ゴミ81 達人、徹夜する
1月28日、午後2時。
兵士が到着してからの救助作業は、それまでとは段違いのペースで進んだ。埋まっている生存者を探知魔法で探せるのだ。どこを掘ればいいか分かるから、生存者の発掘が早くなる。掘り起こした生存者は、兵士が素早く運んでいく。2人1組で1人の生存者を運んでいくが、兵士全体の人数が多いので、手分けして次々と運び出される。そのペースは俺が1人でやっていたときの数十倍だ。
それらの相互作用によって、この1時間で救助した人数は、1000人を超えている。
だが、すでに救助した大会運営関係者の話では、この競技場には今日、4000人以上の観客がいたという。ちなみに、競技場の収容人数からすると、観客席はスカスカで、大会としては大赤字。しかし材木を運び入れたり、火を燃やしたり、色々できるのはこの会場しかなく、酒樽の関係企業からの協賛金もあって最終的な収益は若干の黒字になるらしい。
「報告! 報告!」
救助作業を急ぐ俺たちのもとへ――もとい、兵士の団長のもとへ、この救助作業に加わっていなかった兵士が駆け込んできた。
「グレミット遺跡からアンデッド多数出現! 抑えきれません! 応援を求めます!」
「なんだって!? どうしてこんなタイミングで……。」
団長が頭を抱えている。
グレミット遺跡というのがどこにあるのか知らないが、応援要請が来るという事は、放置すればアンデッドが街を襲うだろう。かといって、応援要請に応えていたら、こっちの救助作業が遅くなる。未だに埋まったままの生存者はおよそ3000人。その中には重傷者もいるはずで、遅くなれば助からない可能性もある。
「団長、行ってください。
ただ、こちらに医療班を残して貰えるとありがたい。」
「大使殿……申し訳ない。
第1班と僧侶部隊は残れ! 第1班から交代で1名、大使殿について探知せよ! 僧侶部隊は治療に専念、第1班は生存者の運搬に回れ!
第2班以降はグレミット遺跡へ応援に向かう! 急げ!」
兵士たちは、医療班を残してグレミット遺跡へ向かって移動を開始した。
その医療班が、回復魔法を使える僧侶部隊だけで医療チームを担当し、薬や包帯での処置を担当していた人たちが掘り起こした生存者の運搬に回ってくれる。
ペースは落ちたが、それでも俺1人でやるより助けられる人数は多い。とはいえ、残り3時間で終わる予定だった救助作業が、残り30時間に延びてしまった。終了予定時刻は、明日の夜8時だ。
◇
1月29日、午後8時。
不眠不休で続いた救助活動は、探知魔法で見つけられる最後の生存者を救出して完了となった。
だが、4000人以上も救助した中には、やはり助からなかった人もいる。
そして、隣同士に座っていた友人同士とか家族とかでも、崩落して生き埋めになった状態からは、掘り起こされるタイミングが違ってくることもある。これは、瓦礫がどのように折り重なっているか、どこまで深く埋まってしまったか、といった要素に関係してくる。よけいな崩落を防ぐために、上から順番に瓦礫を撤去しているので、そういう事も起きるのだ。
そうすると、手当を受ける順番も大きく違ってくる。要するに生き別れ状態になるわけだ。当然お互いを必死に探し回るが、中にはお互いが見つからない事もある。4000人もいる中から探すのは、なかなか骨が折れる作業だろう。
やがて、どうしても相手が見つからない人たちが、俺たちのもとへ集まってくる。
「弟は!?」
「娘は!?」
「友達は!?」
すでに全員を救助したはずで、ならばどこかに居るはずだ。しかし、探しても見つからないから俺たちに詰め寄っているわけだから、彼らがそんな説明で納得するわけもない。
「聞いてくれ!
競技場が崩落したのが昨日の正午、それから32時間だ。周辺住人のボランティアが始まって、君たちは休眠も食事もとっただろうが、俺たちは不眠不休、飲まず食わずだ。さすがに倒れてしまうから、ここで休眠と食事をとらせてもらう。
まず、探知魔法を使うための要員は、もう反応がないので、休眠と食事をとる。
発見した被害者を運び出すための要員も、運ぶ相手がいないので、休眠と食事をとる。
回復魔法と治療をおこなうための要員は、治療する相手がいないので、休眠と食事をとる。
瓦礫の撤去作業は、全自動で続行できるので、俺も休眠と食事をとる。
要するに、俺たちには今、できる事が何も無い。
だが、君たちには、できる事がまだある。君たちは本当に4000人を全員調べたのか? 生存者と死者のリストを作り、全員分のリストができてから、それでも家族や友人の名前がリストにないというのなら、もう1度俺たちに教えてくれ。もちろんリストを作る作業は、君たちにもできることだ。歩ける人が調べて周り、書ける人がリストを作ればいい。
ではこれより、32時間ぶりに10時間だけ休ませて貰う。明日の朝6時にまたここへ来るから、リスト作成の進捗状況を教えてくれ。娘を探しているあなたに、リスト作成の責任者を頼む。」
気持ちが焦ってそれどころじゃないかもしれないが、だらこそ一番徹底的にリストを作ってくれそうだ。
言うだけ言って、兵士たちに撤収を呼びかけ、勝手に時間を決めてしまったことを謝っておく。
「気にしないでくれ。」
「こっちで話をまとめても、だいたい同じ感じになったはずだ。」
「揉めずに納めたんだからオッケーだろ。」
「むしろリスト作りの仕事が減ってありがたい。」
などと、温かい言葉を頂いた。
ちなみに、娘を探していた父親は、必死になってその夜のうちに4000人分のリストを作ってしまった。娘は無事に見つかったそうだ。




