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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
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麗しき舞

 ディオブとアリオットの打撃がぶつかり合った時、人体同士がぶつかったにしてはあり得ない、金属同士がぶつかった様な甲高い、鼓膜に響く様な鋭い音がした。

 魔法の知識が身についてきて、シロウトをそろそろ卒業しようとしていたサグ達は、状況をほぼ正確に把握できていた。


(アリオットも鉄属性を使うのか!)


 アリオットはぶつかり合う足を一瞬だけ離し、横薙ぎにディオブを蹴り飛ばした。

 まるで鞭の様に叩きつけられた蹴りを、ディオブはギリギリでガードし、勢いを利用して岸に着地した。


「君の”生来の”馬鹿力には勝てない、テクで攻めなきゃ」

「チッ、相変わらずイラつく」


 あのディオブの拳とぶつかり合ったというのに、アリオットは笑顔を崩さない、むしろより一層楽しそうにしている様にも見える。

 対するディオブは明らかに焦りが見えていた。一瞬の攻防だったというのに、ヘリオの剣とぶつかり合った時以上の汗をかいていた。


「全員、ディオブ以外を任せる、船は売るから絶対に傷つけるな、乗組員は……十歳以下のみ捕縛だ」


 アリオットの声はサグ達にも聞こえている、バッと空を見上げ、薄く空を覆い始めた雲とニヤつく雑兵たちが目に入った。

 銃を構えていたノアガリ達が、銃をしまいながら、ゾロゾロと甲板に降り立つ。

 サグ達三人は円形に形を作り、お互いの背中を合わせ包囲網と向かい合った。同じ様に囲まれたイリエルは一人だが、普段の白衣を脱ぎ捨て、集団の殺気に負けないほどの闘気を発している。


「やれ」


 アリオットの小さな号令と同時に、全員がそれぞれの武器を抜いた、太陽に照らされた金属達が、鋭さをアピールしながら襲いかかる。

 サグは魔力を両拳に集中させた、浮島でエボットと喧嘩した時に見せた技だ。

 テリンは身体強化、エボットは氷の剣を生成し、一撃必殺の技ではなく長期の戦闘を想定した戦闘スタイルを取る。


「死ね!」


 ノアガリの一人がサグに向かって剣を振り上げる、サグは図鑑でその本を見たことがあった、グラディウスと呼ばれる剣の種類で、長さが調整されたその剣は取り回しに優れ、重さを生かし相手を叩き潰すことに特化している。

 だがだからこそ、やろうとしていることはわかりやすい。ナイフを抜き、振り下ろされた剣の腹にナイフの先端を当てる、力の向かう先を逸らされた剣は、サグの正面から外れ、地面に向かった。

 無防備になった男の鳩尾に、サグは腰で支えた拳を全力で突き出した、中指を飛び出させるという小細工を絡めて。

 躱すこともできず喰らってしまった男は、痺れるやら呼吸が出来なくなるやで、反射的に体をくの字に曲げてしまう。その勢いを利用し、サグは男の鼻頭に膝を叩き込んだ。サグの体感では、まるでぬかるんだ地面のように膝が沈み込んでいった。

 男は大量の鼻血を流しながら、地面に背中から倒れ込んだ。


「綺麗に決まってんじゃねえか」


 エボットが少しだけ楽しそうに言った。

 気絶する男を前に、サグは実力の伸びを感じていた、加えて初めての他勢に無勢の状況、全てが、自身をリアルタイムで成長させていると感じたのだ。

 サグは再び正面の敵を睨んだ、剣を片手にこちらを睨んでいた男は、サグの圧に押されてしまう。


「二人とも、朗報だ」


 サグは冷や汗を感じながら、高鳴る心臓に身を任せる。


「強くなってる」


 今までの、進んでいるかどうかわからなかった努力達への、精一杯の賞賛と激励。三人の戦闘欲は、今までに無いほどに高まっていた。


「行くぞっ!」


 サグの叫びが、三人の体を動かした。


「怯むな! 所詮ガキ! 数で押せぇ!」


 剣を抜き、男達が三人に襲いかかる。

 振り下ろされた剣をエボットが受け止め、空いた脇腹にテリンが火属性を纏った飛び蹴りを入れる。着地した隙を狙われるが関係ない、サグがテリンの背中を借り飛び上がった、勢いをつけた拳で、狙っていた男の口当たりを殴り飛ばす。

 一瞬で二人を仕留めた連携力、だがそれにもノアガリは怯まない、ノアガリからしてみてももはや勝つしかない状況なのだ。

 サグが痺れさせながら殴り、テリンが蹴ってタイミングを見て銃を撃ち、エボットが純粋に剣で応戦する。三人の連携力もありノアガリ達は攻めあぐねていた。

 戦闘に安定感を感じてきた時、サグの脳の片隅にあったのは心配、一人でいるはずのイリエルの心配だった。


(イリエルは……どうなってるんだ!?)


 痺れさせ倒れた男の向こう側に、イリエルが見えた。サグの心配に反した様子で。


「ぐおああああっ!」

「ぎゃあああ!!」


 イリエルの周囲を剣が舞い敵を切り裂く、イリエル自身の拳足が敵の骨を砕く。魔力コントロールに優れるイリエルだ、見る限りでは分からないが、打撃には恐らくその細腕に似合わないほどのパワーが宿っているのだろう。さっきの酷い悲鳴が証拠だ。

 イリエルを殺すべく男が正面から剣を振りかぶった、イリエルの動きなら確実に躱されてしまうので、後ろから仲間にイリエルを羽交い締めにしてもらう。だがイリエルの余裕は崩れない。

 頭を前に強く振って、柔らかいクッションに押し戻されたかの様に勢いよく頭を後ろに振った。後頭部がちょうどよく羽交い締めにした男の鼻から口に当たる。

 鋭い神経を貫く様な痛みに、男は涙目になりながらイリエルを離してしまった。

 離された瞬間に、イリエルはつま先で体を回転させ、その勢いを乗せた拳を剣を振り上げた男の剣に突き出す。

 剣がイリエルの拳を真っ二つにする、誰もがそう思ったが、不思議なことに剣はイリエルの拳から放たれた見えない何かに押され後ろに追いやられてしまう。


「おっおっ?」

 

 謎の現象に男は情けない声を漏らした、イリエルは口の端っこでくすりと笑い、男の意識を踵蹴りで刈り取った。

 短い攻防の中で周りのノアガリ達も助けに行こうとしたが、イリエルの魔法により、倒れた同胞の剣が舞い、近づくことさえも許されなかった。


「さて……次」


 楽しく笑うイリエルの周囲で、銀の刃がドレスを模るかの様に舞った。

 舞い散る赤、倒れゆく敵、喝采の如く響く悲鳴、全てが美しくイリエルを仕立て、余計な光を与えない曇天のおかげもありサグにはまるで、舞姫を描いた絵画の様に映った。

 戦場で輝く血飛沫の舞姫は、わざとらしく船の縁に立った。同胞を傷つけた相手を淵へと落としてしまおうと、ノアガリ達が舞姫の御御足に群がる。

 下品にも伸ばされた手をするりと抜けて空へ飛び立つ、後ろへ着地し、両手を相手の背へと向けた。


「バァイ」


 どこか扇情的な色香を纏った声に、手を伸ばした群衆は顔を赤らめた。

 直後訪れるは見えない衝撃、自分たちの数以上、まるで舞姫を守護する軍勢に突き飛ばされたかの様な力と勢いが体を押した。

 ぐらりと後ろに傾き頭のてっぺんは淵へ向いた。落ちていった男達が最後に見たのは、楽しまれている姫君の笑顔だった。


「すご……」

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