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ゴミ99 達人、技術者に餌を与える

 3月17日、午後4時。

 ドラゴンを倒した俺たちは、山間部を通り抜けて、ヒルテンに到着した。山間部を通り抜ける間にもいくつか街があったが、特に何も起きなかったし、素通りしたから語るほどの事はない。


「さて、領主の屋敷はどこだ?」

「クなら知ってるんじゃないか?」

「案内するわ。

 でもその前に、学園長に会ってくれないかしら?」


 車の開発に協力したことを、学園長にも報告したいとの事だった。その席に俺が同行したほうが、事がスムーズに進むらしい。


「そうか。分かった。」

「いいのか? 学園長にはクから報告してもらって、会うのは後日という事にすれば、屋敷の場所だけ聞いて浩尉も領主にアポを取るぐらいの事はできると思うが。」

「そういう手もあるな。

 けど、構わないだろ? ゴミ処理のことは急がなくても今まで通りだが、ゴッドアの流行病は急がないと今まで通りを維持できない。」

「なるほど。確かに。」


 そういうわけで、クに同行して学園に向かうことにした。





 日本の感覚でいうと、それは大学のような建物だった。

 ルマスキー学園。魔道具の開発者を育てる事を目標としている教育機関で、クが通っている学園だ。

 勝手知ったるなんとやら。クはすいすいと進んでいく。その先は学園長室だった。クがノックして、中から「入れ」と返事があった。入ってみると、室内は校長室そのものだった。


「ただいま戻りましたわ、お父様。」

「クよ、学園では学園長と呼べと言っているだろう。」

「ただいま戻りましたわ、学園長。」


 クは面倒くさそうな顔をして、素直に言い直した。

 車の開発の話になると貴族相手でも遠慮がなくなるクが、その報告のために来たのに素直に従うということは、この学園長というのも従わなければ(めんどう)話が進まない(くさい)性格なのだろう。そうと承知しているから、さっさと本題に入りたくて素直に従っていると考えれば、クの態度も合点がいく。


「それでいい。

 ……で、そちらの2人は?」

「ゴッドアで車の開発に協力して下さった方々よ。

 こちらは廃棄物処理特務大使の五味浩尉騎士爵。

 そちらは、大使様の護衛でアローさん。

 特に大使様のおかげで、試作品の試運転どころか、一気に完成品まで事が進んだのよ!」

「いやいや、まだ完成とは言えないぞ。

 サスペンションを教えるのを忘れていた。」


 ついでに俺の車に搭載するのも忘れていた。

 おかげでヒルテンに来るまでの2日間で、けっこう尻が痛くなった。


「「サスペンション?」」


 クと学園長が同時に食いつく。

 クはともかく、学園長はいい歳したおっさんなんだから、その顔で迫ってくるとちょっと怖いぞ……。


「教えるから落ち着け。

 あと、実際に作ったら俺の車にも取り付けてくれ。」

「「任せて(おけ)!」」


 また親子でハモる。

 技術者を味方につけると、こういう時にありがたい。今度から尻の痛みに悩まされなくて済むだろう。

 すぐにサスペンションについて教えると、2人してクの車へ走っていった。俺たちが追いついたときには、もう車を分解してクラッチやユーザーインターフェースについて興奮している学園長と、自慢げに説明するクの姿があった。


「さすが親子……。」

「似たもの同士だな。」

「そういえば、学園長の名前は何だろうな?」

「クの親だし、ドワーフだろうから、また1文字なんじゃないか?」


 しかし、学園長の名前を聞けたのは、サスペンションが完成してからだった。

 2つの小さな火を近づけて合体させると、大きな火になる。それと同じことが、この親子を1カ所に集めると起きてしまうようだ。技術バカとでもいうべき特性が、1人でいるときよりも強くなっている。





 3月18日、午前9時。

 結局、昨日はクと学園長がサスペンションの開発に夢中になってしまって話にならなかったので、俺たちは酒場へ出かけて夕食を済ませ、宿屋に部屋を取った。

 明けて翌日、そろそろ親子の熱も冷めているのではないかと学園へ出向くと、車を走らせて興奮している2人がいた。


「なんという滑らかな乗り心地!」

「快適快適ィ!」


 世紀末のモヒカン野郎よろしく、だいぶヒャッハーしている感じだ。

 まだ話が通じそうにない。

 こういう時は次の餌で釣るのがいいだろう。


「そろそろ話をしようじゃないか。

 それが済んだらタイヤについて教えよう。」

「「タイヤ!?」」


 親子ともども、マッハで降車して詰め寄ってきた。

 効果は抜群だ。


「話が先だ。

 そもそもクが要求するから同行したのであって、俺たちには学園長に用事なんかないんだからな。」

「頼まれて同行したのに放置するとか、親子そろってだいぶ失礼な連中だな。

 浩尉はこれでも一応貴族なんだが?」


 技術バカに少しは理解のある俺と違って、アローは昨日からすでにイライラしている。

 いい加減にしないと処すよ、と言わんばかりのアローを見て、親子はちょっとやらかしてしまった事を理解したらしい。引きつった笑顔で揉み手をしながら2~3歩後ずさった。


「や、やだなぁ……あははは。」

「申し訳ない……うふふふふ。」


 2人の態度を見て、アローは大きなため息をついた。

 見かねて俺が口を開くことにした。


「とりあえず、昨日クから俺たちの紹介は終わっているわけだが、そちらの学園長については紹介してくれないのかな?」

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