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ゴミ89 達人、知識チートする

 3月3日、午後4時。

 ゴミ処理のために全国20都市を巡る俺たちは、観光地ゴッドアに到着した。領主に会うと、死体も処理できるかと確認された。なぜなら、ゴッドアでは馬だけが罹患する流行病が発生していて、馬が次々と死んでしまうために馬車を使えない状況なのだそうだ。

 病気の予防や治療は俺の専門外だが、馬車の代わりになる運搬装置なら少しは助言ぐらいできるかもしれない。そういう魔道具を作ろうとしている、クと名乗るドワーフの少女の案内で、俺たちは彼女がゴッドアでの拠点にしている宿屋へ向かった。


「まず最初に、完成形を確認したい。

 馬車に代わる運搬装置ということだが、その試作品は明らかに馬車より小さいよな?」

「ええ。もちろん完成品では馬車と同じサイズにするつもりだけど、まずは小さい試作品で成功しないと資材を無駄にするから。」


 俺の身分を知って「貴族様」と態度を改めた少女だが、車の話になると身分差による緊張は隅に追いやられるようだった。


「なるほど。つまり、完成形は馬なしで動くフルサイズの馬車だが、現段階では実際の道路を走れるかどうかというところで、運搬能力のために高出力化するとかの改良はまだこれからの課題というわけか。」

「その通りよ。

 とりあえず、あのときに言っていた事を詳しく聞きたいのだけど?」


 ぶつかった時の事か。

 俺にぶつかった試作品は、故障してしまった。故障の原因は、歯車に無理な力が加わって、歯車の軸が曲がってしまったことによる。軸を頑丈にするように助言したが、それができても、今度は歯車自体が破損するだろう。

 すぐ停止できるように、動力を元からカットする機構を搭載したほうがいい。つまりクラッチのことだ。バイクのようなキルスイッチという手もあるが、動力機がタービン式なので、キルスイッチでは慣性の法則に従ってタービンが回転し続けようとしてしまう。


「動力機と変速機をつなぐ回転軸を切断するんだ。その切断面を押しつけて摩擦で固定すれば、動力は車輪まで伝わる。」

「摩擦で……? 歯車ではダメなの?」


 少女はすでに、歯車同士の接続を外したり戻したりする機構を搭載している。ただし、その位置は車輪の近くだ。これによって左右独立ブレーキが可能になっている。


「壊れるんじゃないか? 動力機の回転は速いからな。」


 ただし速い代わりに弱い。それを歯車で遅くて強い回転にしているわけだ。それは運搬能力を確保することに役立っていると同時に、不必要な高速域を封じている。そしてまた、ブレーキ近くで歯車同士の接続を外したり戻したりするときにも役立っている。遅い回転だから、外した歯車が戻るのだ。これが速い回転だったら、歯車同士が噛み合う前に弾かれてしまうだろう。無理に戻そうとすると、歯車の歯が折れるはずだ。


「ああ、そうね……。

 摩擦ならウマくいくの?」


 実験するかと思ったが、あっさり納得した。すでに俺にぶつかって故障したことがあるからな。

 ともかく、質問が次に移ったので、俺はゴミの中からまだ使える紙とペンを取り出した。どういうわけか、こういう物もゴミとして捨てられる事がある。


「まず、こう……回転軸を切断する。」


 俺は1つの直線上に線を2本引いた。

 その片方に動力機、もう片方に変速機と書き込む。


「そして一方の軸には、摩擦の大きい素材を固定する。」


 動力機と書いた側の線に、垂直に接する線を書き加えた。


「その反対側の軸に、摩擦素材に押しつけるための面を用意して、レバーの操作で押しつける。

 つまりレバーの加減によって、押しつける力が無段階的に変わるわけだ。弱めに押しつければ、動力はわずかしか伝わらず、ほとんど滑ってしまう。だが、これが重要なことだ。」

「どうして?」

「操縦してみて分かったと思うが、レバーを操作するたびにガクンガクン揺れるだろう? 荷物を運ぶための魔道具なのに、そう激しく揺れたのでは、荷崩れを起こす危険が増す。」


 ましてフルサイズの馬車と同じサイズにするなら、積まれる荷物も山盛りだろう。ロープで縛って固定したり、木箱に緩衝材を入れたりして、それなりに揺れ対策はされるだろうが、あまり揺れるとだんだんロープが緩んだり木箱がズレていったりするものだ。


「なるほど。

 弱めに押しつけて動力を少ししか使わないことで、滑らかに動き出せるわけね。」

「その通りだ。

 この機構によって動力をカットしてから、ブレーキをそーっとかければ、減速・停止するときもガクンガクン揺れるのを抑えられる。

 ただし、上り坂でカーブを曲がるような場合には、この方法では使えない。」

「え……じゃあ、どうすれば……?」

「方向転換とブレーキとを別々の独立した操作方法にすればいい。」


 俺は自動車のハンドルの構造を書いた。自転車やバイクのような構造にする手もあるが、それだと荷物を満載したときに重くてハンドルが動かないだろう。自動車のハンドルの構造なら、歯車を組み合わせて、動かすのに必要な力を小さくする事もできる。


「こういう方法にすれば、方向転換も滑らかにおこなえる。」

「なるほど……歯車を斜めに……円錐状にするのね。」


 理解が早い。やはり優秀な生徒のようだ。

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