しながらその場に近づく、濃霧で遠くまでは見回せなかったが周囲は植物ばかりで何も新しい情報は得られなかった。

 素直に壁の近くに寄ると、ケルは壁の一部を押し込んだ。すると壁の一部が開き、そこから甲冑とシンプルな甲冑と、ハルバードを身につけた兵士らしき男が二人現れた。


「お疲れ様です、お客人をお連れしました」


 ケルは腰を九十度に曲げ、胸の辺りに手を当てて、感心してしまうほど丁寧なお辞儀をした。


「お疲れ様です、長老会は奥の建物でお待ちです」

「分かりました、では皆さん、こちらに」


 導かれるまま、三人は壁の中へと入っていく。

 兵士たちはハルバードを地面に突き立てたまま動かず、兜の奥でこちらを見ているのかさえもわからない。

 中には小さな集落があった、いくつかの寝泊まりができるであろう小さな民家が並ぶだけだが、一応人がいる以上集落として成立している。

 しかしちらと見るだけでも建物の数と人の数が合っていない。それを証明するかのように地べたシートが並べられ、そこに何人か座っていた。


「テリン」

「うん、多分逃げれた人たちがここに集まってるんだ」


 サグとテリンの答えは一致していた。証拠づけられる物は無かったが、この島が置かれている状況を考えれば分かりやすかった。

 ケルに従い道の真ん中をひたすら真っ直ぐに進む。

 チラチラと、こちらを見る視線が少し気になったが、一瞬見えた不安を訴える瞳に、サグは気にする事をやめた。


「こちらです」


 後ろに壁が見えるということは、兵士が言った奥の建物とはここの事のようだ、ただ寝泊まりをするためだけに作られたような無機質な木造の民家とは違い明らかに大きく、どこがとも言えないが豪華な作りをしていた。

 何が起こるか分からないが、ここまで来たら飛び込むのみ、サグはその意志を固めるかのように一度唾を飲み込んだ。

 扉を開けると、中はただただ広いだけの空間が広がっていた。

 壁にはいくつかの間を空けて蝋燭が設置され、薄暗いが、ある程度の明るさを保っている。

 部屋には何人かが居たが、全員がフードを被り、胡座をかいて座っている。手を合わせ、必死に何かをしているようだった。

 中には異常な程の汗をかいている者も居て、ただならぬ状況である事を伝えていた。


「なんだこれ」


 エボットの口からそんな言葉が漏れるのも仕方ない、三人の総意だ。


「よくいらっしゃったお客人」


 ただ広いだけの部屋の奥の奥、最も暗い場所から声がした。

 しわがれた老人の声は、静かなその場にゆっくりと染み渡り、部屋の持つ雰囲気と相まって、ゾクリとした不気味な物を三人に与えた。


「こちらへ、話をしたい」


 故郷でだって聞いた事がないほどに、老人の声は優しかった。

 だが警戒を忘れない三人は気づいた。その声の奥の奥に、まるで大自然のような厳しさを隠し持っていた事に。

 すぐに戦えるように備えながら、三人はゆっくりと老人に歩み寄る、途中胡座をかいている者たちの前を通ったが、一切気にしないように目を向けなかった。

 老人の前に出ると、老人が腕を下に振った。


「どうぞお座りください」


 ケルに促され、三人は老人の前に座った。

 ただ座る、という当たり前の動きだったのだが、雰囲気が緊張を作り、どこかぎこちない動きになってしまった。


「お待ちしておりました」


 老人は言いながらフードを取った。

 中にあった素顔に、三人は同時に息を呑んでしまった。

 ひどく焼け爛れたかのような顔が、そこにはあったのだ。


「初めまして、私は、この島の長、元老です」

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