チームアップ
イリエルの拘束を振り切った二人は、森を走り抜け、ノアガリと遭遇した集落にたどり着いていた。
走っている間は何も言わず、何も考えなくて良かったが、冷静になって立ち止まると、色々な感情が心という小さすぎる器に渦巻いた。
「あぁ〜! 絶対後で怒られる!」
サグは集落の真ん中で、頭を抱えてしゃがみ込んだ、自分が感情任せにやってしまった事に後から台風のような後悔が押し寄せてきたのだ。
エボットは膝を抱えたサグに呆れて後頭部を引っ掻いた。
「ったく、感情任せに行動するからだろ」
「仕方ないじゃん、どっちも正しいならその先は水掛け論だよ」
唇を少し尖らせて、不満げにサグが言った。
エボットもそこには同意するところだったが、もう少し冷静に動けなかったものかとも思う、しかしサグに乗ってしまった以上、腐れ縁として付き合ってやるのが筋だ。
そんな考え方をしてしまう自分自身に、エボットはまた呆れてしまったのだが。
森の方から、ガサガサ、と草を揺らす音がした。
二人は魔力を体に巡らし、音のした方を警戒する。
「動物ならよし、人なら?」
「ぶん殴って簀巻きだろ」
「ロープもテープも無いよ」
冗談もそこそこに、二人の警戒のボルテージは上がっていく。
動物もしくは島民ならば安心、ノアガリのチンピラならば戦闘、アリオットならば森以外に逃避、ざっとあげられる可能性はこの程度だが、三つ目の可能性だけは絶対に実現してほしく無い可能性だった。
ナイフに電気が走り、サグの心を表すかのようにバチバチ弾ける。
音が近づいてきた、二人は腰の位置を落とし、戦闘態勢を固めた。
「やめてよ」
現れたのはテリンだった。
二人は安心に魔力を納め、それぞれの武器を下ろした。
「なんだよ、お前まできちまったのか?」
「うん、イリエルが追いかけろって」
「イリエルが?」
テリンから告げられた名前は自分たちにマグマの如き怒りを向けているはずの仲間。
その意外さに、サグは思わずその名前を口にしていた。
「二人に暴走させるより、三人のチームで戦うようにって」
イリエルはやはり賢い、暴走する可能性のある二人だけで行動するのでは無く、せめて冷静さを持つテリンを同行させるという考えに至る柔軟さも素晴らしい。
二人はイリエルのそんな優しさを理解し、思わず顔を合わせて笑ってしまった。
合流し三人になった一行は、集落のさらに向こう、島のさらに中心部へと進むことを決めた。
三人の意見をぶつけ合った結果、恐らくだが島の中心部あたりにノアガリの拠点があるのだろうという結論に達した。
荒らされた家の一つから島の地図を失敬し、反対側の森へと入っていった。
「とりあえず、真っ直ぐ森を抜けよう」
「少し離れた位置に大きめの集落があるぜ、そこが中心だろ?」
「なら迂回気味に行くべきだ、周囲は警戒されてるよ」
サグの言葉に、テリンとエボットも同意を示す。
三人は森を進んだ、雲が太陽を覆ったせいで妙に薄暗く、ひどく不気味に感じる森だった。
警戒しながらゆっくりと進む。足と草が擦れ余計な音を立てる度消えない警戒心のせいでビクビクしなくてはならず、落ち着かない旅になることはすぐに分かった。
ガサガサ、と正面から音がした。
三人はそれぞれの武器を取り、再び警戒の体制を取る。
「やっ、やめてください!」
オドオドとした怯えを隠しもしない声、三人の警戒心は逆に高まる。
ガサガサという音が近づいてくる、テリンが銃口を音の方に合わせた。
現れたのは、ボロボロの若い男だった。見る限りどこにも武器を持っておらず、無防備で三人の前に出てきたようだった。
「皆さん……島の外の人ですよね?」
「ああ……」
「お願いです! 話を聞いてください!」




