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夢の続き【番外編】  作者: 灰猫
【正に"天恵"とも言うべき】岩本真平
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17.木漏れ陽の中で(天恵7年6月中旬)

 クロカン合宿と銘打って、極大陸上部の面々は、牧山市内にあるクロスカントリーコースに集合していた。牧山"市内" とは言いつつも、温泉街で有名なそこは、市街地とは少し離れている。秘境と呼ぶのが相応しい、木々に囲まれた林道。陽射しは頭上にて萌葱色に変換され、眼下のせせらぎへと降り注いでいた。

 極北駅に集合して、レンタカーに揺られること二時間半。面々は漸く、コースの入り口に立ったのである。因みに、行きはコースギリギリまでバンで乗り付けているものの、帰りはダウンがてら旅館まで四キロほどのジョグが待っているのだが、真平と久蓮以外の部員たちはまだそのことを知らない。


「着いたー!」

「少し休憩したら、練習な」


 翔太の元気な声が、木々の隙間に響いた。皆は一様に伸びをしては凝り固まった身体を解している。そんな面々に、久蓮がたノートパソコンを仕舞いながら声をかけた。車中でもずっと研究をしていた久蓮だ。忙しいのは知っていたけれど、……それにしても多忙だ。今回の合宿はマネージャー業をメインにすると言っていたから、少しは休んでもらいたい。


「久蓮さん、おれ、Aで走りたいです」

「……勇んで早々に潰れればいい訳じゃない、ってのは、解ってるね?」

「はい!!」

「ん、いいよ。やってみな」


 今日のメニューは三キロコースを五本。スタート地点から一周三キロメートルのコースを使ったインターバルだ。この間から今まで以上にやる気を見せている翔太が、久蓮にチーム変更を頼み込んでいた。問いかけに元気よく返事をした翔太に、久蓮はふわりと笑んで許可を出した。

 やる気があるというのは、素晴らしいことだ。元々素質のありそうな翔太のことだ。きっと何かを掴んで記録を伸ばしていくだろう。自分にも、少しでもその手助けができるといい。真平はストップウォッチを片手に練習開始の合図を出した。


   *


「やはり、強いですねぇ。スピードがあるというのは」

「ええ、本当に。――ま、でもまだ五本はなかなかキツい、かな。粘れよ~。……頼むよ、ノリちゃん」


 早々に一本目を終えたAチーム。急遽Aチームに変更したにも関わらず、翔太はしっかりと集団から零れずに帰ってきた。部長の野々口がそんな翔太を温かい目で見詰めながらしみじみ呟いた。隣に立つ久蓮もにっこりと頷いている。

 その笑みがにやりと悪いものに変わったのを見て、真平は心の中で翔太に手を合わせた。頑張れ翔太、負けるな翔太――というやつだ。


「んじゃ、オレもちょっと回ってこようかな~」

「折角なので、唯さんもご一緒してきたらいかがですか?」

「お? 唯ちゃん先輩、行きます?」

「いいの?」

「モチロンですとも」


 そんなこんなで、久蓮は秋山と共に三キロコースへと消えていった。彼女と一緒なら、楽しくなった久蓮が走りすぎることもないだろう。もしかしたら、野々口もそれを狙って二人で行くように提案したのかもしれない。

 ちらりと野々口に視線を遣ると、にっこりと微笑まれた。これは確信犯だ。


「ここのところ、特に根を詰めていましたからねぇ」

「そう……なんですね」

「今回彼の走りを見られないのは残念ですが……しっかり休んでくれるのであれば無理は言えませんね」


 野々口はそう言って優しく微笑んだ。


「君も。いい顔をするようになって良かったです。篠崎くんもとても心配していましたから」

「それは……ご心配をおかけしました……」

「心が決まったようで、良かったです。心が決まれば、あとは邁進するだけですからね」

「はい!」


 ちらり、とこちらを見た野々口は、悪戯っぽく笑って見せた。


   *


 メニューが終わり、皆が再度集まったスタート地点にて、真平は今日の結果を囲んで、久蓮、野々口、そして昴と皆の走りの講評をしていた。正直、今日の結果は、AもBも皆満足できるタイムだった。記録を眺める久蓮も満足そうな表情を浮かべている。順調、のお墨付きと共に今後の練習メニューに思いを馳せる久蓮はとても楽しそうだった。


「あー! つっかれたぁ!」

「お? 何だ、モモ、まだ元気そうだな? オレともう一本いっとくか?」

「?!」

「てめ、鬼か!」


 唐突に声を上げた翔太に、輪の中から顔を出した久蓮がにやりと悪い笑みで告げた。その言葉にびくりと身体を揺らした翔太を不憫に思ったか。範昭が目を剥き止めに入る。


「ははっ、冗談だよ」

「やりそうなんだよ、てめえは」


 久蓮が笑えば、範昭は自身の腕を擦りながら溜息を吐いた。確かにその通りである。


「もう一本、は冗談だけど、ここから旅館まではダウンジョグだよ~」

「何!? 結構距離なかったか?」

「大丈夫! たったの四キロさ」

「よっ……!?」


 そして、範昭のその懸念は、違う形で現実になったのだ。このタイミングで明かされる決定事項に、範昭が顔を青くした。無理もない。今回の練習、範昭はかなり頑張った。本人的にも高い設定ペースの中、翔太がしっかりと頑張り切れるように気にしながら走っていたのだから。言葉を失う範昭に、久蓮は容赦なかった。


「荷物は車で運ぶからね! じゃ、準備出来たら、帰るよ~」


 良い笑顔で告げる久蓮は、なんだかそのまま走り出しそうな雰囲気だ。きっと皆と一緒にジョグして帰るつもりなのだろう。折角先程、野々口が休めようとしていたのだ。だから――。


「久蓮さん」

「ん?」

「久蓮さんも乗りますよね?」


 にっこりと微笑んで見せれば、久蓮は苦笑して真平と共にバンへと乗り込んだ。

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