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ゴミ72 達人、南下する

 1月27日。

 ダイハーンでのゴタゴタは、後始末に少し時間がかかり、落ち着くまで俺の仕事が進まなかったのもあって、1週間ほど滞在することになった。

 が、それも終わって、ようやく次の20都市へ出発だ。


「次はどこだ?」

「南へまっすぐ。ディバイドだ。」


 徒歩3時間ほどの近距離にある。

 ……近距離?

 15kmぐらい離れているし、高校時代には徒歩で進んで「やるんじゃなかった」と後悔した距離だ。この距離を「近い」と感じるようになったのか……だいぶ染まってきたな、俺……。

 馬車を使えば1時間ちょっとに短縮できる。ここは、乗ってみるのもアリか。日本人的な感覚からいっても、辻馬車が本当にバス感覚だ。ただ、あの尻の痛みは……1時間なら大丈夫だろうか……?


「あ、そうだ。その前に猫耳商会に寄らないと。」

「何か買うのか?」

「いや、売るんだ。」


 まだ買い取って貰えないかもしれないが。





 というわけで、猫耳商会へやってきた。

 広い店内には、天井まで届きそうな商品棚がずらりと並んで……いや、ぎっしりと詰め込まれているといったほうが正しいか。通路の幅は、人がようやくすれ違える程度。コンビニのそれと同じぐらいだ。というか、この視界の悪い商品陳列は、どうも日本最大級の総合ディスカウントストアを思い出す。看板はペンギンじゃなくて猫だが。

 店内をうろついて店員を探し、エコさんに取り次いで貰うことにした。


「すみません、大使様。会頭は今、ダイハーンにはおりませんので。」


 と店長が対応してくれた。


「リサイクル業のことは聞いていますか?」

「はい、伺っております。

 会頭がダイハーンを出ておりますのも、そのための拠点の準備に向かったものでして、場所はバリアを予定しているとの事でした。」


 拠点の準備か。なら、まだゴミを買い取って貰う準備はできていないという事だ。

 本格的にリサイクル業が始まれば、国中の主要都市からゴミを集めてくるわけだから、拠点もそれなりに大きなものが必要だろう。そこで働く従業員も大勢必要になるから、当然それはまだ準備できていないはずだ。

 ただ、その前にリサイクルのための加工技術の開発が必要だ。その研究拠点に、研究用の素材として今持っているゴミを売ってほしいという話だった。


「バリア?」

「商人の間では金属加工で有名な街です。優秀な職人が多く集まっておりまして。

 場所は、陸路ではメイゴーヤからまっすぐ北へ丸1日進みましたところにございます。バリアよりもっと北から、ロングット川という大きな川が流れておりまして、これがバリアの西を北から南へ向かって流れ、果てはメイゴーヤ南西のモーメンタム湾へ注ぎ込んでおります。」

「そうか。猫耳商会は貨物船が本業なんだったっけ。」

「おっしゃる通りで、一般のお客様へ向けての商店を始めましたのは、輸送業のついででございます。

 大使様には、今回、研究用の素材を売って頂けるとの事で、倉庫を用意しております。」

「その倉庫はどこですか?」

「ご案内いたします。」


 という事で、倉庫にゴミを素材別に出してきた。

 ゴミ拾いLV4、収納しているゴミを自動で素材別に分別できる。初めてその効果が役に立った瞬間だ。

 代金を受け取って店を出る。





 さて、ディバイドへ行こう。

 南へまっすぐ、徒歩3時間だ。

 ダイハーン市街の、その中でも特に中心地から出発となる。道沿いにある建物はすべて何かの店ばかりという風景が1時間ほど続き、その後は民家が混ざるように見え始め、さらに1時間歩くと今度は民家の方が多くなってきた。住宅地に大型施設が点在している感じだ。

 ダイハーンから離れるに従って、というか、ディバイドに近づくに従ってというか……どうもレンガ造りの建物が増えている。キオートでもダイハーンでも木造が中心だ。メイゴーヤでも王都でも同じく。城や防壁は石材でできているが、それは防御設備として防御力を高めるためだろう。民家までもがレンガで作られているというのは、ディバイドの特徴ではなかろうか。

 道行く人々の服装も、少し意匠が変わっている。光沢のある生地や、カラフルな模様や、複雑な模様を描く縮緬(ちりめん)など……派手といえば派手なのだが、キオートの上品な感じとも、ダイハーンの騒々しい感じとも違う。あくまで「庶民」の領域で上品さと派手さを追求した感じといえばいいだろうか。

 それらの変化が全体的に「もうここはダイハーンではない」と告げているようだった。

 キョロキョロとあたりを見回しながら歩いて行くと、目にとまるのは民家より遙かに大きな建物だ。前述の通り大型施設が点在している。それがいったい何の施設なのか、と思って看板でも見えないかとキョロキョロしているわけだが。


「おお……! こんなのがあるんだな。」


 と思わず目を奪われた看板に書いてあったのは、博物館や競技場といった文字だ。


「資料館や運動場なんて、別に珍しいものでもないだろう?

 たしかに立派な建物ではあるが。」


 アローが怪訝そうに首をかしげる。

 アロー、お前は分かってないな。資料館と博物館は別物だし、運動場と競技場は別物だ。

 資料を集め、調査研究し、展示しているのが博物館。類義語に記念館や資料館があるが、大雑把に言えば、展示物がない(建物自体が展示物である)のが記念館で、調査研究していないのが資料館だ。

 たとえば英雄の生まれた家がそのまま記念館になっている場合、家の保存が目的になるので屋内に展示物など用意しない。田舎に多い郷土資料館というのも、調査研究なんてしてないので、甚だしい場合には6畳間ほどの部屋にいくつか古めかしい道具が置いてあるだけなんて事もある。俺の出身小学校にも、そんな資料館があった。体育館の横に、器具庫みたいに小さな建物があって……もう何十年も見ていないから詳しく覚えていないが、たぶん建物はプレハブで、中には古い農具が置いてあったと思う。

 運動場と競技場の違いも大きい。運動場というのは、単に運動できるだけの広さがある空き地で、要するに学校のグラウンドみたいなものだ。競技場といったら特定の競技のために設備が用意されている場所だ。最大の違いは、観客席があるかどうかである。まあ、一部には小規模な観客席(ベンチがあるだけ)を備えた運動場もあるが、あれは観客席というより選手や保護者のための待機所だろう。


「いやいや、とんでもない。」


 何を展示しているのか知らないが、博物館は資料の研究と開示を目的とする施設だから、研究のための研究者が必要であり、来訪する市民に幅広い知識を与える。つまり、知識人がすでにそれなりの人数いて、しかもさらに知識人を増やそうとしている。

 また競技場があるという事は、運動が競技として成立している証拠だ。種目はともかく、空き地でやる遊びなんかとは一線を画するレベルのものがあるということ。もしかするとプロスポーツ選手というのも存在するのかもしれない。

 とりわけ重要なのは、これらの施設が住宅地に存在するという事だ。中心地や観光地といった外部の人が大勢集まるような場所ではなく、地元住民しか居ないような住宅地にある。つまり地元住民の中から知識人や競技選手が出る、出そうとしているという事を意味する。

 港みたいに条件が揃った土地だから発展したとか、防壁みたいに必要だから作ったとか、そういう必然的に生じたものではない。また、どこかの金持ちが気まぐれに作った道楽施設というには、数が多すぎる。意図的に、この土地からこういう人材を出そうと画策して、好条件な土地になるように用意された施設だ。

 つまり、ディバイドの領主は人材育成の重要度や有効性を理解している。庶民なんて歯牙にも掛けないキオートの領主と比べると、同じ貴族とは思えない。月とすっぽん、天地の落差だ。


「この様子なら、ディバイドではすぐに仕事が終わりそうだ。」


 さっさと仕事を片付けて、博物館を巡ったり競技場で観戦してみるのもいいだろう。

 この世界の博物館がどんなものを展示しているのか、競技種目はどんなものか、非常に興味深い。

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