二月 バレンタインは戦争だ?
二月
一日
有希子さんとのゲレンデ旅行(正しくはヤロー共とのゲレンデ旅行)から半月後、貴之は意気込んでいた。二月は男にとって重要なイベントがあるためだ。ゲレンデ旅行で意中の有希子さんとまさかの接点によって、男にとっての重大なイベントで結果を出せるのでは? と、勝手に妄想を膨らませていた。
それは、バレンタインだ。
チョコレート製造会社が仕掛けたこのイベントは、いつしかチョコレートの数イコール男としてのステータスと化していた。結果として、学校生活ではチョコレートの数でスクールカーストの身分が決まることにもつながっている。あくまで、一部の話であるが・・・
チョコレートを楽しみにしているのはせいぜい高校生までと考えている人は多いが、貴之は違った。この男は、まだ二月ではあるが、今年最大規模のイベントを成功させるべく、躍起になっていた。まさしく、お年玉を受け取ることができる対象年齢である。
この日の講義は、高さ四メートルはあろうかという大きなホワイトボードや黒板がある、大学の中でもとりわけ大きい第一講堂室で執り行われる。共通学科科目のため、貴之とは研究室の違う昭一や、学部も違う有希子も集うことになっている。
貴之が講堂に到着すると、昭一の隣で弘志が一番後ろの席で手を振りながら貴之を手招いていた。弘志と昭一の間に座席のスペースを作り、貴之の予約席としていた。一番後ろの席にしたのは、もちろん、居眠りをしてもバレにくい利点のためである。
周りの学生たちも、仲がいいグループ同士ですでに固まって雑談をしていた。貴之が予約席に座り、講義開始まで時間があったため、三人は雑談を始める。
「弘志、昭一。二月は俺たち男にとって重要な、絶対に負けられない戦いがあるぞ」
「節分だろ」
「なんでやねん! どこに年頃の男が節分を楽しみにしているんだ?」
弘志は一体何を言いだすんだ? 冗談で言っているのかと貴之は思った。昭一はまた二人が漫才を始めたとばかりに、にやにやと二人の様子を眺めていた。
「お前こそ何寝ぼけたことを言っているんだ? 節分といえば、鬼を撃退する重要なイベントじゃないか。そう、俺たちに共通する鬼といえば、あのにっくき教授だ。いつまでたっても俺たちの卒業研究の論文にいちゃもんをつけてきやがる。それも研究内容や理論的なことではなく、日本語表記についてばかりの手直しだ。『断続』じゃなくて『継続』だと? ニュアンスは同じだから、そんな細かな表記なんか気にしなくていいだろ。そんなどうでもいいことに、俺たちの貴重な青春の時間が削られていくんだぜ。これが鬼と言わず何かね。だから、節分は鬼(教授)めがけて思いっきり豆をぶん投げることができるんだぜ。どうだ、ワクワクしてこないか?」
一理ある、と妙に納得してしまう貴之であった。いや、違う違う。危うく弘志の考えに納得してしまうところであった。
「そーじゃない。いや、確かに一理あるけど。あの堅物な教授に豆を思いっきりぶつけるのは最高だけど、そんなつまらないものに時間を費やしてはいられない」
「つまらないだとおぉ? くらえぇぇいぃぃぃ!『空中・・・・』」
待て待てと貴之は静止する。またくだらないチョップをかまそうものなら、大講義室にいる学生から冷ややかな目を向けられることは、言うまでもない。注目されて縮こまるほかない。昭一は、二人の漫才に笑いをこらえながら傍観していた。弘志の火山が鎮火したタイミングで、貴之が改めて話をする。
「あるだろう、二月となれば男たちの絶対に負けられない戦いが。それは、バレンタインだよ」
「バレンタインか・・・ お前、そんな子供だましなことにまだ執着しているのか?」
グサリとする貴之。確かに大学生、それもこの春から社会人になる身で、いまだにバレンタインに執着するのは、かっこ悪いことなのだろうか。だが・・・
「おい、ちょっとまて。今年の正月弘志はなんて言った? 恋愛をするんだぁ! って叫んでなかったか」
「いや、そんなフレーズは言っていない」
「言っただろ」
「だから、そんなフレーズで言ってないってさっきから言ってるじゃないか。俺が言ったのは、『大学生活でまだ足りないことがある! いいか、それは恋愛だ!!』だ!」
屁理屈だこれは。言葉が違うだけで、意味はまるっきり同じじゃないか。さっきまで、どこぞの鬼(教授)の日本語表記のこだわりなどどうでもいいと言っていたが、その教授とまるっきり同じじゃないかと、貴之は冷ややかな目を向けながら呆れていた。
だが、そんなツッコミを入れたところで、行きつく先は訳の分からないチョップだと判断した貴之は、はいはいそうですね、とやり過ごした。昭一はノートに『すべらない話』リストとして、貴之たちの会話をメモしていた。
「だが安心したまえ。我はいつでも世の味方であろうぞよ。で、バレンタインのチョコをもらいたい女子ってのは、一体誰なのかな?」
貴之は同じ講義室にいた、女子グループの方を指差す。その中のうちグループの中でも天真爛漫で笑顔が眩しい女子がいた。もちろん、有希子のことである。
「貴之。あれは無理だ。中学生の寄せ集めクラブチームがメジャーリーグオールスターに挑むようなものだ。負けは見えている。やめておけ」
「ここは、弘志に一票だな」
弘志の評価は酷であった。さらに、ここにきて昭一も会話に加わった。どうやら、貴之が相手では歯が立たないらしい。だが、先月のスキー旅行で有希子と一緒にゲレンデを滑ったことで、有希子とは接点があった。
まったく面識がないわけではないため、勝機はゼロではなかった。ちなみに、ゲレンデの出来事は、二人にはまだ話してはいない。
「とは言っても、俺たち二二歳。あと二ヶ月もすれば、大学を卒業して社会人になるじゃないか。そんな中学生のようにチョコだなんて、甘ったれたこと言ってんじゃねぇ」
「チョコだけにって言いたいのか?」
「バカヤロー! だれがそんな親父ギャグを言えっていったあぁぁ!!」
そうして弘志は貴之に、お決まりの『空気なんちゃらチョップ』をかましてしまった。不意打ちをまともに食らってしまった貴之は、思わずうめき声をあげる。これだけワイワイガヤガヤやっていては、周りからヒソヒソと指を刺されていた。
一瞬、有希子がこっちをみていたように貴之は思えた。
昭一は座席を一つずらして、この変態グループの一員と思われないよう他人のふりをしていた。
一日の講義が終わり、貴之と弘志は途中のスーパーで教授への豆まき用の落花生を購入したのち、外資系チェーンのカフェで有希子さんからバレンタインチョコをもらう作戦会議をすることにした。高校の放課後の時刻と重なったからだろうか、店内は高校生が大半を占めていた。
幸いにも待ち時間なく対面式のテーブル席に着くことができた二人は、プラスチック容器に入れられたコーヒーを片手に話を始めた。余談であるが、昭一には彼女がいるため、この日はデートなのだそう。うーむ、なんて羨ましい奴だ。
「それで、お前の作戦というのはなんだ? 相手がランディジョンソン級の剛球ピッチャーの球を弾き返すには、中学生レベルのお前じゃ難しいぞ」
なぜ弘志はありとあらゆる例えを、野球で表現するのだろう。それも一昔前のメジャーリーガーを取り上げるのか。だが、野球に詳しい貴之にとっては、理解するには格好の素材でもあった。ここでも、二人のマニアックな会話がさく裂する結果となった。
「確かにそうだ。それに彼女との接点と言える接点があまりない。いきなり声をかけるのもおかしな話だろう」
「特に貴之からだとな」
「それは弘志も同じだろうが!」
バトルが勃発した。
ラウンドワーーーーン! ファイト!! 『カー――ン!!』
二人とも教授に向けて投げ込むために買った豆を二日フライングして投げ込むところであったが、直前で踏みとどまった。そもそもここはカフェである。カフェで豆まきをした日には、出入り禁止+町の有名人となる。いや、既に高校生より騒がしい大人として、高校生の方が白い目で二人を見ていた。
豆まきが未遂に終わり、二人は再び話を続けた。
「そうだな。でも全くの面識がないというわけではないんだろ。それなら望みはある。声をかけるだけなら問題はないだろう」
「実は・・・」
貴之は先月のスキー旅行で、弘志と昭一が上級者コースを滑っている間に、有希子と二人で滑っていることをカミングアウトした。
「な・な・なんだってえぇぇぇぇ!? ふ、ふざけるなあぁぁぁぁ!!!!」
未遂となったバトルから二分後、早くも本日二度目のバトルが勃発した。
ラウンドツーーーー! ファイト!! 『カー――ン!!』
弘志は教授に向けて投げ込むために買った豆を二日フライングして投げ込むところであったが、直前で踏みとどまった。そもそもここはカフェである。カフェで豆まきをした日には、人口一〇万人程度のこの街でなら三日と経たずに全住民に名前を知られることになるだろう。そうなれば、もうこの街に住むことはできない。それ以前に、既にいい年をした男性二人が仲良くカフェにいることで、奥の女子高生からは怪しい視線が送られていた。
「お前は、ヤローどものスキー旅行で、そんなアバンチュールな夜を過ごしていたのか?」
アバンチュールとは、とっくに死語だろう。だが、ここでそんな突っ込みをしては、本日三度目のバトルに発展しかねない。次は本当に豆まきをしてもおかしくはない空気になりつつある。三度目の正直というやつか。
「とはいっても、実際にはただスキーを教えただけだよ」
「初心者コース専門のお前が、か?」
「まぁ、有希子さんはそこまでスキーの腕はなかったんだよ」
「お前に教わるレベルなら、一体どれほどの腕前なんだ? 小学生レベルか?」
今度はこちらからバトルを宣戦布告して、豆をぶちまけそうになった貴之である。有希子のことをバカにされ、怒りでこめかみがピクピクと動いていた。有希子さんのことを悪く言うやつは許さないと、怒りの貴之であった。彼氏でもないのに。こういうタイプがストーカーとして、世間を騒がせる事件を起こすのであろう。
結局、この日は単なる雑談だけでカフェを後にすることとなった。よって、バレンタインの作戦など全くと言っていいほど決まらなかったのは言うまでもない。
三日
この日、貴之たちは研究室で教授にめがけて豆まきをして、教授にこっぴどく怒られたのち、再びいつものカフェにてバレンタインの作戦会議をした。だが、その前に、教授に対してのうっ憤晴らし大会になっていた。余談であるが、昭一には彼女がいるため、この日もデートなのだそう。うらやましい奴だと、貴之と弘志は口には出さなかったが、内心昭一に嫉妬していた。
「しっかし、節分なんだから豆まきくらいしたっていいじゃないか。それを、あの教授は何故こうも怒鳴り散らすのか」
「いや、教授にめがけて『おにはーそと』って言ったのはまずかったな」
弘志の発言に貴之がコメンテータやカウンセラーのように、回答をしていく。
「にしても、教授は何に対して怒ったと思う? 豆まきか、それとも教授に鬼と言ったことか」
「両方じゃないか?」
「それにしても、『お前たちはこの室別という、素晴らしい街の恥さらしものだ!』とか言っていたけど、お前は室別市長かってーの」
「こんな辺鄙な街なんか、道外に出れば知名度が皆無だというのに」
話をしていくうちに、だんだん豆まきの問題解決など、どうでもよくなってきた二人であった。やや冷め始めてきた二日前と同じコーヒーを飲みながら、やがて、本題バレンタインのことを話し始めた。
「いいか、これからバレンタインチョコ大作戦会議を始めるぞ!!」
弘志の張り切りをよそに、これで何度目の作戦会議だと、貴之は呆れていた。
「まずは、目標物の奪取から打ちあわせるぞ」
「なんで軍事作戦みたいにしているんだよ」
「バカヤロー! バレンタインは軍事作戦そのものだ!!」
ダメだこりゃ、と貴之は口をぽかんとあけながら呆れていた。
「バレンタイン必勝法その一、バレンタインに意中の人と会うことだ」
それは大前提であろうと、貴之は右から左に聞き流していた。そもそも同じ大学にいるのにも関わらず、バレンタインチョコを宅配便で送ることはあるのだろうか。お中元ではあるまいし。
次に、その二の作戦はどのようなものかと、貴之は聞いてみた。
「その二は、バレンタインに意中の人と話をすることだ」
この調子でいけば、いったいいくつの作戦があるんだ? 肝心のチョコレートをもらうまでには、煩悩並みの一〇八近くあるのではないかと貴之は想定した。
「弘志、そんな当たり前なことは十分承知だ。そもそも会って話をしなければ、チョコをもらう舞台が整っていないじゃないか」
だが、弘志はテーブルをたたきつけて、もう片方の手はグーで握りしめて演説のような口調で話し始めた。その姿はまるで、昔のアメリカ大統領の所信表明演説を意識しているかのようであった。
「何を言っているんだ? まず、お前には有希子さんと出会える機会が無条件に設定されているとでもいうのか? そんな当たり前の舞台がお前に用意されているとは、到底思えないがな」
鋭い。思えば、有希子さんとまともに話をする機会すら危ういことに貴之は気がついた。弘志が考えた作戦があながちバカにはできないと、貴之は真面目に弘志の話を聞くことにした。
「確かに話をする部隊の用意はできていない。これは重要だよ。案外この作戦はいいかもしれない。それで、次の作戦は何だ?」
「バレンタイン必勝法その三、バレンタインに意中の人に『バレンタインチョコをください』ということだ」
期待した僕がバカだったと、貴之は落胆した。その必勝法の二から三に移るまでが重要じゃないか。
「もし、チョコを持ってなかったらどうするんだ?」
「そんなもの、誓約書を書かせればいいだけだ。『次回貴之さんと会ったときには、バレンタインチョコをお渡しします』と」
ダメだこの男は。そんなコントみたいなことを現実世界で起こせば、脳神経外科に送り込まれるか、ネットで散々な目にあわされることになる。そもそも、そんなねちっこい男なんか女性はドン引きするだけだ。だからと言って、そんな誓約書にサインする女性も、何となく幸薄そうで嫌だ。高嶺の花の有希子さんのイメージが崩れると、貴之は勝手に想像する。
やがて、バレンタインチョコ大作戦会議は、通常国会のように具体的な方策が決まらないまま、終焉を迎えた。これも、野党である弘志が変なことを言い出した結果だ。さらに、いい年をした男性二人が仲良くまたカフェに来たことで、奥の女子高生は『室別市にゲイカップルが現る』として、SNSを通じたグループトークで盛り上がっていた。まぁ、連日のようにカフェに入り浸っていては、無理もない。
一四日
いよいよ決戦の時が来た。
貴之たちはありとあらゆる作戦? をこの日のために練ってきた。いや、弘志の案はあまり参考にならない。だから、作戦なんかないようなものか。しいていうなら、神風特攻隊というところで、当たって砕けろか? と貴之は感じていた。どうやら、弘志が唱えていた軍事作戦が脳内にうつったようだ。
この日のゼミが終わり、貴之がキョロキョロと有希子を探していた。既に講堂にはいないようで、廊下を捜索した。
「有希子さんはどこに行ってしまったのだろう。講義を受けているところまではばっちりいたのにな」
「あっ、貴之さん」
「うわあぁぁぁぁぁ!!!」
背後から突然声をかけられたことで、驚きの声をあげたわけではない。この声は間違いなく有希子さんだ。探していた有希子さんに声をかけられたことに驚き、声を上げてしまった貴之であった。
———落ち着け。ここはいたって紳士的に振舞うことだ。開口一番に『チョコください』なんて言ってはダメだぞ。
「あ、あの。有希子さん。な、何かありましたか?」
「えぇ、ちょっとね」
これは願ってもみないチャンスだ。まさか有希子さんの方から声をかけてくれるだなんて。このチャンスを逃してたまるか。貴之は、自身で考えたスペシャルA作戦を実行することにした。
「そ、それなら、い、今から・・・、お、お茶でも」
「ごめんなさい。卒論が忙しいから、そんな時間がないの」
Kー――O―――!!! 貴之の頭の中でKO負けのゴングが鳴り響いた。一ラウンド一〇秒TKO負け。俺の人生は終わった。一体何だったんだあの神社は? 全く祈りが通じてないじゃないか! コンチクショー!!
「だから、あの、これを、貴之さんに」
有希子が差し出したのは、ピンクの包装紙にくるんで赤いリボンが付いた正方形の箱であった。
「も、もしかして、これはバレンタインチョコですか」
「えぇ・・・」
Kー――O―――!!! 貴之の頭の中でKO勝ちのゴングが鳴り響いた。一ラウンド二〇秒TKO勝ち。生きててよかった。やっぱりあの神社はすごかった。祈りが通じていたぜ! コンチクショー!!
すっかりのぼせ上がる貴之であった。
(この前のスキーを教えてもらったお返しなんだけどね。スキー旅行から帰ってきてから卒論で忙しかったから、お礼の品が買いに行けなかったけど。二月だし、ちょうどバレンタインの時期だったから義理チョコでいいかって思ったけど、変に誤解を与えてしまったようね・・・)
この残酷な事実を貴之は知る由もない。事実、この日から有希子と大学内で会うことはなかった。
貴之はバレンタイン大作戦の成果を、いつものカフェで昭一を含め報告することとした。余談であるが、昭一には彼女がいるのだが、この日は彼女がアルバイトなのだそう。そのため、バレンタインの日にヤローどもの会合に参加した態である。それにしても、女性に対してバレンタインの日にアルバイトのシフトを入れるとは、なんという会社であろうか。いや、それだけ世の中は厳しい社会なのであろうか。
「弘志、昭一。俺はやったぞ。見事に、有希子さんからバレンタインチョコをもらったぞ!」
「「な、なんだってぇぇ!!」」
貴之の結果に驚く二人である。まさしく、ランディジョンソンの剛速球を貴之はホームランにしたのだ。テーブルには、有希子からもらったバレンタインのチョコレートが入っている箱が置かれていた。
「奇跡だよな、昭一。あの倉田さんから貴之がバレンタインチョコをもらうだなんて。これは、世界最速ピッチャーであるチャップマンの剛速球をF一セブンの一号車である赤星が、グリーンモンスターの異名がある超高層のライトフェンスとして知られるフェンウェイパークで場外ホームランを打つようなものだぞ」
「あぁ、貴之があの彼女からチョコをもらったのは奇跡に間違いないが、誰もその野球の例えを理解できる奴はいないだろうな。それに、場外ホームランを打つなら、ライトフェンスのグリーンモンスターは関係ないんじゃないか?」
ワイワイガヤガヤとしている三人に、これまた常連の女子高生が『室別市のゲイカップルに、三角関係勃発。彼氏が彼氏を奪い合い。テーブルにはなんと奪い合いのバレンタインチョコが』という、写真付きの投稿が瞬く間に高校生に広がることとなったが、三人は知る由もなかった。
その日の夜、貴之は自身の部屋でルンルン気分で有希子からのチョコが入った紙袋をはがした。そこには有名高級チョコレートの名前が書かれていた。手作りチョコでなかったのが残念だったが、じっくり時間をかけてチョコレートを食べ、紙袋などの包装は大切に保管した。