ゴミ98 閑話 とある冒険者たち
わざとバカっぽい言い回しを使っています。
誰か、俺たちのこと覚えてる?
第1章のあとでキャラクター紹介にも出てきたんだけど、そのときの説明文はこうだ。
アローを仲間にしていた冒険者たち。年齢不詳。彼らの出番はもうない。完全にモブキャラである。いつか閑話でアローの活躍に驚く話とかあったら、再登場するかもしれない。まあ、もしもそんな閑話があったらの話だが。
そう、俺たちだ。
まさかの再登場である。
メタい? すまない。今回はそういう芸風なんだ。というか、あまりにもモブすぎて、これ以上分かりやすく登場できないんだ。本当にすまないと思っている。
そんな俺たちだが、実はディバイドで酒樽作り選手権大会を観戦していた。1月28日のことだ。爆発が起きて、観客席にいた俺たちは競技場の瓦礫に埋もれてしまった。あれはさすがに死ぬかと思ったが、運良く生き延びた。まったく、運がいいんだか悪いんだか分からない話だ。
生き埋めになった俺たちを助けてくれたのは、最近噂の大使殿だった。紙飛行機を発明したとか、キオートで大活躍したとか聞いたが、俺たちを背負ったまま瓦礫の上を駆け抜けるんだから、とんでもない体力と身体能力だ。
キオートでの活躍のときには、隣に例のゴミエルフがいたという話も聞くが、そのゴミエルフまで活躍したというんだから、これはだいぶ眉唾ものの情報だと思っていた。でも、少なくとも大使殿が凄いのは確かなようだ。とすると、ゴミエルフの活躍もある程度は事実が混じっているのだろう。
となると、気になるのは、どこまで事実なのかだ。
とはいえ、ゴミエルフのことは散々コケにしてしまったので、本人から直接聞こうとか大使殿から聞き出そうとかいうのは、ちょっと危険が危ない気がする。別にゴミエルフ本人から聞き出すのはいいが、そこに大使殿が出てきたら面倒くさそうだ。あの大使殿はめっちゃ人命救助しまくってたから、たぶん熱心な善人なんだろう。熱血系の正義漢とかかもしれない。だとすると、ゴミエルフに絡んでいるところを見られたら、逆にこっちが絡まれそうだ。面倒くさい。面倒くささが腐りかけの生ゴミぐらいのくささだ。分かりにくい? すまない。真夏にコンポストのフタを開けた時よりはマシだ。なんかそのぐらい面倒くさい人っているよね。……すまない。話がそれた。
で、だ。
とにかく本人や大使殿から聞き出すのは諦めて、ちょっとあのゴミエルフがどんな感じで戦うのか見てみようという事になった。それでゴッドアまで追いかけて、わざわざ隣の部屋に宿を取った。運がいいのか悪いのか、あいつら、俺たちにはちっとも気づきやしない。自分たちのモブっぷりがこんなところで役に立つとは。世の中わからねぇもんだな。
だが、ここからが大変だった。あいつらは、ゴッドアで2週間も馬車をいじっていたかと思うと、その後は馬なしで走る馬車に乗って移動だ。スピードは俺たちの全力ダッシュの半分ぐらいだが、普通に歩くよりは倍ぐらい速い。おかげでずっとジョギングする羽目になった。
さらに大変なことが起きた。ドラゴンだ。俺たちは見つからないように茂みに隠れた。あいつらは馬なし馬車に乗っているから、隠れられない。さあ、どう戦うのか見せて貰おう。たぶん牽制しつつ逃げるだろうから、戦いといっても消極的なものになるだろうが……。
「「ええ~……。」」
大声が出なかった俺たちを、誰か褒めてくれ。
だが声は漏れた。
信じられない光景だ。大使殿がデカい岩を振り回してドラゴンを殴り倒した。ゴミエルフのやつは、もう1人の女と一緒にきゃーきゃー言っているだけだ。やっぱりゴミエルフだったか。
「アロー! 汚名返上するんだろ!?」
大使殿が叫ぶ。
ゴミエルフが矢を放った。
ドラゴンの目玉に直撃。目玉が砕け散る。
なるほど、目玉なら鱗には守られてないからな。
ってか、ドラゴン超怒ってるんですけど!? めっちゃ激おこじゃん! そりゃ片目潰されたら怒るよね! うわー! ブレスの構えだ! 死ぬ! 死んじゃう! 俺たちまで攻撃範囲にィィィ!
「「~~~~ッ!」」
揃って震え上がるしかない俺たちを、誰も責められないだろう。ドラゴンなんかとかち合ったら、生き延びるだけで奇跡だ。
けど、あいつらは違った。
「アロー!」
「シッ――!」
今まさにブレスを吐こうとするドラゴンに、ゴミエルフが矢を放つ。
その矢はドラゴンの口に吸い込まれるように消えて、直後、爆発音とともにドラゴンはぐらりと倒れた。勝ったらしい。バカな。ドラゴンを殺しちまいやがった。Sランク冒険者でも滅多にできねぇ大偉業だぞ。意味がわからねぇ。なんでゴミエルフにそんな事ができるんだ? あの変な車輪がついた弓はなんだ? あの鉢植えはなんだ? マジで意味がわからねぇ。
条件さえ揃えばゴミエルフでもドラゴンを倒せる? ドラゴンがそんなにたやすい相手か? そんなわけねぇ。ドラゴンだぞ。世界最強の生物だぞ。じゃあ何だ? あのゴミエルフが実は、条件さえ揃えばドラゴンをも倒せるスーパーエルフだった? そんなバカな。あんな弓も魔法もろくに使えないポンコツが? いや、でも、普通に弓使ってたよな? 何なんだ? あの変な弓は、ゴミエルフを超人に変えるような魔道具なのか? 全然魔力の「ま」の字も感じないんだが? じゃあ、やっぱり実はスーパーエルフだったのか?
呆然としている俺たちには気づかないまま、あいつらはドラゴンの死体を魔法の鞄にしまって立ち去った。いやいや、ドラゴンの巨体を収納できるとか、どんだけ高性能な魔法の鞄だよ。あの袋はずいぶんデカいけど、それでも普通ならドラゴンの頭入れるのがやっとだわ。全身入るとか意味わからん。けど、あの袋からは結構ヤバい魔力を感じる。強力な魔道具なのは間違いないだろう。あの大使殿から盗めるとは思えないが、もしも手に入れば……いや、高く売る以前に、俺たちの身が危ないか。あんなの持ってたら、どこの誰から狙われるか分かったもんじゃねぇ。
しかし、見たものがあまりに非現実的すぎてどうにも考えがまとまらないが、どうも考えれば考えるほど、実はスーパーエルフ説が一番現実的のようだ。うーむ……。実はすごく惜しい人物を追放したのか? でも、俺たちにスーパーエルフの本領発揮に必要な条件を満たせるだろうか? 無理だな。ドラゴン殴り倒すとか無理だ、無理。できっこねぇ。あいつがスーパーエルフだとしても、俺たちみたいな一般レベルの冒険者には合わせられない奴だってことだ。手加減できない馬鹿力みたいなもんだな。それはそれでゴミだ。ドラゴン殺しは凄ぇけども。




