表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の続き【番外編】  作者: 灰猫
【目映い軌跡】桃谷翔太
12/87

10.支え方なんて、知らないけれど(天恵7年5月下旬)

――――ほんと、どうしちゃったのさ。


 あのあと、あのアーケード下で、久蓮は一体、蒼に何を言ったのだろうか。

 程良く晴れて尚、透明感の残る、そんな夕暮れ。翔太は首をかしげてたった一人の同期の姿を眺めた。気持ちの良い天気とは裏腹に、今日も今日とて蒼はイライラしているようだ。その様子は、周りを寄せ付けないほどに荒れている。事実先輩たちは、そんな蒼を少し遠巻きに、心配そうに眺めている。


――――でも、気付いてる? あお、いい調子になってきてるよ。


 あのインカレの日から、怯えた蒼の瞳の色は、怒りや苛立ちにとって代えられた。おそらくは久蓮に向けられているそれが、強く、濃くなるたびに、蒼の調子は良くなっていった。

 これは、久蓮が、何かしたに違いない。翔太は、自身の主将へと視線を向けた。心配そうな色を向けるメンバーたちとは対照的に、久蓮は静かに笑みを浮かべていた。久蓮は翔太の視線に気が付くと、その笑みを深めて、こくり、と頷いてみせた。


   *


「あ……やばい!!!」


 今日も楽しい練習が終わった。そんなことを考えていた翔太は、次の瞬間目を見開いた。そう、すっかり忘れていたのだ。翔太は急いで、蒼の元へと駆けた。


「あおー! レポート教えてー」

「あ? ……何のレポートだよ?」


 本気で情けない声を上げて、翔太は蒼に泣きついた。睨み返されても、関係ない。支えるとか、そんなのは二の次。だって今、自分は、わりとピンチだ。溜め息混じりだって、興味をもって(情けをかけて)くれただけで儲けもの。


「ドイツ語!」

「他所へ行け! 僕はフランス語選択だぞ! 同じクラスの奴はどうした?!」


 勢いよく否定されても、引き下がるわけにはいかない。だって、――。


「……はぁ。……で? いつまでなんだよ?」

「明日の朝イチ」

「はぁ? バカか!? ……バカだったわ…」

「ひどいー。あお助けてー」


 提出期限は、明日なのだから。

 きっと、久蓮に聞けば、丁寧に、けれど的確にこたえへと導いてくれるのだろう。けれど、それは違うと、なぜだか思った。――例え、蒼と共に暫く唸り続ける羽目になるのだとしても。


   *


 結局のところ、翔太の起こしたこの騒動は、三年生までの先輩たちをも巻き込んで、勉強会を開くまでにもなった。

 そして、今。大学図書館の雑談可能スペースにて。勉強会を始めてから暫くたった今は、既に当初の目的だったレポート課題をやり終えている。せっかく皆で勉強するのだからと、他の教科についても出ている課題を行うことになった。先輩たちも、それぞれの課題に取り組みつつ、蒼と翔太に勉強を教えてくれていた。


――――つ、かれた……。


 今日の練習も、かなり身体を追い込んだ、質の高い練習だ。いくら勉強に集中していても、身体に溜まる疲労は隠せない。だんだんと集中力が切れて、そんなことをぼんやりと考え始めたころ。


「やっぱ久蓮さんのご飯がいい~」


 真平が突然、そういって伸びをした。真平もちょうど勉強に疲れてきたタイミングだったのか、それとも周囲の疲れを察したのか。ちょうどいいタイミングだった。思い出したのは、みんなで食べに行った、今日の定食屋のごはんだろうか。翔太は皆の同意を聞きながら、自分もその意見には賛成だ、などと考える。

 久蓮のごはんはおいしい。ほんとうは、ミーティングがなくたって食べたいくらいだ。そんな久蓮の負担になるお願いはできないけれど。


「そろそろお開きにしますか」


 真矢が、開いていた医学書をぱたりと閉じて口を開いた。その言葉に、待ってましたと言わんばかりに、いそいそと片付けを始める面々だ。


――――やっぱみんな、つかれてたんだな……。


 巻き込んで申し訳なかった、と、翔太は少しうつむいた。


   *


 片付けを終え、図書館の外をゆっくりと歩く、帰り道。思い出したように、真矢が零した。


「てゆか、久蓮さんが居れば一発だったんだけどなー」

「頭良いっていう次元じゃないですよね」

「だからじゃん?俺等に交流して欲しかったんでしょ」

「まあ、久蓮さん、研究室めっちゃ忙しいらしいし……」


 話題に上るのは、ここにいない主将のこと。翔太たちが部室を出る前は、なにやら範昭と話し込んでいたけれど。忙しい、の言葉に、この間研究室に行った時の彼の姿を思い浮かべた。パソコンに向かう彼は、確かに忙しそうだった。あれが、久蓮の日常なのだろうか――?


「でも今日、めっちゃ助かりましたよ!!」


 先輩方と勉強できてよかった、と、翔太は心の底から告げた。


「僕も……かなり捗りました。ご飯も奢ってもらって……すみません」

「そういう時は、"ありがとう"でいいよ」

「こちらこそ! またやろうな」


 そう言って笑う彼等は、暖かい。そんな輪の中で、戸惑いながらに微笑む蒼。そんな姿をみて、翔太はなんだか嬉しくなった。

 "支えてやって"、と。久蓮は翔太に、そう頼んだ。正直、翔太には難しいことは解らないし、蒼が何に悩んでいるのかなんでわからない。けれど。これで――こんなことでいいのなら。この輪の中に呼ぶだけで、いいのなら――。

 翔太は笑みを浮かべた。


――――何度だって呼ぶよ。おれたちは、仲間なんだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ