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ゴミ92 達人、運転する

 3月4日、午後4時。

 ダイハーンでエコさんに会って用事を済ませた俺たちは、再びゴッドアへ引き返した。徒歩なら7時間以上かかるから翌日に移動というところだが、スキルを利用して馬なしで走る馬車を作ったので、片道3時間で走破できる。午後1時に出発して、午後4時に到着だ。ダイハーンが日帰りの距離に。これが一般的になれば生活様式が一変するだろうが、あいにくとスキルを利用しているために一般化できない。

 馬車から自動車へシフトするための技術開発は、ドワーフの少女クや、彼女が通っているというルマスキー学園の生徒たちに期待しよう。ルマスキー学園では、ゴッドアで起きている馬だけ死ぬ流行病に対処するため、馬車に代わる運搬装置たる魔道具を開発中らしい。クも、その試作品を持ってきて実際にゴッドアで走らせる実験をするために来ている。

 しかし自動車としては色々と未熟な代物だったので、俺にも助言できてしまった。別に俺は、自動車整備とかの仕事や趣味を持っているわけではない。ただインターネットで自動車の仕組みを見たことがあって、知識として原理ぐらいは知っているという程度だ。

 クには、クラッチの仕組みやユーザーインターフェースについて助言した。


「どうだ、調子は?」


 とクが宿泊している宿屋を訪ねると、クは室内で試作品の車に乗っていた。風魔法でタービンを動かして動力を得る方式なので、室内で乗っても扇風機ほどの音しか出ない。しかも扇風機と違ってタービンを密閉しているので、すぐそばに立っていてもほとんど音なんて聞こえない。屋外だと周囲の音にかき消されて何も聞こえないほどだ。

 目の下にクマができているのを見ると、クは昨日助言を聞いてからずっと寝ずに作業していたようだ。その精神性は、もう立派な研究者・開発者と言っていいだろう。24時間戦える系の昭和戦士並だ。


「ふひひひひ……! 見てよ、この滑らかな走行性……!

 言われたとおりにやってみただけなのに、こんな事になるなんて……貴族様は天才ね!」


 ちょっとクの様子がヤバめになっている。()()()()()()()ろう。そのうちコメカミに自分の指を突き刺してグリグリし始めないか注意しておこう。まあ、でも、ここはエジプトじゃないから大丈夫だと思うが。

 何を言っているのか分からない? 大丈夫だ、問題ない。


「俺が考えた事じゃないけどね。

 それより、まだ少しカクカクしているな。」


 まるで教習所に通っている生徒みたいな走り方だ。


「そんな事いったって……。」

「俺が運転してみようか?」

「いいけど……壊さないでね?」

「大丈夫だ。問題ない。」


 作るのは素人でも、使うのはそこそこ慣れてるからね。

 まずはペダルを片方ずつ踏み込んで感触を確かめ、足の裏の感覚でクラッチとブレーキの効き始める位置を覚える。あとは普通に運転だ。アクセルペダルはないから、クラッチとブレーキを放したらそのまま進んでいく。

 スイーッと進んでカーブして止まり、バックして方向転換、そのまま前進して停止。元の位置へ、180度向きを変えて戻ってきた格好だ。動力機がタービンだから加速感が少し違うが、問題なく操縦できた。


「うっそ……めっちゃスムーズなんだけど……。」

「作った本人より操縦がウマいとは……。」


 クと一緒にアローも驚いている。


「作る技術と使う技術は別物だからな。」


 この操作をすると、こういう効果がある。使う技術に必要な知識はそれだけだ。あとはその組み合わせを、状況に応じて最適に選択するだけ。その選択こそが使う技術だ。しかし、どうしてこの操作でこういう効果が出るのだろうか、と興味を持ったのが俺だ。それでちょっと調べて原理程度なら知っている。


「どういう事なの?

 ありもしない物を使う技術を持っているなんて……これは私が作った試作品よ? 世界中どこを探したって、これと同じ構造で走る魔道具なんてないわ。

 使う技術なんて、使い込まないと身につかないでしょう? 使わずに身につける方法でもあるっていうの?」


 クがまくし立てる。興奮状態だ。

 作る技術と使う技術は別物だといっても、世界で初めての物は、作った人が一番ウマく使える。どこをどう操作すればどういう反応が起きるのか、つまり使う技術を一番知っているのは作った人だからだ。


「助言したのは俺だ。そして俺が考えた事じゃない。

 ありもしない物だとか、クが世界で初めて作ったとか、そういう認識がすでに間違っている。

 つまり、俺にとっては日常的に使うありふれた道具に過ぎない。」

「バカな……どこの出身だっていうのよ?」

「クが開発した魔道具が、すでにありふれている国なんて、あるのか……?」


 クとアローが揃って怪訝そうに俺を見る。


「アローはもう知ってるだろ? 七味唐子さんと同じ国から来たんだ。」

「ああ……何かそんな事を言っていたな。ニホンジンノテンイシャとか何とか?」

「そうそう。よく覚えていたな。

 祖国の名は日本。移動手段は転移。だから日本人の転移者だ。

 残念ながら転移というのは事故みたいなもの……いや、事故そのものか? 災害とも言えるか。要するに、自由に行き来できるわけじゃないんだけどな。」

「シチミカラコって……?」


 クはその名前を知らないようだ。


「2000年前の達人だよ。」


 そう答えると、クは「ああ、あの……」と知っている様子だった。

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