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ゴミ68 達人、襲われる

 1月19日、午後3時40分。

 領主の弟の家で、ダイハーンにはびこる汚職の証拠書類を受け取っていた俺たちは、いきなり黒ずくめの集団に襲われた。

 ドアと窓を同時に破って乱入してきた黒ずくめは、全部で10人。

 物も言わずに俺たちに襲いかかり、ナイフを突き刺そうとしてきた。


「うわっ!?」


 未経験ではないにしても、戦闘に慣れているとはいえない俺は、咄嗟に反応できず、飛び掛かってきた3人の黒ずくめに一斉に突き刺された。

 ……ような格好になった。

 実際には、突き飛ばされたと表現するのが精一杯だ。


「びっくりしたなぁ。」


 ゴミ拾いLV3。ゴミ拾い用具が破壊不能になる。この効果で、ゴミ拾い用の装備として着用していた作業着や軍手も破壊不能になっている。突き飛ばされるような衝撃は受けるが、ナイフは作業着を貫通できず、俺は無傷だった。


「「……!?」」


 黒ずくめの集団が驚いた様子で俺を見る。

 とりあえず、こいつらは敵という事で……。


「旦那様! ぐはっ!?」


 執事が領主の弟をかばって刺されていた。

 しかも相手は4人だ。


「ロープ!」


 ゴミ袋に収納していたロープが飛び出し、黒ずくめ10人に襲いかかる。

 ゴミとして捨てられていて回収したロープだが、木の枝など棒状のゴミをまとめるのに使えるから、ロープもゴミ拾い用具だ。技能の効果で破壊不能になる。相手がゴミではないからパワーは弱くなるが、グルグル巻きでも何でもとにかく絡みついてしまえば破壊不能。動きを封じられるはずだ。

 しかし敵も俺の能力は承知の上なのか、いきなり飛び掛かったロープにうまく対処してきて、なかなか縛れない。

 アローも不慣れな接近戦で苦戦中だ。目がいいから何とか対処しているが、明らかにこういう戦いに慣れている黒ずくめと比べると、身のこなしが全然違って素人丸出しだ。

 というか、ロープとアローを同時に相手にして、まだ攻撃する余裕がある黒ずくめが半端ない。俺のほうも、黒ずくめに攻撃されて、火ばさみを振り回すぐらいしかできていない。しかも命中しないのだ。振ったときには、もう軌道上から逃げられている。まるで攻撃を直前で予知されているような気がしてくる。

 実際にそうなのだろう。詳しい事は知らないが、人間の動きには予備動作というものがある。腕が肩から生えている以上、腕を動かそうとすれば必ず肩の筋肉も動く。視線も重心も動くはずだし、どこがどう動いたらどういう攻撃が来るということを知っていて、それらを見て取れば、直前の予知みたいな真似ができるのだろう。

 こんな事なら、オーレさんが居るうちに接近戦の手ほどきでも受けておくんだった。1つだけでも剣の振り方を覚えておけば……いや、覚える時間などないだろうが、せめて知っておけば、振り回す火ばさみが偶然1発ぐらい当たるかもしれないのに。


「浩尉! 米だ!」


 アローが叫ぶ。

 分かっている。分かっているが、やりたくないのだ。どう考えても痛そうだから。

 だが、闇雲に抵抗しても攻撃が当たらない上に、一方的に攻撃を浴びてしまう。ロープの数を増やす手もあるが……すでに実行しているのだが、棚が邪魔でロープの動きが制限されるために、あまり効果的ではない。

 そうすると、やはり、やるしかないのだろう。


「伏せろ!」


 領主の弟と黒ずくめの間へ飛び込み、領主の弟に背を向けて、俺は自分の腹に爆裂白米の矢を突き立てた。

 先端のつぼみが即座に爆発し、大量の白米が飛び散る。


「ぐほあっ!?」


 やはり……だ。

 予想通りの凄まじい衝撃が俺の腹を襲った。いくら作業服が破壊不能といっても、布製だ。柔らかく曲がる。衝撃までは防げない。

 しかし、覚悟しておいたおかげか、横隔膜が麻痺して呼吸できないというような事にはならなかった。内臓にダメージはなさそうだ。ただ単に痛いだけ。それはそれでつらいのだが……。


「「……っ!?」」


 俺の体――破壊不能の作業服が盾になって、領主の弟と執事には攻撃が届かない。

 アローは素早く遮蔽物の陰に隠れた。

 残ったのは黒ずくめだ。鉢植えから枝をもぎ取って腹に当てるという謎行動に、そこから何が起きるかを予想できた奴は居ないようだ。破片手榴弾のように爆発して飛び散った白米の直撃を受けて、黒ずくめ10人がまとめてダメージを受ける。


「大丈夫か?」


 黒ずくめが怯んだ隙に、アローは壁や天井を駆け抜けて俺のそばへ飛んできた。

 ちょっと返事をするのがつらい。

 だまって鉢植えを差し出した。

 アローは枝をむしって矢を放つ。ろくに狙わずに放っているが、大した問題ではない。

 バンッ! バンッ! と続けざまに爆発が起きて、白米が飛び散り、黒ずくめが吹き飛んだりよたついたりしている。

 枝はむしったそばから再生するので、いくらでも発射できる。


「た、退却! 退却だ!」


 黒ずくめの1人が叫び、10人全員が逃げていった。

 少し足を引きずるようにして逃げていく奴もいて、後に残った光景を見ると、中には出血した奴もいたらしい。

 ちょうど腹の痛みも治ってきて、俺は箒とちりとりのゴミを取り出して、飛び散った米と窓ガラスを掃除した。

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