ゴミ77 達人、光を見る
1月28日、午前11時。
俺たちは、競技場で酒樽作り選手権大会を見物していた。木が成形され、樽の形に組み立てられていく中、上下のフタを取り付ける前に、樽の中が焼かれ始めた。美味しい酒を造るのに必要なことらしい。正直、ウマければ作り方なんてどうでもいいが、実際にウマい酒を飲んでみた身としては、どう作ればあんなにウマい酒ができるのか興味深い。
火の魔法で焼くというのが、この世界独特だ。しかも、どういうわけか炎の色が選手ごとに違う。魔法の効果の違いなのかもしれないが、あれが炎色反応なら、樽作りの段階で酒に混じる添加物を加えていることになる。そこにも様々な工夫があるのだろう。
「……うん?」
炎のショーに盛り上がる観客たち。
だが俺は別の部分に目を奪われた。
「どうした?」
「あの選手……あの樽だけ、光って見える。」
しかも急に光り出した。さっきまで光ってなかったのに。
俺の目に光って見えるということは、あれはゴミだ。だが、作りかけの樽が急にゴミになるなんて、そんな事があるだろうか? 失敗したのか?
俺の目に光って見えるという、その意味するところを悟って、アローも怪訝な顔をする。
◇
うへへへへ……! この瞬間を待ってたぜ。
全選手が一斉に魔法を使うこの瞬間なら、別の魔法を使ってもバレやしねぇ。しかも、みんなそれぞれに工夫を凝らした魔法を使ってやがるしな。
この酒樽作り選手権大会、俺は今年こそ何としても優勝しなきゃならねぇ。優勝の基準は簡単だ。一番早く完成させるだけ。1個作るのに1秒でも短ければ、万単位の大量注文では納期が大きく違ってくる。昔ながらの小さい酒蔵なら、品質にこだわって大会順位とは関係なく樽を選ぶが、大量生産する大手の酒蔵だと大会順位が全てだ。
なんとかここで優勝して、大手からの大量注文をもぎ取らないと、もう後がねぇ。
「ファイヤーストーム!」
と口では唱えながら、実際には別の魔法を無詠唱で発動。使ったのは収納魔法だ。今日のために必死こいてこの技術を覚えたぜ。へへへ……この歳になって特訓するとは思わなかったがな。
同時に魔道具を使ってファイヤーストームを発動させる。それも金色の派手な炎が出るやつだ。
さらに別の魔道具も使って、幻惑魔法を撒き散らす。ここまですれば収納魔法がバレる心配はねぇだろう。
今まで作っていた樽を収納し、同時に収納しておいた中古の樽を取り出す。この中古の樽は、すでに完成している。幻惑魔法でフタがついていないように装い、ファイヤーストームも光だけで熱が出ないやつを使っている。
次の工程に移ったら、幻惑魔法を調整して残りの作業を順に片付けたように見せかけつつ、他の選手をぶっちぎって完成だ。
◇
例の選手は、失敗したような顔をしていない。むしろ順調に作業が進んでいる様子だ。
にも関わらず、その作りかけの樽は、ゴミとしての光を放っている。炎に紛れてかなり見づらいが、急に光り出したから気づけた。
果たしてどういうわけか……とアローと2人、首をかしげていると、いきなり閃光が俺たちの目を焼いた。
「うわっ……!?」
「きゃあっ……!?」
一瞬遅れて轟音が耳を襲い、巨大なハンマーで殴られたように体が吹き飛ばされる。
何かにぶつかった感触が連続し、上下も方向も見失って、自分が今どんな姿勢になっているか分からなくなる。
一瞬、浮遊感に襲われた……ような気がする。
まるで容器に詰め込まれて放り投げられたような気分だ。
「……な……なにが……?」
気がつくと暗い場所にいた。
ゴミ拾いLV6が発動。自分とゴミ拾い用具の周囲1kmにあるゴミを探知する。それによって理解した。どうやら俺は巨大なゴミの塊の中に埋まっているらしい。
各地で作業させている他の道具も、ちゃんと探知できる。一番近いのは、ディバイドのゴミ処理場で動いているやつか。他の場所にある道具との距離と位置関係からすると、どうやら現在地はさっきまでいた競技場のままだ。
つまり、どうやら競技場が崩壊したらしい。
酒樽作り選手権大会を見物していただけなのに、どうしてこんな事に……。




