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夢の続き【番外編】  作者: 灰猫
【目映い軌跡】桃谷翔太
16/87

14.納得できる"スタイル"(天恵7年6月上旬)

――――すごかった、な……。


 ぽつりぽつりと、帰り道を歩きながら翔太は、興奮の余韻冷めやらぬままに、先程のレースを思い返していた。それは、久蓮と翔太の練習――ではなく、その後に行われた、久蓮と昴の()()()()だ。


   *


 絡み合う二人の視線に、焔が宿る。


「「さあ、行こうか」」


 二人の声に反応するかのように、風がつよく駆け抜けた――次の瞬間、地を蹴って駆け出す二人。ギラギラと熱い、光と光が混ざり合う。飛び交うのは青銀と赤金の焔だ。

 インコースで飛び出した久蓮が、レースのペースを作る。ひたすらに相手――昴を振り落とそうとする荒いペースの上下に、アウトコースの昴はしかし、ぴったりと着いて離れない。そして――アウトコース側から、昴が久蓮を抜きにかかった。さっと先頭が入れ替わる。けれど久蓮も、離されることなくぴたりと斜め後ろをキープしている。抜き、抜かれ、また抜いて。それは、あの記録会のとき、蒼とのレースのようだった。

 翔太は、目の前の光景に、思わず息を呑んだ。その熱量に、ただただ圧倒される。


――――これが、"頂点"に立つ者のレース……!


「――"心折れずに奴との競り合いを楽しめる者だけが、その先の世界を見ることが出来るのさ"」


 ぽつり、と。あの日、昴が教えてくれた言葉が口をついて出た。隣に、蒼の視線を感じる。それでも、あの二人から目を離すことはできなかった。


――――おれも……!


 彼らの熱に引きずられるように、翔太は自分の中に燃え盛るほのおを感じた。いつか自分も、彼らと競り合う――そんな日を浮かべながら。


   *


 ()()()五千メートル。そう思わせるほどに、あっという間の十四分間。その時間は、彼ら二人のためだけにあるのだ、と。そう思わせる、到底真似できそうにないハイレベルのレース。翔太はただただ魅せられるばかりであった。

 それでも。自分もこうなりたい、と。あの二人が見た景色を自分も見たいのだ、と。強く感じさせる光景だった。


――――でも、それじゃあ。


 どうすれば、そこにたどり着けるのだろうか、と、翔太は考える。翔太の"納得できるスタイル" を考えればいい、と。久蓮はそう言った。では、翔太のスタイルとは、なんだろうか。

 今日の練習、自分は、二本目のほうがタイムがよかった。あんなに、疲れていたのに。一本目、あんなに速くスタートしたのに、結局最後は疲れて久蓮に離されてしまった。じゃあ、ゆっくり走ればいいのか――? それはなんだか違うような気がする。だって、久蓮は一本目のほうが速かったのだから。


――――でも、おれは遅かった。じゃあ、どうすればいいんだろう――?


「……、……!」


 なんだか、目が回ってくるのを感じて翔太は首を振った。そうして顔を上げた先に見えた人影に、翔太は自分の頭の上で電球が光ったように錯覚した。急いで駆け寄る。


「真矢先輩!」

「ん? ……元気だね。どうしたの」


 そんな翔太を振り返り、真矢は苦笑した。手にしていた参考書を閉じて話に集中してくれるらしい彼に謝って、翔太は口を開いた。


   *


「なるほどね。……で、どうして俺?」


 静かに翔太の話を聞いていた真矢は、何気なく、といった風にそう問うた。翔太は、少し考えて答える。


「似てたから、です。おれに」

「それ、大ハズレ――って言いたいところだけど。確かに当たりだなぁ……。半分は」


 瞬間、冷たい雰囲気をまとった彼は、けれどその空気をすぐにかき消して苦笑を覗かせた。真矢は、翔太と同じ――走るときに、"感覚" を大切にするタイプだと思う。だからこそ。翔太は真矢の話を聞きたいと思ったのだ。


「うーん、そうだね……」


 真矢はそういうと、少しの間考え込んだ。


「主将の伝えたかった事……キミ、もう解ってる筈だよ」

「え?」

「今日の二本のレース。その感覚、今までも感じたことあるんじゃない?」


 確信に満ちた静かな瞳で、真矢はそう言った。

 翔太は、少し考えてみる。初めて参加したタイムトライアル、千五百メートルのときは、初めから全力で突っ込んで、そして途中で疲れてしまった。それはまるで今日の一本目のレースのようで……。そういえば、この間の八百メートル。あれは、今日の二本目のように、最後にスピードを上げてほかの選手を追い抜かすことが出来た。


「……でも」

「分かった? 別に、ゆっくり走るのがいいってわけじゃないよ」


 翔太は、その言葉に、曖昧に頷いた。真矢の言うことは、なんだか難しく感じたからだ。


「駅伝において、"()()()()" は、前に走った仲間の作った流れを切るうえ、後に走る選手に負担を強いる。だから、無暗に突っ込むのはいけない」


 翔太の頭の上に浮かんだ疑問符を敏感に感じ取ったらしい真矢は、くすりと笑った。そしてそう言って、翔太をしっかりと見すえた。


「けど、キミにはそのスピードがあるだろ? 俺にとっては羨ましくさえある、最強の武器だ。それを生かさない手はないだろ?」


 翔太は静かに頷く。確かに自分は、短い距離の練習では、蒼たちともまともに戦うことができる。


「俺は全然スピードがないから、少しずつ、維持できるスピードを上げていっているんだ――今も。キミは、今日の一本目――程とは言わないけど、スピードを維持できる距離を伸ばしていくのがいいんじゃないのかな?」

「スピードを維持できる……距離を伸ばす……」

「そ。まあ、一意見……だけど、ね」


 そう言って、話は終わりとばかりに、真矢は参考書を開き始めた。


「ありがとうございます……!」


 きらきらと瞳を輝かせて、翔太は頼もしい先輩に礼を告げた。真矢は、そんな翔太に、ひらりと片手を上げた。

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