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ゴミ73 達人、気圧される

 1月27日、午後1時。

 ディバイドに到着して昼食を済ませた俺たちは、領主の屋敷へ向かった。キオートやダイハーンではお城だったが、あれはさすがに例外的だ。ディバイドでは普通に屋敷である。


「廃棄物処理特務大使の五味浩尉騎士爵です。

 領主殿にお目通り願いたく、本日はその先触れとして参りました。

 都合のいい日時を伺えますか?」


 ドアをノックして、出てきたメイドに用件を告げる。


「ようこそお越し頂きました。

 ただいま主に確認してまいりますので、どうぞ中にお上がりになってお待ち下さい。

 こちらへどうぞ。」


 と、教育の行き届いたメイドが応接室へ通してくれる。

 香りのいい紅茶と、上品な甘さのクッキー的なお茶菓子を出されて、しばし待つ。

 ちなみに、クッキーとビスケットの違いは、糖分と脂分の含有量だ。40%以上のものをクッキー、40%未満のものをビスケットという。ただしこれは日本の場合だ。アメリカでは全部クッキーだし、イギリスでは全部ビスケットである。


「お待たせしました。私がディバイドの領主です。」


 待つこと3分。まだ1枚目のクッキーを食べ終わらないうちに、領主本人がやってきた。


「廃棄物処理特務大使の五味浩尉騎士爵です。

 突然の訪問にも関わらず、対応いただきまして、ありがとうございます。」

「いえいえ、王命でのご来訪とあらば、対応するのは臣民として当然のことです。

 本日は先触れとして、という事でしたが、よろしければこのまま本題に入りましょう。」


 非常にスピーディーな対応だ。

 この領主、やはりできる!

 キオートでもダイハーンでも領主がアレだっただけに、この領主がやたら優秀に見える。


「助かります。

 全国20都市のゴミの最終処分を請け負うというのが、陛下から賜りましたご命令です。その20都市の中に、ご当地ディバイドが含まれていますので、本日まかり越しました。

 まず確認ですが、ご当地ではゴミをどこでどう処分していらっしゃいますか?」

「おおむね10軒の建物を1つの単位として、決まった日時に決まった場所へゴミを出してもらい、これを担当部署にて回収。処分場へ運びまして、焼却ののち、埋め立てとしています。

 処分場は、ここから東南東へ4kmほどの場所にあります。」


 総合的かつ単純明快。素晴らしい答えだ。


「実は、大使殿にお越し頂いて『助かった』と思いました。」

「……というと?」

「実は、処分場は住宅地の中にありまして、そこに処分場があるという理由で周辺がぽっかり空白地帯になっているのです。誰もゴミの焼ける匂いがするような場所には住みたくありませんからな。空白地帯は、処分場ができる前からの畑が残っていますが、面積の割に収穫量が少なく、食べると腹を壊すとの噂もありまして、どうすればいいのかと困っていたのです。

 それに、毎日大量の焼却灰を埋めているせいで、そろそろ埋め立ての魔法が効きにくくなってきているとの報告もありまして。次の処分場を探さなくてはならないが、そうするとまた周辺住民から反発が……と今から胃の痛い思いをしておりますところで。

 メイゴーヤでの事例を聞きますに、大使殿にお任せすれば、これらの問題は解決するようですね?」


 領主は揉み手を始めそうな勢いでまくし立てた。

 なるほど。上等な対応をしてくれる背景には、そういう事情があったか。


「そうなります。」


 ここは力強くうなずいておこう。


「本当にありがとうございます。」

「いえいえ。『王命とあらば対応するのは臣民として当然』であると。領主殿がおっしゃった通りです。」

「いや、これは恐れ入ります。」


 いよいよ揉み手を始めてしまった領主。

 と、そこへノックが聞こえた。


「入れ。」

「失礼致します。」


 扉を開けて現れたのは、執事風の男だった。


「旦那様、馬車の用意ができましてございます。」


 執事風の男が告げると、領主がまた揉み手をしながらこっちを振り向く。


「では、参りましょうか。」

「どちらへ……?」

「処分場です。

 担当部署にはすでに話を通してありますから、あとは大使殿に処分場の場所をお含みおきいただけましたら、いつからでも処理を始めて頂けます。」


 なんと、なんと……。

 あまりにスピーディーな対応だ。思わず言葉を失ってぽかーんと口を開けてしまった。

 そのままアローと顔を見合わせる。アローも同じような顔をしていた。

 ……てゆーか、大丈夫なのか? こんなハイペースで仕事が進んだら、第4章は2~3話で終わっちゃうんじゃないか?





 そのまま馬車に乗せられて、処分場へ。

 もちろん貴族用の立派な馬車だ。辻馬車は左右に座席があるが、この馬車は前後に座席があり、座面にはクッションが取り付けられ、定員もわずか4人である。


「さあ、到着しました。ここが処分場です。」


 と領主自ら案内してくれて、労働者たちに紹介してくれる。

 こんなにまでしてくれる事に、戸惑いを隠せない俺がいる。


「……と、処分場はこのようになっております。」


 見学会の案内人みたいに一通り説明してくれて、さあいつでもどうぞと言うので、


「じゃあ、さっそく……?」


 ちょっと気圧されながら作業開始。

 といっても、ゴミ拾いLV5、自動操縦の効果で、用具が勝手に飛び回る。俺はただ一言命令するだけだ。

 空飛ぶ用具が、焼却灰を掘り起こしてモリモリ吸い込み始めたのを、領主が興奮気味に「おお!」とか言いながら見ている。


「あとは放っておけば片付いていきますので。」

「素晴らしい!

 いや、まことに感謝の念に堪えません。ぜひ今夜は当家にお泊まりいただいて、おもてなしをさせていただきたく。」

「では、ご厄介になります。」


 結局これでディバイドでの仕事は終わってしまった。早かったな。

 その夜、夕食に出てきた酒が、めっぽうウマかった。

あれっ? 終わっちゃったぞ……?

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