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夢の続き【番外編】  作者: 灰猫
【目映い軌跡】桃谷翔太
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2.サッカーと陸上と(天恵7年4月上旬)

 翔太の大学生活を決定づける、それほどに運命的な出会いの、翌日。昨日に引き続き、泣きそうな曇り空。どこかピンと冷たく張り詰めた空気の中で、翔太は昨日訪れたばかりのグラウンドに足を運んでいた。

 目的はもちろん、入部だ。初心者として新しい世界に飛び込むことになる。だが、翔太はその一歩を踏み出す。未来への、期待と希望を胸に。


「や、来たね、翔太。ようこそ、極北大学陸上部へ」

「久蓮さん!」


 そのままグラウンドに足を踏み入れようとした翔太に、背後から()が声をかけてきた。翔太は、確信とともにその名を呼んで振り返った。果たしてそこには、翔太の予想通りの人物――篠崎久蓮が笑顔を向けて立っていた。


「いいタイミングだね、集合しよっか」


 久蓮は辺りを見回し、そう言い放った。


   *


「え、星陵サッカー部って……! 名門じゃん!」

「俺でも知ってるよ!」


 練習始めの集合で、皆の前で自己紹介をした翔太を待ち受けていたのは、そんな部員たちの騒ぎだった。自分の出身校を――自身のチームを少しでも知ってくれている。そんなうれしいことはないと、翔太は笑みを浮かべた。


「何で極北(うち)?! てか、何で陸部?!」

「うーん……。()()です!」

「?!」

「……!」


――――あれ?


 自信をもって答えた翔太に、周囲は騒然とした。告げた答えは、翔太の真実だ。どうしてこんなにも騒がれるのかは、正直よくわからない。

 究極的に感覚で生きる翔太の()()は、他人からすると理解しがたいのだが。当の本人に、その齟齬は理解できない。


「ぷ。あは、はははっ」


 そんな翔太と部員たちのやり取りに、久蓮が一人噴き出している。楽しそうなその様子に、訳が分からないながらも、翔太は嬉しくなって笑みを浮かべた。


「こいつが見つけてきたんだよ」

「や、翔太がオレを見つけたのさ」


 範昭の解説に、けれども久蓮は即座に否定を返した。同じようで、ちがうそのニュアンスが、彼にとっては大事なのだろうな、と、翔太はぼんやりと考えた。そして、久蓮のその言葉に、翔太は共にこの先輩を追いかけたあの青年の姿が浮かんだ。――淋しい目をしたあのランナーが。


「蒼……来るかな……?」

「来るさ。もう少し、待ってみ」


 ぼそりと落とした呟き。それを拾った久蓮が、そんな言葉を告げる。根拠はわからない。けれど、その声色は確信に満ちていて、翔太は一つ頷くと、もう一度部員たちを見回した。


   *


 練習が始まって、部員たちがアップへと散っていく。そんな中、翔太は久蓮と二人、グラウンドの脇の芝生ゾーンに座り込んで、話をしていた。


「サッカーの走りと、陸上の走り。大きな違いってなんだと思う?」

「走る、方向……?」

「いーね、正解」


 久蓮は翔太の瞳を覗き込むように問うた。吸い込まれそうな漆黒の瞳(ヘマタイト)が、翔太を映して煌めいている。その問いにたどたどしく答えれば、にぱ、と朗らかな笑み。


「サッカーはいつでも、どんな方向にでも走り出せるように準備しとかなきゃいけないだろ? ケド、陸上はとりあえず、前だけを想定しとけばいい」


 そう言って、説明される言葉は、翔太にも理解しやすかった。


「正確には、長距離は直線的に前だけじゃなくて、カーブや道を曲がるくらいはあるんだけど…ま、とにかく。イラナイ準備をして、ムダに疲れる必要はないってコト」


――――なるほど。


 その言葉に、深く頷いた翔太に、久蓮は微笑んだ。

 そうなると、劇的に違ってくるのが()()()()――走るときの姿勢なのだ、と。久蓮は翔太に説く。確かに、昨日感動と共に追いかけた久蓮の走りは、今まで見てきたサッカー選手の誰とも違う洗練された走りだった。

 なるほど、そうだとして。実のところ何がどう違うのだろうか、と翔太は首を傾げた。


「これは、見た方が早いかな。ちょっと、一周走ってみ」


 そんな翔太に苦笑して、久蓮はトラックを指さした。翔太は言われた通りに走り出す。その様を真剣に眺める、久蓮の視線に見送られて――。


「オカエリ。じゃ、交代ね」


 久蓮はそう言って、翔太にスマホのカメラを渡すとトラックへ走っていった。言われた通りにその姿にカメラを向けながら、久蓮の走りを見つめた。言われなくても違いがわかる。――それくらい差がある別々のフォームで、久蓮はグラウンドを二周してから、帰ってきた。


「じゃ、行こっか」


 息を切らすこともなく微笑んだ久蓮は、てくてくと部室へ向かっていった。訳は分からずとも、翔太はその後を追う。


   *


 久蓮はノートパソコンを開くと、先ほどのスマホをつないでカタカタと何やら操作をした。五分ほど経って、彼はディスプレイをこちらに向けて、エンターキーを叩いた。画面には、()()()久蓮が映し出されていた。それは、先ほどの――。

 ()()は、同じペースで走っている。だが。左の――サッカー部時代によく見た走り方の――久蓮は、歩数も多い。


「左の久蓮さんのほうが、大変そう……?」

「そ」


 ぽつりと呟いた言葉に、久蓮はにっこりと頷いた。


「今回は、敢えて同じペースで走ったケド。コレが、"腰の高さ"が生む違い――ってワケ」


――――腰の高さ……。


「球技系からの転向なら、まずココからかな。――じゃ、話してばかりもなんだし」


 走ろっか。

 にやりと笑った久蓮に頷き、翔太は彼の背を追って再びグラウンドへと向かった。

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