表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の続き【番外編】  作者: 灰猫
【正に"天恵"とも言うべき】岩本真平
35/87

2.理想と現実(天恵7年4月下旬)

   *


順位表 男子5000M決勝 1組

1着 東城皇 (4)帝北大 14'09

2着 那須伊織(1)帝北大 14'19

3着 北市陞 (3)帝北大 14'25

4着 岩本真平(2)極北大 14'25

……


   *


 張り出された順位表に印刷された結果は、到底満足できるものではなかった。

 十四分二十五秒、四位。タイムとて、ベストから十秒も遅い。冬の鍛錬期を経ての一発目のレース、ここに合わせてはいないとはいえ、自己ベストくらいか更新しておきたかった。そして何よりも、帝北大の選手にラスト競り負けての四着。悔しさが溢れ出して止まらない――。


 四月下旬。まだ寒いこの時期に例年行われる、第一回月例記録会。会場の喧騒はどこか遠く、アーケード下の掲示板に貼り出された紙を囲む極北大の面々は、真平に限らず、一様に憂鬱な面持ちを浮かべていた。


「マズくないすか? ……これ」

「まぁ……、帝北……ここまでとはな」

「……」


 真矢の言葉に範昭が悔しそうに頷いている。神妙な顔で佇む大介も同じ気持ちなのだろう。


「プログラム見てある程度予想はしていましたが……」

「よくもまた、こんな面子を引っ張ってこれたものですよ。この粒の揃い様は箱根出場校にも引けを取らないのでは?」


 その通りだ。()()篠崎鉄人が、わざわざ北海道までやってきて率いるチームなのだから、一筋縄ではいかないのは当然だ。登録されている選手たちの経歴は、誰も彼も立派なものだった。元関東の強豪校所属の選手を中心に、実力者が名を連ねているのだから、監督の手腕は恐ろしいということだ。一体どんな誘い文句を使ったのか。


「おい、ダウン行くぞ」


 沈鬱な空気が流れるなか、範昭の呼びかけにのろのろとダウンジョグを始める。


   *


「久蓮さんも、なんでまたこのタイミングで全日なんだろう……」

「多分……このタイミングだから、なんです」

「え?」

「……?」


 沈黙のジョグを少し続けた後、ずっと俯いていた真矢がポツリと呟いた。真平は、ゆっくりとその問いに答えを返した。発した問いの答えは、たぶん、と前置きしつつも、真平にとっては確信だ。突飛に聞こえるであろうその言葉に、ほぼ全員が疑問に満ちた顔をしている。


「それは、蒼が来たから、ということ?」

「いや、蒼は関係ないです。蒼が極北に来たのは、言わばイレギュラー。帝北が新設されたこのタイミングだから、久蓮さんはまた走り始める。そして、僕たちは全日に出なければならない」


 真矢の疑問に真平はそう言い切った。

 昨年、真平が入部してから、少しずつ少しずつ、レースに出るために久蓮は調子を上げてきていた。それは、全てこのためだ。


「でも実際厳しくないか? 帝北は……」


 静かに呟いたのは、裕也だ。物事を現実的に――論理的に捉えるこの同輩の言うことは、確かに正しい。だが、彼等は知らないのだ……、"篠崎久蓮(無敗の帝王)の本領"を――。


「ホントは……久蓮さんが居れば勝てる。……けど嫌なんだ、もう、あの人に頼りきるのは……!」


 盲信的とも聞こえるその言葉を、真平は絞り出すように告げた。


「ちょっと待って。主将が異常に速かった事は俺も知ってる。けど、俺は大学で主将が三分ペースより速いペースで走っているのを見たことないよ。流石にそれは盲信しすぎじゃないの?」

「勝てます」


 真矢の言葉は尤もだ。けれど、真平は知っている。勝たなければいけない勝負。そのときには、久蓮は走ってしまう。――限界など容易く踏み越えて。そのすさまじさを、真平は、高校での一年間で、いやというほどに思い知ってきたのだから。

 即答した真平に、真矢の雰囲気がぴりりと尖る。険悪になってきた空気に、大介がおろおろと真矢をなだめている。


「真平、ムキになってるぞ。落ち着け」

「理屈じゃないんだ……!」


 裕也に止められつつも、真平は喰い下がった。きっと、これは、その身をもって経験した者にしか解らないのだろう。


「まあ待て」


 範昭の静かな声が、真平の熱を冷ました。


「兎も角だ。今までアイツが、俺達に出来ない目標を課したことがあったか?」

「……ない、ですね」

「!」

「キツかったけど」

「鬼畜だったけど」

「……」


 範昭の言葉にわいわいと言い合う彼等を眺めながら、真平は眉を下げた。


――――そう。久蓮さんは、出来ない目標は提示しない。――()()()()()


「だよなあ!? ……知ってるか? 俺、高校ベストが十六分三十二秒だった一年の時の目標、"秋までに十五分二十秒を切る" だぞ? 殺す気か!」


 範昭の言葉には、若干の私怨が混じっているようだ。憤って見せているけれど、彼もまた、久蓮の横に立つために相当努力を重ねてきたのだろう。


「で、達成したと」

「あぁ。鬼畜メニューのお陰でな」

「すご……」

「お前等も似たり寄ったりだろ」

「確かに……」

「や、でも流石にそこまでは……」

「なんだと!」


 目標設定、モチベーションの維持、目標を達成するための効果的な練習。どれもこれも、久蓮(主将)の手腕は素晴らしい。かつて深雪ヶ原も、そうして強くなったのだ。


「ま、まあ、つまりだ。いつも通りってことだ」

「あー……確かに」

「これからまた、鬼畜メニューですねぇ!」

「今までどーり!」


 予定調和のような場の雰囲気を眺めながら、真平は顔を曇らせた。そう。()()()()()なのだ。これでは、高校時代と何も変わらない。相変わらず、久蓮に全てを背負わせたままで――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ