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果てなき空で”果て”を目指す物語  作者: 琉 莉翔
謎の集団 リリオウド編
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尋問

 バケツいっぱいに溜めた水を、ディオブの全力を持って男達に浴びせた。

 頭から襲いかかるように浴びせられた水は、鼻や口から気管に入り、体内の不快感と、鼻の奥が刺激される感覚に最悪の目覚めをもたらされる。

 男達は全員全力でむせ返り、体内の水を吐き出しながら体を捩る。同時に目を全力で開き周囲の情報を集めようとするが、最後の記憶とあまりに違う景色に、頭は混乱を抑えきれず、わかりやすくキョロキョロと周囲を見回してしまった。

 ようやくわかってきたのは、自分たちと向かい合った筋骨隆々の男が目の前でこちらを見下ろしていること、年端も行かない若者達が同じ様にこちらを睨み、警戒していること、そして自分たちは全員縛り上げられ、身動きが取れなくなっていることだ。


「お目覚めか? 悪いな、結構強く殴っちまった」


 言葉と時間が徐々に記憶を呼び起こす。何が起こったのかを、ゆっくり頭に染み込ませ思い出させてくる。


(そうだ、俺らは……こいつにいきなり襲われて……!)

「テメェ! 俺らを攫ったのか!」


 一番最初に答えにたどり着いた、パーカーの男が怒り心頭で叫んだ、表情も口調も態度も、拘束されているくせに動きさえも、その全てで怒りを訴えている。

 それに対し、筋骨隆々の男ことディオブは、僅かにだけ口角を上げて男の頬を蹴った。殴った時とはまた違う、痛々しい打撃音が小さく響いた。中が切れて、口から僅かな血が飛び出す、ディオブは甲板に滴ったそれを、まるで潰す様に踏み締め、つま先で甲板に寝転ぶパーカーの男の頭を持ち上げた。

 男はさっきとは違い意識を失っていない。だからこそ、頬から脳に響いた痛みが、恐怖へと変わり、見下ろす冷たい目が、反抗心を上からねじ伏せる。


(かっ、勝てない……少なくともタイマンじゃ……!!)


 パーカーの男はようやくそれを察した。

 観察を続けていたディオブは、男の目が変わったのを見て、器用につま先を使い強制的に体を起こし、胸を押す様に蹴って甲板の縁に男を叩きつける。

 男の仲間達は全てを見ていたが、目の前の名前も知らない筋肉に、抗いようが無いことだけがわかった。そしてこれから始まる恐怖政治に、肩を震わせ、情けなく怯えることしかできなかった。


「まず、これから尋問をする、素直に答えろ、こっちには嘘発見器がいる」


 親指で刺したのはイリエルだ。

 この言葉は半分本当で半分嘘。イリエルは生物研究の中で、対象を観察、理解することで、その生物の体調や何をして欲しいのかなど、様々な変化を初見でも瞬時に察せる様になった。

 その対象は人間にも当てはまる、むしろ普段の生活の中で絶対に交流する分、人間の方が観察しやすいと言っても過言ではない。

 これだけでは便利に思えるが、嘘を見抜く能力は完璧ではない。人間のある種生物的では無い部分、それが嘘だ、生物の観察で身につけた能力も、そこには効かない場合もある。

 が、それをわざわざ目の前の尋問対象に語ってやる必要は無い、イリエルは自信満々の顔を作って、少しだけ傲慢にうなづいてみせた。

 これだけでもだいぶプレッシャーになる。


「そんじゃ、質問その一、お前らはノアガリか?」

「……そうだ」


 仲間達の顔を見てから、代表してパーカーの男が答えた。

 ディオブは言っていないが、その態度と行動が言外に、”素直に答えなければ攻撃する”と伝えていた。ほぼばれている事実を前に、素直に答えない理由が無かった。


「質問その二、お前らがあの集落を襲ったのか?」


 誰が聞いても、さっきよりも声は冷たかった。明らかな怒りが滲んでいる。

 だがそれはサグ達も同じこと。あの最悪の光景を見た人間が怒りを我慢するなど不可能だ。

 男達は少しだけ怯んだ。怒りを露わにしたディオブを前に、何を言えば丸く収まるのか、アイコンタクトで相談している様だ。

 余裕が無いのはこちらも同じ、サグは魔力を解放し手に集中させる。サグの属性の電気がバチバチと、うるさく光りながら手のひらで弾ける。

 仲間達は年少組を除き一切気にしなかったが、ノアガリ達は違う、明らかな敵意を前にさっき以上に怯んでいる。


「言っておくが、こいつらは全員魔法使える、あの距離でもすぐに攻撃できるぞ?」


 ノアガリ達の顔が余計に青くなった。

 置かれている状況を正確に理解するほど絶望していく、自分たちがあの立場だったら最悪だが、全く同情には値しない。

 男達は再び顔を合わせて、話すべき内容をよくよく考えてから、重い口という名の門をゆっくり開いた。


「そうだ……」


 サグのすぐ横で足音と、服が擦れた音が、荒すぎる呼吸音と一緒に聞こえた。

 目だけで音のした方向を見ると、涙を滲ませ歯を食いしばるミラが居た。顔を真っ赤にして、明らかに怒り一色、当然の様子だった。

 怒りの理由が理解できるせいか、ミラを押さえつけるテリンの方も、同じくらい苦しそうだった。

 サグも同じく苦しくなったが、冷静に、ミラのもう片方の肩に手を置いた。


「ミラ、今は、待って」


 そのままだが、できるだけ優しく、宥める様に言った。

 ミラはサグの方を見ず、ずっと下の甲板を見つめていたが、落ち着いてくれたようだった。だがそれでも、目に見えて拳は硬い。


「質問その三、なぜあの集落を襲った?」

「……あの集落だけじゃ無い、このリリオウド全体が襲撃対象だった……俺たちは偶然あの島を襲撃する担当だっただけだ……」


 抵抗しても無駄だとようやく悟ったのか、パーカーの男は素直に語り始めた。


「質問その四、酷いことになってた家と、ただ荒らされただけの家があった、その差はなんだ?」

「……子供が居るか居ないかだ」

「子供?」

「そうだ、子供の居る家は全員連れて、居ない家は殺してしまえ、そう命令されたんだよ」

「確かに……殺されてたのは御老体ばかりだったな……」


 ディオブが手を顎に当て、冷静に呟いた。


「質問その五、その命令の意図は?」


 イリエルが一歩前に出て言った。ディオブに比べ圧倒的に細身なその体は威圧感が無い、だがノアガリ達には嘘を見透かせる女、という認識がある、与えられるプレッシャーは同等以上だ。

 冷たく見下ろされた男達は僅かに身震いしながら、同じ様に睨み返した。

 ディオブに比べ明らかに舐められている事実に、イリエルは苛立ちを隠し切れず心臓のあたりから魔力が漏れ出た。しかし適性が念属性だったせいでサグの様にわかりやすい現象は発生せず、全くプレッシャーにも脅しにもならなかった。


「答えろ!!」


 今度は叫びで脅しをかけた。明らかにイリエルは苛立っている、それも尋常では無いくらいに。

 だがその心中はサグにも理解できた、エストリテでの一件がわかりやすい例だが、イリエルは理由なく命を奪うことを許さない。もちろん自分が命の危機に瀕したり、仲間の命が敵のせいで危険に晒されれば相手を殺す程度の覚悟はある。しかし理由なき殺害は、イリエルの最大の怒りに触れるらしかった。

 怒り心頭の女を前に、男達はゆっくりと口を開き始めた。


「知らねぇよ、俺たちは上からそう言われただけだ」


 ため息混じりに吐き出された言葉は、全くイリエルが求めていたものとは違い余計にその怒りを加速させるだけだった。


(子供……ミラも子供だが……狙いは十中八九宝石だろ? なのに大人を殺せた……ということは……この島の人間が漏らしたのか?)


 イリエルと違い、冷静なディオブの頭は、与えられた情報から状況を整理し、現状から分かる答えを導き出していた。


「なあ」


 パーカーの男が、なぜか少し笑いながら言った。この状況にして口角が上がっているというのは、恐ろしいほど不気味だ。


「あ?」

「お前ら、通信機持ってたよな」


 男は言えば言うほど、ニヤニヤと笑っている。

 イリエルは不気味さに肩を振るわせながらも、さらに一歩前に出た。


「ええ、持ってるわよ」

「原理は知ってるかい?」

「内蔵された鉱石に魔力を通し、効果範囲の鉱石と電波を飛ばし合い通信する、それが?」

「ま平たくはそうだな……ちなみにそれ……原理のせいでめちゃくちゃ傍受しやすいんだよ」


 全員に、はっ、とした衝撃が走る。

 次の瞬間、岸から銃声が聞こえてきた。

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