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夢の続き【番外編】  作者: 灰猫
【正に"天恵"とも言うべき】岩本真平
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27.選手発表-直前譚(天恵7年7月下旬)

「さて、お集まりいただきありがとうございマス」


 北海道大学駅伝のメンバー発表ミーティング、その開始一時間前。真平は久蓮の部屋を訪れていた。傍らには、昴と範昭。そんな声をかけた久蓮は、けれども真平たちに背を向けて、今日の"夕飯"の支度をしている。


「今回の。オレの考えるオーダーは、コレ。意見があれば聞かせて欲しいな、って」

「ふむ」


 テーブルの上に置かれている紙を指して、久蓮はそう告げた。各々手に取ったそれには、このように印刷されていた。


   *


〈極北オーダー〉

1区14.6km 如月蒼(1)

2区13.2km 清野範昭(4)

3区9.5km  桃谷翔太(1)

4区14.0km 六連昴(5)

5区11.6km 御影大介(3)

6区12.3km 夜神真矢(3)

7区11.9km 富樫裕也(2)

8区19.7km 篠崎久蓮(4)


   *

 

 そこに書かれていた内容は、概ね真平の予想通りだった。


「いいんじゃないでしょうか。僕は異議なし、です」

「昴さん一区じゃねえのか」

「あー、それね」


 範昭が、ぽつりと問うた。そう。真平としても、蒼と昴は逆の配置で想像していたが。正直、どちらが走ったとしてもしっかりと役割を果たしてくれそうではあるが。


「まあ、ぶっちゃけ実力だけみたら、どっちが走ってもいいんだケド」


 久蓮はそこまで言って言葉を止めると、昴の方へとちらりと視線を流した。昴はただ肩を竦めた。二人は、どうやらそれで通じているらしい。


「けど?」

「ん。皇と走る方が、蒼の経験になるかな、って。それに、今の蒼はノってるからね。あの勢いは心強いだろ?」

「なるほどな」


 久蓮は、蒼起用の理由をそう説明した。なるほど、確かに蒼の走りは、極北大に来たときとはもう既に別人だろう。この間のキョクノウDCでも、その動きは悪くなかった。そして、久蓮との対決を経た今は――。


「キミが、疑問に思うってことは、皆もだよね。ノリちゃん、悪いけど後で、また突っ込んで」

「別にいいけどよ」


 キッチン越しにそんなことを話す二人を眺めながら、真平はこのオーダーで走る極北大チームを想像してみた。そして、目を見開いた。

 勝ち目が見える、気がする。どうしたって帝北大は強いけれど。このオーダーで、皆が力を出し切れば、本当に――。


「――平。……真平?」

「え?  あ、はい!」

「どした?  ……だいじょぶ?」


 いつの間にかこちらへ来ていた久蓮に瞳を覗き込まれて、驚いた真平は思わずのけ反った。深い漆黒がきらりと光った。どうやら、思考を飛ばしていて、久蓮の呼びかけが聞こえていなかったらしい。別にやましいことはないのだけれど、久蓮の瞳に射抜かれることが気恥ずかしく、真平は慌ててキッチンへと久蓮を引きずった。


「だ、いじょうぶです!  て、手伝いますよ、久蓮さん」

「ん、さんきゅ」


 目をぱちりと瞬かせて、久蓮は緩く微笑んだ。そんな真平の様子を、範昭と昴が笑みながら見ていた。


   *


「で、脚の調子はどう?」


 キャベツの千切りを皿に盛りつけていた真平に、久蓮はそう問いかけてきた。久蓮の視線は、自身の手元――味噌汁が仕込まれている大きめの鍋に向けられている。


「もう、ほぼ完治しました。歩いて、痛みはもうありません」

「そ、か。よかった。……まだもう少し、ガマンしてよね」

「わかってますよ! ここまできて逆戻り、なんて馬鹿なことしたくないですから」

「……うん」


 正直に現状を答えると、久蓮は安心したようにほっと息を吐いた。そして続けられた言葉に、真平は食い気味に返した。本当は、まだ走れないこの現状は悔しいけれど。もう、あんな思いはしたくない。

 そう告げると、久蓮は小さく頷いた。その横顔には、緩く笑みが浮かべられていた。


「それに、ボク、信じてますから。このチームを」

「はは、頼もしいやね」


 今度こそ、久蓮に罪悪感を抱かせないように。そんな想いで、真平は言葉を続けた。本心だ。先ほど見えたビジョンは、きっと現実になる。真平は、そう信じているから。久蓮はそれを聞いて、真平へと笑みを向けた。


「ところで真平。駅伝の前日なんだけど――」

「開会式ですか? もちろん、任せてください」


 ふと思い出したように、久蓮が真平へと声をかけた。久蓮がみなまで言う前に、真平はその申し出を快諾した。久蓮は目を瞬かせ、そして苦笑を零した。


「さんきゅ」

「お前、十八番(おはこ)盗られてんじゃねぇか」


 からからと笑って野次を飛ばしてくる範昭に、久蓮は唇を尖らせながら、小鉢の盛り付けを始めている。トマトとキュウリをメインの皿に盛り付けながら、真平は笑んだ。平和な空間。そしてもうすぐ、皆がくる――。


   *


「こんにちは~。久蓮さん」

「あれ、ノリ先輩、昴さん……真平も! 早いですねぇ。いや、俺らが遅いのかな?」

「いらっしゃ~い。いやいや、気にしないで」


 玄関のチャイムが鳴り、部員たちが雪崩れ込んできた。元気よく挨拶をしている翔太を皮切りに、予想以上に集合していたメンバーに驚く真矢。そして、それに続く皆――こうして、久蓮の部屋にいつものメンバーが揃った。

 こうして今回も、極大陸上部恒例のミーティングが始まったのだった。

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