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ゴミ70 達人、報告する

 1月20日、午前10時。

 領主を捕縛して、やれやれと思っているところへ、とんでもない報告が入った。


「この状況では命令を遂行する意味がないから白状するが――」


 と現れたのは、領主の下で諜報員のリーダーをやっていたという男だった。

 幽霊やすきま風みたいに音もなく現れた。


「誰だ!?」

「うおっ!? どっから出てきた!?」

「落ち着け、もう敵意はない。」

「あっ、こいつ! 昨日襲ってきた奴だ!」

「なにっ!? 敵か!」

「待て待て! 敵意はもうないって!」


 ドタバタしたあとで、改めて自己紹介を受け、話を聞く。


「ゼルコバを滅ぼす計画がある。中止の命令が出ていないから、今も進行中だ。」

「なんだって!?」

「どうしてそんな!?」

「不利を悟って、世間の目を背けるために大きな騒ぎを起こそうとしたんでしょう。

 まったく、我が兄ながら情けない。守るべき民を犠牲にしてどうしようというのか……。」


 そう思うと、王様に報告して一気に解決を図ったのは、よかったかもしれない。

 世論に訴えてじわじわと辞任に追い込むというのでは、泥沼化して、どこかで犠牲者が出ていたかもしれない。


「魔物を集めて襲わせる計画だから、準備するのに数日はかかる。

 慌てる必要はないが、私をゼルコバに連れていって、私の口から中止を伝えたほうが、あいつらも抵抗しなくて面倒がないだろう。」


 リーダーが言うが、問題は連れていく途中で逃亡される可能性だ。


「よし、そうしよう。」


 答えて俺は、リーダーの首にロープを巻いた。


「破壊不能のロープだ。

 位置は把握できるから、怪しい行動をしたら首が絞まると思え。」


 これで監視と逃亡防止を兼ねる。





 執事が領主の弟――今は領主代理をかばって、4人に刺された。

 まだ生きているが、4カ所も刺されて油断ならない状態だ。

 猫耳商会へ走って、回復薬を買い求め、執事に与えた。


「おお……!」

「なんと……!」


 傷は即座に治り、執事は穏やかに寝息を立て始めた。体力と、失った血液が戻るには、もうしばらくかかるだろう。

 俺は「さすがファンタジーだな」としか思わなかったが、このポーション的な回復薬は、アローや領主代理にとって珍しいものだったらしく、声を上げていた。

 アローに尋ねると、やはりここまでファンタジーな治り方をする回復薬は見たことがないという。普通は血が止まる程度で、傷そのものは早くても数日かかって治るらしい。


「……七味さんの『原種』を使った薬だったか。」


 おそらくエコさん秘蔵の回復薬だったのだろう。

 本来は売り物ではない、七味さんから個人的に与えられたものだったに違いない。あとでエコさんと七味さんにお礼を言わないと……七味さんのほうは手紙を出すか。

 とにかく執事の命が助かってよかった。





 牢屋に入れられた前領主は、もう完全に発狂しているようだ。

 わめき散らし、暴れ回り、手が付けられない状態だという。

 しまいには鉄格子を叩き壊そうとして、自分が傷つくのも構わず素手で殴りつけるので、自傷防止のために枷をはめて動きを封じる必要が出てしまった。


「汚職に手を染めたとか、欲にまみれたとか、そういうレベルじゃないんじゃないか?」

「そのようだな。」

「……兄に何があったのでしょう……?」


 教会から神父を呼んで、解毒、解呪、狂乱や混乱を解除する魔法などを試して貰ったが、効果はなかった。

 他にも何かないかとリクエストして、片っ端から試して貰った結果、シラミやダニなどを退治する虫殺しの魔法をかけると苦しむことが分かった。とりわけ、寄生虫を退治・排除する効果のある魔法をかけると、苦しみ方が強くなった。


「……寄生虫……?」


 カタツムリの話を思い出した。ある種の寄生虫は、カタツムリを宿主として、その行動を操るという。本来は暗く湿った場所を好むカタツムリだが、その寄生虫に寄生されると日光の当たる場所を好むようになる。結果、鳥に補食されやすくなるのだが、これは寄生虫の思惑通りだ。鳥の体内で産卵した寄生虫は、その卵が糞とともに鳥の体外へ排出される。その糞をカタツムリが食べて、またカタツムリに寄生する。

 狂犬病は寄生虫ではなくウイルスだが、この世界では目に見えないサイズの存在はまだ発見されていない。それはともかく、狂犬病も「宿主を操る」という意味では、似たようなものだ。水を恐れるようになったり、光や風を避けるようになったりする。

 カタツムリの場合では、おそらく視力低下を起こすために明るい場所を好むようになるとされている。また狂犬病の場合には、飲み込む筋肉に痛みが走ったり、感覚器官が過敏になることで、水・風・光を避けるようになる。すなわち、寄生虫やウイルスには宿主の本来の機能を弱めたり強めたりする能力があり、それによって宿主は操られてしまうのだ。


「雑な言い方だが、『変なものを食った』か、『変なものに食いつかれた』という可能性が高そうだ。

 寄生虫の駆除魔法が一番効果が強いようだから、苦しむような様子は見せるが、治療としてこれを継続するのがいいだろう。さもなければ、状態はどんどん悪くなると考えていい。」


 経過観察は必要だろうが、それについては領主代理に任せることにしよう。





 以上のことを報告書にまとめて、ゴミ袋を使った直通便で王様に報告した。

 返事が来て、ダイハーンに派遣する調査団に寄生虫退治の専門家を混ぜるとの事だった。

 その調査団は、さぞかし忙しく働くことだろう。証拠書類だけで凄まじい量だったのだから、実態調査となれば、その数十倍の調査資料が出来上がるはずだ。

 問題は、汚職に手を染めていた連中をどうするかだ。一気にクリーンにしようとすると入れ替えるための補充の人員が足りなくなるだろうから、順番にすげ替えていくのだろう。行政サービスが停止してしまう事態は避けなくてはならない。

 まあ、俺の領分ではないから、後はウマくやってくれとしか言えないが。

 そんなこんなで、俺の領分はだいぶ後回しになったが、本来の仕事に戻って、ゴミ処理を開始。

 それからようやく次の街へ出発した。

第3章 完!


明日はキャラクター紹介です。


明後日から第4章開始。

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