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ゴミ07 閑話 スラム街のチンピラ

 世の中は理不尽だ。

 スラム街には、人生に落ちこぼれた連中が集まっている。生産性のない厄介者で、無教養なトラブルメーカーで、おまけに自分で這い上がる力も根性もないゴミみたいな連中……と思われているのは分かっている。分かっているが、それは事実と異なる。

 生産性がないのは仕事がないからで、無教養なのは教育を受ける機会がないからだ。そんな状態で、どうやって自分で這い上がれと? 牢獄に閉じ込めておいて「自分で出られないお前が悪い」とか言われてるようなものだ。

 スラムの住人だって、周囲に迷惑をかけないように頑張っている人が多い。無教養だから、何をしたら迷惑になるのか分かってない奴もいるが。しかし逆に、教会なんかが炊き出しを振る舞うのさえ拒否して、何とか自力で生きようとしている筋金入りの頑張り屋だって居るのだ。だがそんな事は、スラムの住人じゃなければ知らないだろう。

 本当に、世の中は理不尽だ。


 ある日、スラムのガキどもが困った様子で相談してきた。


「最近、変なおっさんが居るんだよぅ。」

「ゴミ拾いをしているおっさんなんだけど……。」


 今までゴミ拾いは、スラムのガキの仕事だった。つまり、そのおっさんはスラムのガキから仕事を取り上げているという事だ。スラムのガキなんて読み書きもできないし、戦う力はもちろん狩猟する力も知識もない。畑なんか持ってないし……つまり、ゴミ拾いの仕事がなくなったら生活に困る。


「どんなおっさんだ?」

「それが……。」


 聞けば、厄介なことに、おっさんのゴミ拾いはスラムのガキどもにやらせるより早くて丁寧らしい。控えめに言って、完璧だそうだ。


「あんなの完璧だよぅ。」

「おっさんが通った後には、ゴミなんて1つも落ちてないんだよぅ。」

「なんか微妙に神々しくなったように見えるぐらいピカピカなんだよぅ。」


 スラムのガキどもから窮状を聞いた俺たちは、おっさんの仕事ぶりを見てみる事にした。そのおっさんが、自宅周辺とかの、一部の場所だけでゴミ拾いをしているのなら、スラムのガキどもにはおっさんが行かない場所のゴミ拾いをさせればいい。

 そう思ってまずは観察してみたのだが――


「……ありゃ、ダメだ。」


 このおっさんはダメだ。街中のゴミを拾い尽くす勢いでゴミ拾いをやっている。控えめに言って、職人である。平たく言ったら達人だ。

 ……ゴミ拾いの達人とか、ちょっと意味が分かんねぇ……。


「あんなの、絶対おかしいだろ……!?」


 おっさんのゴミ拾いにかける気持ちは本物だ。それは伝わってくる。見たことない服装だが、その厚手の生地が「作業中にうっかり怪我をしないように」という意味なのは分かる。それに、体の動きを邪魔しないようにデザインされているらしい。

 立体裁断だったか? アサシンとかのマジでヤバい連中が使う服や、貴族みたいな金持ちが着る服だけだ、あんな高度な技術を使った服なんて。スラム街の住人(ただのチンピラ)には荷が勝ちすぎる。近衛騎士団に素手で挑むようなもんだ。


「なんで、あんな……あんなもんを、ゴミ拾いに使ってんだよ……!」


 あのおっさんは絶対おかしい。一番おかしいのは、あの謎の袋だ。恐ろしく薄い素材でできていて、風に吹かれてなびくほど柔らかくて軽いことが分かる。おまけに、突っ込んだゴミが消えている。魔法の鞄だ。

 特殊な魔法を付与して、見た目より大きな容量を持たせた鞄。その「特殊な魔法」を使える奴が少なくて、生産量が少ない希少品である。容量によって値段は違うが、小さいものでも金貨じゃ100枚あっても買えない。大金貨とか白金貨とかが必要なレベルだ。つまり、小さいもので新築一戸建てが買えるぐらいの値段、ちょっと大きいものになれば城が買えるぐらいの値段である。

 そんな超高級品を作る技術なのだ。そんな超高額商品なのだ。当然ちょっとやそっとじゃ壊れないように頑丈な鞄をベースにするものだ。それを……あんな薄っぺらくて破れやすそうな代物を、魔法の鞄にするなんて、頭おかしいんじゃねえか? しかもゴミを入れるって……狂ってるとしか思えねぇ。

 いや、待てよ……。

 重要なのはあの袋だけだ。あれがなければ、おっさんは拾ったゴミを持ちきれずに、ゴミ拾いを諦めるしかないはずだ。壊れやすそうな素材とはいえ、魔法の鞄となりゃ、売れば高値がつくはずだ。それでスラムのガキどもが食いっぱぐれた分を返してもらうとしよう。

 よし、仲間を集めて「強襲! ひったくり大作戦!」の始まりだ。





 ……そんなふうに思っていた時期が、俺にもありました。

 何だよ、あれ……。あり得ないだろ……。

 所有者から離れたら中身がぶちまけられるとか……そんなウルトラ機能、聞いた事ねぇ。盗難防止か? 中身がゴミじゃなくてお金とか高級品とかだったらどうするんだ?

 殴っても効かない布の服とか……殴った感触はしっかりあったのに、防御力上昇とかの魔法でも掛けてあったのか? いや、でも布の服にそんな魔法使っても大した効果はないはずじゃ……? たしか、元の防御力を1.2倍するとか、そんな効果だったよな……?

 極めつけに、あの変な棒だ。魔法をつまんで投げ返すなんて……そんなの絶対あり得ないだろ!

 あー……空が青い……。世の中って理不尽だなぁ……。

うんちく スラムのガキのゴミ拾い

 当然だが領主(行政)はスラムの住人を何とかしたい気持ちがある。美観を損ねるから排除したいと思うのか、死蔵された人材を何とか活用できないかと思うのか、そのあたりは領主によって異なるが、この街の領主は少なくとも「飢えて死んでも知らん顔」という人物ではないようだ。

 そのため冒険者ギルドを通してゴミ拾いの仕事を出している。報酬は極端に安くて、普通の冒険者なら引き受けないが、スラム街では十分に買い物ができる値段となる。

 スラム街の物価が安い理由は、日本みたいにNPO法人の手助けがあるとかではなく、材料の仕入れに費用がかからないからだ。つまり、ゴミ拾いの仕事で拾ってきたゴミから様々な物資を作るのである。そのため、スラムの子供によるゴミ拾いは「使えそうなゴミ」を狙って拾う形になり、街の清掃としてはあまりにも不十分である。

 とりわけ食糧などは、ゴミ拾いの仕事とは別に、飲食店の廃棄物などをゴミ箱を漁って持っていくのがメインの調達法となる。飲食店としては、行政の指示通りにきちんと捨てるようにしているのに、ゴミ漁りの被害に遭うとカラスにやられたように散らかされてしまう。

 その上、ゴミ漁りが散らかしたゴミを、ゴミ拾いが片付けるというトンデモな自給自足(?)が発生している。スラムの住人が自分でゴミを散らかして、自分で片付け、それで収入を得ているわけだ。しかもその収入源というのが、元をたどれば税金である。

 そういった事から、スラムの住人はそれ以外の住人からは嫌われる傾向にある。

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