ゴミ93 達人、フルサイズを試す
3月4日、午後5時。
ドワーフの少女クは、俺の助言を取り入れて車の試作品をすでに改良していた。教習所の生徒みたいにカクカク操縦していたクを見かねて、俺は代わりに運転してやった。悪くない乗り心地だ。農機みたいにガクガク動いていたのと比べると、雲泥の差である。
「それで、とりあえず試作品で見つけた問題は解決したわけだが、完成形はフルサイズの馬車だろう?
次は大型化してみるべきだと思うんだが。」
試作品はゴーカートぐらいのサイズだ。
フルサイズの馬車というのは、この場合は荷馬車を想定しているから、真上から見た面積だけで6倍ほど違う。車体重量や最大積載量などが大幅に増えることになるから、新しい問題が色々と発生するだろう。パワー不足や強度不足は試すまでもなく、そして実際に走らせれば振動が意外と激しいはずだ。
「そうね。
それで相談なんだけど、昨日『追加で欲しければ、まだあるから言ってくれ』って言っていたのは、まだ有効かしら?」
「構わないが、今日から猫耳商会を通して商品として流通させる事になったから、際限なくいくらでもくれてやるというわけにはいかないぞ?」
◇
3月5日、午前9時。
フルサイズの馬車を宿屋の一室で作るわけにもいかず、俺たちは近くの公園へ移動した。昨日はもう日が暮れていたから、朝を待っての作業開始だ。
「まずは馬車を出すか。」
俺に出せるのはゴミだけだが、馬車の中にもゴミとして捨てられたものがある。
まずはそれを取り出すが、ゴミとして捨てられただけあって、ボロボロである。
そこで、修理のために資材を出す。ゴミを素材別に分類するスキルと、素材ごとに融合するスキルを使って、ゴミから新品の素材を作り出せる。ただし作り出した素材はもうゴミではないから、収納できなくなる。
「修理と平行して改造していこう。」
「分かったわ。」
「手伝いが必要なら言ってくれ。アローも頼む。」
「了解だ。」
というわけで、手分けしてゴミ馬車を車に改造していった。
まずは修理。それからエンジンや歯車を積んでいく。クが指示して、俺とアローでそれに従う。俺たちがやる事は、言われたとおりに資材を運ぶぐらいだ。クが魔法を駆使して資材を加工し、車体に取り付けていく。
大型化したおかげで細かい作業もしやすくなったが、大きい部品は扱いにくくなった。1カ所の加工にかかる時間も増える。とりあえず動く程度に完成したのは、3日後だった。
◇
3月9日、午後3時。
ようやく車体が完成した。
「さっそく走らせてみよう。」
「ええ!」
「楽しみだな。ちゃんと走るといいが。」
3人で乗り込んで、一番操縦がウマい俺が運転。
エンジンをスタートさせて、変速機を「低速」に入れ、クラッチをつなぎ、ブレーキを放すと、車体はゆっくり走り出した。
「「おお……!」」
俺たちは声をそろえて歓声を上げた。
クラッチを切って、変速機を「高速」に入れてみる。再びクラッチをつなぐと、ほんのわずかに加速した。
「ああ……やっぱりパワー不足だな。」
「パワー不足かぁ……エンジンを大型化すればいいかしら?」
「いや、圧縮機をつければいい。」
「「圧縮機?」」
クとアローが同時に首をかしげる。
だが、俺は2人の疑問を手で制した。
「その前に、最大積載量が必要な基準に届いているかどうか調べよう。」
「今でもパワー不足なのに、これ以上何か乗せたら動かないだろ。」
「いえ……ブレーキの性能や、車体の強度も見ないといけない、という事ね?」
アローがますます首をかしげる。
一方でクは俺の言いたい事を正解した。
「その通り。
重りは俺が用意しよう。」
ゴミならいくらでも出せるからな。
「待った。その前にちょっと買い物をしてきたい。」
アローが言った。
「買い物?」
クが首をかしげる。
「クも一緒に行こう。その方がいい。」
「え? ちょ……何を買うの?」
訳が分からないという様子のクを連れて、アローは商店街へ繰り出した。
俺は馬車の見張り番に居残る。
しばらくして戻ってきた2人は、布と香水を買ってきた。その布に香水をかけて、目から下を隠すように布を巻く。つまりマスクだ。重りとして取り出すのがゴミだと察して、アローは悪臭対策をしたのだった。
そんなに匂うものは出さないつもりだったが……まあ、でも、ゴミはゴミだし、何を出してもそれなりに匂うか。
改めて実験開始。ゴミを満載してみる。
一応、操縦もしてみたが、当然ながらピクリとも動かなかった。
次にゴミを収納して北の山へ場所を移し、山の斜面に車を止めて――
「……って、止まらないし!」
「ブレーキ、ブレーキ!」
「改良しないとダメね。」
サイドブレーキとかパーキングとかがない。
新しい問題を発見したが、これはすぐにクが改良した。通常のブレーキとは別に、もう1つブレーキを取り付けて完成だ。要するにサイドブレーキである。助言するまでもなく、クは見たままに必要な機能を追加した。優秀だ。
「よし、改めて実験だ。」
サイドブレーキをかけて、斜面にとめた車にゴミを満載していく。
すると、1トンも積まないうちに車体が坂を下り始めてしまった。
「ブレーキはもっと強くしないとダメね。」
「しかし、実際どのぐらい積むものなんだ?」
「1.5トンぐらいだな。」
このあとサイドブレーキを強化した車体に1.5トンのゴミを積んだら、車体がきしむ音がした。
やはり車体の強度も足りないようだ。元々は馬を動力としているから、エンジンやら変速機やらブレーキやらと余分なものを搭載した結果、最大積載量が目減りしている。しかし、だからといって「今までより少ない量しか積んではいけない」と伝えたところで、絶対に過積載をする奴が現れるだろう。人身事故が起きてからでは遅い。
俺たちは、さらなる改良を施していった。




