(あとがき)
・(了)2021.12.25
・(最終更新)2022.5.29
〈筆者の所感〉
サッカー一筋だった翔太が、彼らと出会い、陸上の世界に飛び込んだ話、その想い。久蓮の走りを見、蒼というランナーを見て陸上に憧れ、久蓮の演説を聞いて、その「夢」に夢を見た、純粋な翔太。そんな彼は、持ち前の決断力とカンで、「夢への軌跡」を歩き始めるのだった。
桃谷翔太というキャラクターが、蒼と陸上部(久蓮)を繋ぐ切欠として生まれたとき、競技に疲れ、迷う蒼とは対照的に、自信に満ち溢れた、極北大学駅伝部の中で唯一の陸上初心者、という設定も決まっていた。蒼が入部する切欠にもなった、彼の想いと、その見据えるものを書きたかった。
極北大で皆と共に活動を進めていく中で、翔太は、蒼の変化を目の当たりにすることになる。はじめはただ怯えを滲ませて、心から聞こえる叫び声と相反する行動をする蒼に、翔太は疑問を抱く。詳しい事情は解らないものの、無事その揺らぎから脱した蒼と久蓮は、天才の名に違わぬレースを見せる。自身の選択に自信を持っていた翔太はそれを見て、自身の選択が正しかったという自信を揺らがせる。果たして自分もその領域に到達することが出来るのか、そんな恐怖に駆られ、迷う。「翔太が蒼の矛盾に疑問を抱くこと」、「二人の天才の走りに弱気になること」は、かなり初期に決めていた。明るいだけの人なんてそうそういない。誰もが思い悩むのだ、と、そんな部分を書きたかった。
翔太は、チームのムードメーカーという位置づけのキャラだけれど、何も考えていないわけではない。翔太は、持ち前のカンで感じた変化や違和に、彼なりに考え、思い悩んでもいる。蒼のためにも久蓮のためにも、自分は何ができるのかわからないまま、それでも翔太は彼らに憧れ、そしてその場所に辿り着くことを決意する。その意思の強さは、チームにもいい影響を与えている。
〈設定等〉
・翔太のカン
翔太のカンは、天下一品、陸上シリーズの登場人物の中で最高レベル。右に出る者は居ない。読み、察する能力でいくと久蓮の方が上だが、久蓮はカンでなく、桁外れの頭脳で予測しているだけ。
実際翔太は、実力だけでは入れなかった極北大学に合格している。センター試験では九割を叩き出した。サッカーでは、ゴールへの嗅覚という形で活かされている。
・翔太とサッカー
U-18の日本代表FWにもなったことがある、実力者。高校まで、ポジションはトップ一択。持ち前の嗅覚で、得点王に輝いたこともある。俊足で知られており、相手に走り負けたことはない。
感覚が優れているため、ボールの扱いはかなり上手だった。ただ、直情傾向のため、スタミナ切れは多々あった。
・久蓮の視線
翔太に球技と陸上のフォームの違いを示す際、翔太に一周走らせたのは、翔太のフォームを再現するため。あの一周で、久蓮は翔太の身体の走り方を記憶し、それを再現した。
・スピード
久蓮に次いで、部内二番手。インハイ五千メートル覇者の蒼よりも、箱根の王者青谷学院の主将兼エースだった昴よりも、スピードはある。入部当初は精々四百メートル位までしか蒼や昴には人に勝てないが、鍛えて伊勢路本番では三千メートル位までは勝てるようになる。五千メートルは競り合えはするかもしれないが、まだ勝てないくらいのイメージ。
・怖くない、筈がない
感じたこと、信じたことに一直線な翔太だが、人間的な面も持ち合わせているよ、という話。今まで積み上げてきたサッカーでの経歴をあっさりと棄てて極北大へとやってきた翔太。けれど、その道を選ぶ時にはそれなりの葛藤があったし、実際に陸上の道へ進む際にも、一抹の迷いがあったよ、と。大体の人は、一抹の迷いどころではない(そもそもサッカーを棄てない)だろうから、翔太はやはり特殊なのだが。
久蓮は、そんな翔太の心理を見抜いており、また、蒼の葛藤をわかりやすく伝えるために「怖くなかったか?」と問うた。
・新條 枢
翔太がいつも行動を共にする、仲の良いクラスメイトのうちの一人。元サッカー部で、クラスで初めて会った際は、翔太のことを一発で見付け、かつ「こんなところ」にいることでひと悶着あった。現在は、翔太のよき理解者であり、部活動での活躍を心から応援している。八月の駅伝後には、蒼の同級生たちと共に、翔太とサッカーをした。
現在の所属はクイズ研究会。
・天才たち
久蓮、昴、蒼は、いわゆる天才だが、翔太も天才と評されてしかるべき才能を持っている。純粋なスピードは、久蓮に次いで速い。本編でも言及されているけれど、蒼や昴は、二百メートルなど短距離のメニューでは、既に翔太には競り負けるほど、翔太のスピードは速いのである。なお、唯一翔太に勝てる久蓮は、これらのスピード練習では、上のチームで参加しない。
翔太は陸上を始めてまだごく日が浅いため、走り方を知らないが、徐々にその才能で頭角を現し始めることになる。
・宮田 悠
宮田が翔太に一万メートルのレース中に声をかけたのは、「いいレースを見せてくれた久蓮へのお礼」。詳しく書いてはいないものの、悠はレース中、翔太にいろいろとアドバイスをしていた。まさしく「敵に塩を送る」行為。それは、翔太の想いに自分を重ねたからでもある。目映いばかりの才能に、思わず立ち尽くした、あの日の自分に。
・理論派? 感覚派?
(理論)久蓮>>(越えられない壁)>>裕也>範昭≒真平>>昴>蒼>>>大介>真矢>>翔太(感覚)
理論派は、ペース配分をきっちり計算する、フォームや動きを理論に基づいて考える、など。感覚派は、どちらかというと流れに身を任せる。
翔太が真矢に「おれと似てた」と告げたのは、この「理論派」、「感覚派」の観点から。真矢が「大ハズレ」と言ったのは、翔太は俄然スピードが強いタイプだが、真矢はスピードがないことが長くコンプレックスだったから。
・象牙色組
野々口賢吾と秋山唯。学問に没頭する研究者の姿勢=象牙の塔、ということで。研究室にて研究に没頭する彼らを指す。久蓮とは、彼が大学二年生の頃からの付き合い。いずれ彼らの話も書いていきたい。
・キョクノウDCの女子五千メートル
翔太が「久蓮さんみたいだ」と翔太が評した女子選手は、実は暮井珠希という裏設定がある。
・久蓮の脚と翔太
蒼と久蓮の二十キロ勝負の時点の久蓮の脚は、春からここまでの期間の中で最悪(襲撃後なので当然)。それを皆に見せないように必死に耐えている久蓮を見て、翔太は「顔色が悪い」、「様子がおかしい」と感じた。その原因が怪我だということは、気付いていない。なぜならば、そんな怪我で、走れるとは思っていないから。
・翔太と感覚
自身の感覚に頼って走る翔太。けれど、長い距離ではそればかりではダメだと実感する。本当は、別に感覚のまま走ってもよいのだけれど、初心者の翔太には、まだその感覚が「まだ行ける」なのか、「このままでは潰れる」のかが判らない。もう少し慣れてこれば、そのあたりの判断も得意になるはず。




