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夢の続き【番外編】  作者: 灰猫
【正に"天恵"とも言うべき】岩本真平
54/87

21.先輩で、先生で、そして(天恵7年7月中旬)

 その日、真平が自宅に帰ってきたのはすっかり夜も更けてのことだった。昴がずっと運転してくれていた車内でぐっすり眠ってしまっていたので、今は目が冴えている――昴には本当に申し訳ないけれど。

 そんな真平は、今日のデータを纏めて久蓮へと送信した。


   *


Title:キョクノウDC結果

From:岩本 真平

To:篠崎 久蓮


久蓮さんへ

お疲れ様です、真平です。

夜分遅くにすみません、今日の結果をお送りいたします。

ご確認済かもしれませんが、蒼のラップタイムなどはアプリに登録させていただきました。


お忙しいとこと申し訳ないですが、お時間あるときにご確認お願いいたします!


【添付ファイル】

男子五千メートルA-結果.png

男子五千メートルB-結果.png

男子五千メートルC-結果.png

男子五千メートルA-結果.mp4

男子五千メートルB-結果.mp4

男子五千メートルC-結果.mp4


   *


 メールを送り終わって、明日の準備をしていると、久蓮から着信があった。送信から二十分くらい後のことだ。慌てて通話ボタンを押した真平の耳に、久蓮の声が響く。


「お疲れ、真平」

「久蓮さん! お疲れ様です!」

「データさんきゅ、確認した。全部任せて悪いね」


 慌てた声を上げた真平にくすりと笑いながら、久蓮は告げた。悪いなんてとんでもなかった。久蓮の負担が少しでも減るなら、真平にとってそんなに嬉しいことはないのだから。むしろ、"同じ側" に立てたようで、少し嬉しいくらいだ。


「気にしないでください!」

「ははっ、頼もしいやね、アリガト。……ちなみに、今日の蒼の走り、真平はどう感じた?」

「ええと……」


 ふとそんな問いを発した久蓮に、真平は何と言うべきかを考えた。蒼は焦っているようだけれど、その変化を肯定的に捉えている()()の話を聞いた今は、真平自身、これは必要な過程のように感じる。


「蒼は、記録と勝負に拘っているようでした。どうしても、全日に出たい、と」

「イヤな感じは?」

「今のところ大丈夫かと。保科さんも晃くんも、肯定的でした」


 真平の言葉を聞いて久蓮は、ふむ、と唸った。


「なるほど、りょーかい。なら、とりあえず気を付けるのはケガかな」

「わかりました。気にしておきますね」

「火曜日からは、オレも顔出すね。負担かけて悪かった」

「ホントですか!? 楽しみです!!」


 久蓮のお墨付きをもらって、真平は一安心、と息を吐いた。そして、続けられた言葉を聞いて、テンションが上がる。やはり、久蓮がいる部活が良いと思うのは、きっと真平だけではない筈だ。

 喜びに弾んだ声を出した真平に、久蓮は苦笑してもう一度悪いね、と言った。謝ることはないのだ。ただ、火曜日が楽しみなだけだから。


   *


 翌日。真平は、裕也と共にサークル棟横のトレーニングセンターを訪れていた。今日は部活の練習自体はオフなのだが、ウエイトトレーニングをしよう、ということになったのだ。

 とりあえず、とベンチプレスを始めながら、裕也が問いかけてきた。


「記録、見たよ。蒼、調子は悪くなさそうだな」

「うん。本人はあんまり納得できてないみたいだけど、大学ベストだしねぇ……」


 極大のメンバーの中でも、裕也はとりわけ蒼の異変を心配していた。そんな裕也に、真平は昨日のレースの状況――もちろん動画も見せた――を告げ、皆の見解も説明した。それが全て正しいと盲信はしないが、極端に心配し過ぎることもないのではないか、と。


「なるほどな。まあ確かに俺たちは、高校時代の蒼についてなんて、記録とかくらいしか知らないからな」

「そうなんだよね。でもほんと、怪我だけはさせちゃいけない……」

「そうだな」


 結局のところ、真平たちに出来ることはそう多くはないだろう。きっとこれは、蒼自身の中で変わっていくものだから。できることは、先輩として、蒼が限界を踏み越えないように見ておくこと。そして、蒼が、自分(あお)が思い描いている蒼になれたとき、真平たちも共に戦えるように力をつけておくこと。

 真平と裕也は顔を見合せて頷くと、ウエイトトレーニングに邁進し始めた。


   *


 翌火曜日。雲が覆い尽くした、明るい曇天の中。

 久々の主将の姿に心を躍らせて、真平は練習に参加していた。久蓮の姿を見た部員たちは皆、安心したように、気合を入れて練習に取り組んでいる。蒼など、久蓮を一目見た瞬間泣きそうな顔をしていたくらいだ。それだけ、この部で久蓮の存在が大きいということだ――それが弱点だと、紫吹には指摘されたれど。


「やっぱり、表情硬いんですよねー……」

「元々目つき悪めだケドね~。ま、本当にヤバそうなら手は打つよ」


 ちらちらとこちら――というよりは、久蓮を気にする素振りを見せている蒼を見て、真平は呟いた。それに答える久蓮の言葉は、なんだか酷い。けれど、とりあえず静観の構えを見せている久蓮に、真平も習うことにした。


「どんなとこ、注目して見ていますか?」

「んー。ま、見るべきトコは色々あるけど……」


 久蓮のマネージャースキルは――ここまでくるともはや監督スキルかもしれないが――は本当に凄いと思う。極北の皆は、高校までと比較して、そしてこの在学中にかなり実力を伸ばしている。真平は、この機会に久蓮のスキルを盗むことにした。……こんな大っぴらに訊いているわけだから、"盗む"という表現は正しくなさそうだが。

 メニューに取り組む部員たちを眺めていた久蓮に問いかけると、久蓮は彼らから視線を離さずに口を開いた。頼もしいね、と笑いながら、久蓮は惜しげもなく自身の知識を与えてくれた。取り零さぬように集中して聞きながら、真平は改めて決意した。この怪我を、飛躍のチャンスに変えてやるのだ、と――。

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