(あとがき)
・(了)2022.3.5
・(最終更新)2022.7.3
〈筆者の所感〉
久蓮に憧れ、久蓮を追って極北大学まで着いてきた、久蓮の高校時代の後輩、岩本真平。高校時代実力のない自分を嘆き、けれども諦めず努力を重ねた秀才である。そんな彼が、再び走り始めた久蓮を見つめる瞳は複雑そのもの。待ち望んだ筈の久蓮の復帰は、けれども同時にあの日の辛そうな久蓮を思い起こさせるから。これは真平が、久蓮の言葉を聞き、さらに速くなって彼の力になることを改めて決意する、そんな話。
真平の久蓮の対する想いもかなり重い部類に入るし、まだ設定していない高校時代の話がかなり絡んでくるので、なかなか手が付けられなかったが、書き始めてみるとあっという間だった。けど、予想通り重い。久蓮を除いて、現段階で久蓮のことで一番思い詰めているのは、間違いなく真平である。昴は、ちょっと方向性が違う。
単なる違和感だった真平の脚は、いつしか明確な痛みに変わってしまった。練習後のケアはやりすぎな程にしたけれど、どうしても練習量を減らすことはできなかった。この真平の行動は、久蓮の"想定外"でした。悪い方向に外れてしまった、想定外。そのくらい、焦りと強迫観念に駆られている。そしてそのまま、ついに怪我の程度が確定してしまい、逃げ道がなくなってしまう事態に。心の奥底では、どうするのが最善かは理解しているものの、そう簡単に割り切れない真平は、どう心の整理をつけるかを悩んでいる。皆に言葉をかけてもらう中で、徐々に自身の考えを整理し、裕也の言葉を聞いてついに折り合いをつけることが出来る。これから暫くは、マネージャーとして部の皆のサポートをする傍ら、怪我に影響のないトレーニングを積んでいくことになるわけです。真平の心情としては、悔しい、情けない。でも、もう振り返らない。
一番書いていて楽しかったのは、十一話「見据えるアメジスト」かも。「アメジスト」は、紫吹のことです。瞳のイメージが紫なので。同期の絆、書いていて楽しい。でも、暗号はどうしようかとそれなりに悩んだ。特に、素数になる五千メートルのタイム。
自身の問題に一応の解決をみた真平は顔を上げて周りを見ることができるようになる。そして、焦り始めた蒼の変化に戸惑う。真平本人としては、蒼の意識――久蓮に頼りすぎていることへの焦りや全日という目標をもっと意識することは大切だと思っているし、蒼がそれを意識してくれて嬉しい。ただ、周囲への焦りのぶつけ方が蒼らしくない。そして、他の部員たちが頑張っていない訳ではないということを痛い程解ってもいる分、胸中は複雑。そんな中、キョクノウDCにて"他者"から見た如月蒼についての話を耳にする中で、この"変化"は蒼にとって必要な過程なのではないかという考えに変わる。ただ心配して止めるだけではいけないのかもしれない、と。しかし、久蓮にもその考えについてお墨付きをもらってすぐ、蒼が久蓮に反旗を翻した。それを機に更に走り込む蒼は、ついに部員たちと衝突する。蒼の態度に怒りを表しているらしい久蓮と、毅然と意思を貫く蒼。そんな緊張の雰囲気のなか始まったレースは、意外な結末を迎えるのだった。
駅伝前日までの真平。自身の怪我に対する折り合いは、悔しさはあれど、自分なりについている。そんな真平が、皆に自分の想いを伝える。どちらかというと裏方目線。真平は、あまり久蓮の事情を詳しく知らないので、鉄人や範昭、そのほかの態度に違和感を覚えるも、確信には至らないまま、希望に満ちて本番を迎えることになる。
〈設定等〉
・"天恵"
神の恵み、という意味の言葉。久蓮の"勝負の年"に、天性のスピードを持つ翔太と、高校生の頂点に立った蒼の二人が入部した。それはまさしく、真平にとって、神の恵みに他ならなかった。元号にもつけた"天恵"だが、元号としては、音の響きと字面がよかったから決めただけ。これにしてよかった。
・紫吹と真平
高校時代同期の二人だが、その実力は正反対。中学時代から有名で、全国屈指の実力者だった紫吹と、一無名選手で実力もなかった真平。周囲からは紫吹と比べられ、けなされることも多かったが、真平は歯を食いしばって練習を重ねた。そんな彼を紫吹はずっと横で見ており、彼のことを認めている。
大学進学の際は、真平を駒河大学へ誘うも、既に極北大学進学を決意していた真平はその誘いを断る。実は、紫吹は久蓮卒業時に、「お前が進路選択するときに、真平とまた一緒に走ってもいいと思えたら、誘ってやってくれ」と頼まれていた。紫吹の答えは「いいですけど……あいつが何を選ぶかは、また別ですよ」。紫吹は、真平がつらい思いをしていることを知っていたから。
・久蓮の怪我について
真平は、久蓮が高校時代怪我をしていたことを知っている。だが、今も治っていないことは知らない。完治した久蓮が、復調している過程が今だと思っている。
・楠木整形外科
極大周辺で一番腕がいいと評判の整形外科。医学部医学科六年生の祐介の、実習先の病院でもある。実は久蓮もずっと通っている。
・久蓮の暗号
『100,110,110,100,110,111 | 100,010,100,011,010,011 | 101,010,101,111,101,000 | 100,101,011,100,101,011 | 100,110,110,100,110,111 | 101,001,101,011,001,111 | 100,110,110,100,110,111』
久蓮は、高校三年生のインハイ五千メートルで、約束の十五分切りを果たした真平に、上の暗号文を送った。即座にこれは何かと問うた真平に、久蓮は「お前の頑張りを評価して」作ったのだと告げる。これが、教えられる精一杯だ、必ず一人で解くように――と告げる。
(解き方)
①二進数を十進数に変換→②出てきた数字を『十四分五十九秒』で割る→③出てきた数字を『shift-JIS』でアルファベットに変換→④『maximum』は数学用語で『極大』即ち『極北大学』が導かれる。
『100,110,110,100,110,111』→『159,031』→『109』→『m』
『100,010,100,011,010,011』→『141,523』→『97』 →『a』
『101,010,101,111,101,000』→『175,080』→『120』→『x』
『100,101,011,100,101,011』→『153,195』→『105』→『i』
『100,110,110,100,110,111』→『159,031』→『109』→『m』
『101,001,101,011,001,111』→『170,703』→『117』→『u』
『100,110,110,100,110,111』→『159,031』→『109』→『m』
・久蓮の不調について
真平は、久蓮の一連の不調については全く気付いていない設定。久蓮の怪我は、高校時代の話で、今はもう完治していると信じているから。心配のベクトルが、蒼により強く向いているというのも、久蓮の示している小さな異常の兆候に気付かない一因かもしれない。




