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母と猫

作者: 孤舟


母が亡くなった。


くも膜下出血だった。


実家の風呂で眠るように亡くなっていたらしい。

母と一緒に実家に住んでいた姉が仕事から帰って

発見しこちらにも連絡が来た。


連絡が来たのは深夜であり、警察の検死のため

顔も見れないということで朝一で実家に向かうことにした。


実家に着いた。数年ぶりである。

そこでは姉が泣いていた。

もう少し早く仕事から帰っていればと。姉が帰宅した時

風呂は生暖かった。

つまり亡くなってからそう時間は経っていなかったのだ。


姉を励ましつつ通夜や葬式の準備をする。

そして検死が済み母の顔を見ることができた。

青白い顔。もう母は動かない。喋らない。笑わない。


私は母子家庭で育った。

父は物心つく前に亡くなっていた。

たった一つ朧げに覚えているのは夜仕事から帰った父親を

迎えに母に抱かれ玄関に出たときの暗がりに光る

タバコの火に照らされる父の顔。


それからずっと女手ひとつで育ててくれた

母だが、私は通夜や葬式で特に涙の一つも出せなかった。


私は無感動で薄情な親不孝者だったのか。


諸々落ち着き、実家で遺品整理をする。

ふと居間に掛けられたカレンダーに目が向く。

○月△日。映画鑑賞と書かれている。2週間後だ。

これは何だと姉に聞くと母は猫の映画を

見に行く予定だったと言う。

母は猫好きで家には猫が一匹飼われている。

猫に関するものには目が無い母であった。


なるほど母らしい。

見たかっただろうなと思い母の代わりに

せめて見てくるかと決めた。


そして当日。

猫の映画は猫と爺ちゃんのふれあいが

メインのストーリーであった。

無言で見る。そして爺ちゃんが次第に

母に置き換わって見えてくる。


涙が溢れ出す。今まで泣けなかったのに。

止まらない。周囲の人が見ているのがわかる。

でも嗚咽が止まらない。


たまらず映画館を出た。そこで母との思い出が蘇ってくる。


私達を再婚もせず1人で育てた強いお母さん。


捨て猫を初めて拾ったとき、飼うのを反対していたけど

結局自分が1番可愛がった優しいお母さん。


ゲームを買って子供が夜まで熱中するのを叱って寝かした後

夜中に1人でプレイするお茶目なお母さん。


お母さんお母さんお母さん。


死に目に会えなくてごめんなさい。

心配してくれるのを邪険にしてごめんなさい。

なかなか会いに行かなくてごめんなさい。


こんな親不孝者でごめんなさい・・・


もし来世があってまた親になってくれるなら

今度こそ孝行するからね。


愛して育ててくれてありがとう。

そして、ゆっくり休んでください。


それから1ヶ月。実家の猫が亡くなった。

母の位牌の前で動かなくなっていたらしい。


12歳の老猫だが、母が亡くなってから

日増しに衰弱していったのだ。


母が寂しがって呼んだのかな。

それとも逆かな。すごい懐いていたし。


今姉が送ってくれた母と猫が映った写真を見ている。


母に撫でられ幸せそうな顔をしている猫。


お母さん。


貴方の子はこれからも生きていくよ。

駄目な私だけど出来るだけ生きた後会いにいくよ。


猫と一緒に待っていてね。


どうか安らかに。



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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり女性と猫の絆を描いた内容って良いですよね。
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