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ゴミ88 達人、再会する

 3月3日、午後3時。

 少女を探して街をうろつくと、すぐにその足取りを掴むことができた。あんな目立つ(もの)を乗り回していれば当然だろう。


「あ! あんた、あのときの……! ちょっと手伝ってよ!」


 少女は俺を見るなり、手を取って引っ張っていこうとした。

 しかし、少女の力では、俺を引っ張って動かすことはできなかった。

 俺は達人という種族に体が馴染みはじめているので、人間と比べてステータスが高い。このステータスというやつが不思議なもので、物理法則の一部をねじ曲げるようだ。筋肉が増えたわけでもないのにパワーやスピードが増すし、皮膚が硬くなったわけでもないのに防御力が増す。そして今も、体重計に乗っても体重が増えたわけではないだろうが、こういう引っ張ったり押したりされた場合には、慣性の法則が強く働く。

 少女が俺を引っ張るのに失敗して、怪訝そうな顔で振り向くと同時に、アローが俺を掴む少女の手を振り払って、俺と少女の間に割って入った。


「こちらは廃棄物処理特務大使の五味浩尉騎士爵である。

 そちらは何者か、名乗られよ。」


 アローが俺の身分を告げると、少女は驚いた顔をした。


「大使……!? 騎士……!? 貴族様ってこと!?」


 騎士爵は、領地を持たない貴族だ。領地を持たないということは、領民がいないということで、兵士を募集できないという事である。貴族というのは、有事の際に王のために兵を率いて戦うのが最大の役割であり、そのために領地を与えられて領民から徴税や徴兵をおこなう権利を与えられている。だから領地を持っていないという事は、領地を持っている貴族からすると「真の貴族ではない」「貴族のなり損ない」と下に見られる。

 しかし名前だけは貴族なので、平民からは「貴族の1人」として見られる。少女が「貴族様」と言うのなら、この少女は平民なのだろう。貴族ならば、たとえ同じ騎士爵だとしても、「貴族様」とは言わないはずである。


「失礼しました。

 私はクと申します。ヒルテンのルマスキー学園に通う生徒です。」


 少女はぺこりと頭を下げた。

 ヒルテンというのは、今いるゴッドアの西にある都市だ。俺が巡る予定の全国20都市の1つであり、ゴッドアの次に訪れる予定である。

 だがそれより――


「……名前が『ク』なのか?」

「そうです。」


 1文字って……。


「ドワーフだな。極端に短い名前を好む。」


 面食らっていると、アローが教えてくれた。小柄なのもドワーフの特徴だそうだ。

 しかし、なんとも極端な文化だ。人間の名前はやたら長いし、ドワーフの名前はやたら短い。まともなのはエルフだけか?


「それで、ヒルテンの学生がどうしてゴッドアに?」


 3月3日だから、もしかして春休みとかだろうか?

 この世界の学校がどういう制度を採用しているか知らないが、4月から新年度・新学年になる日本のみならず、海外でも3学期制の学校では冬学期と春学期を分ける休みとして春休みがある。


「ゴッドアで馬だけがかかる病気が流行していて、馬車が使えなくなっているため、ヒルテンに対策を開発するように要望が来ています。ヒルテンには学校が多くて、たとえば私が通っているルマスキー学園は、魔道具の開発者や製造者を育てることを目標としています。

 私はその学園の生徒として、ゴッドアの問題に対処するため、馬車に代わる運搬能力をもつ魔道具を開発しているところです。その試作品ができたので、実際の地形で試そうと思って、ゴッドアに来ました。」


 開発者を育てる学校で、すでに開発者として動き出している。凄いことだ。日本でもそういうコンテストがあったな。高校生が参加するんだったか? どこかの企業が、実際に危険地帯での作業に使うものを開発してほしいと求めた事もあったとか。


「それは、1人でやっているのか?」

「いいえ。同級生のみんなで取り組んでいます。今までに学んだことを使って、各自で馬車に代わる魔道具を作るんです。最終的には製品化してゴッドアに売るという計画で、そういう目標を持って授業を受けたほうが身が入るというのも理由だそうです。先生が言ってました。」


 非常に納得できる教育方法だ。ひたすら知識だけ詰め込むよりも、それを何に使うのかをイメージできたほうが覚えやすい。たとえば語学でも、漠然と「喋れるようになりたい」と思うよりは、その言語でスピーチをする大会に出るという目標を持ったほうが覚えるのが早い。作りたい文章が先にあって、それに使用する単語や文法を学んでいくからだ。

 俺もこの世界の言葉を覚えるに当たっては、買い物ができる程度の会話力という目標を持った。まず最初に「これがほしい」という一言を覚える。次に値段を聞き取るために数字を覚える。それから「探している商品が見当たらない」という状況に対応するため、どういう商品を探しているのか伝えられる程度の形容詞(形や色)とか動詞(何に使うものか)とかを覚えていくという具合だ。


「なるほど。各自(それ)で、ここへは1人で来たわけか。」


 となると、効率化を求めるならルマスキー学園に乗り込んで、生徒たちが作っているものを見てみるのがよさそうだ。改良点を伝えるにしても、教室で一気に全員へ伝えることができる。

 とはいえ、そこまでやると教師たちがよく思わないかもしれない。教えた内容で創意工夫するのが目的なら、俺がよく知らないでゴチャゴチャ言うのは、たとえそれが「実用としては正しい」ことだとしても「教育としては教える予定ではない(まちがっている)」ことかもしれない。学校というのは効率的に大勢の知識人を育てることに特化しているから、教える方法や順番というのもそのために最適化されている。まだ教える予定ではない内容を先に教えてしまうと、順序が前後するせいで無駄に煩雑になる可能性がある。

 だが、ゴッドアの問題はなるべく速やかに解決するべきだ。何もしないという手はない。折衷案として、このクという少女にだけ助言を与えてみよう。まだ教わっていない内容は理解できないかもしれないが、理解できた事があれば学園に持ち帰って同級生にも広まるだろう。


「それじゃあ、ちょっと手伝ってあげよう。

 ただし、俺は専門家じゃないから、何でも知ってるとか何でもできるとかは思わないでくれ。」

「分かりました。」


 というわけで、少女の案内に従うことにした。

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